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69 爆弾発言
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クロイスが、爆弾発言をした。
「俺の前世は、クロードなんだ」
「……はい?」
思わず聞き返す。冗談を言ってんじゃないかと思ったけど、俺をじっと見つめるクロイスの顔は真剣そのものだ。そして相変わらずこいつの雄は俺の股の間に挟まっている。いい加減出せよ。
俺が眉間に皺を寄せてじっと見ていると、クロイスの眉が不安そうに垂れてきた。
「……クロードのこと、覚えてない?」
「馬鹿、覚えてるに決まってるだろ! 俺の大切な仲間だった男だぞ!」
「よかった……!」
一気に顔を近付けると、はむはむと唇ごと食べられる。あっという間に舌が入り込んできて、俺の歯茎をなぞっては唾を呑んでいった。こいつ、こんな濃厚な口づけを一体どこで覚えたんだろう。
暫くくちゅくちゅした後、クロイスが名残惜しそうに離れていく。唇の間に渡った銀糸がエロい以外の言葉が思いつかない。
クロイスはそれをぺろりと舌で舐め取ると、話を再開した。
クロードの生まれ変わりだなんてにわかには信じがたい話だけど、何がどうしてそう思うに至ったのかは知りたい。なので俺は、遮ることなく話を聞くことにする。
「はじめの頃は、記憶は断片的だった。ビイと何かしている時にふと思い出すことが多かったな。それが段々夢にも見るようになって、オレの師匠に教わったことや厄災を倒すまでの道中での出来事も、細かい部分まで思い出せるようになった」
クロードの師匠。クロードは幼い頃に顔にある竜の痣のせいで親に捨てられ、隠居していた森の賢者に拾われ育てられた。
確かに話の齟齬はない。ただ、当時の文献を漁れば出てくる可能性はある内容ではある。
クロイスが、俺の髪に指を通し、優しく梳いていく。
「ビイの髪の毛を切るのは、クロードであるオレの役目だったでしょ。オリヴィアは案外不器用だし、ロイクはビイの双剣を研いでたから、この役目はどうしても譲れなかった」
「え……っ」
思い出す。ロイクの戴冠式前に、十歳だったクロイスが頑なに俺の髪の毛を切ると言い張ったことを。
そしてあの時切られた長さは、クロードが知る髪の長さだったことを。
「……でも、それだけじゃ」
「うん、証拠としては足りないよね」
クロイスは俺の髪を撫でつけながら、考えるようにぽつりと言った。
「あとは……厄災討伐が終わったら、故郷に家族と元仲間の墓を作りたいって言ってたでしょ」
「……!」
いま待て俺。確かにそうだけど、この話はついこの間こいつにもしたぞ。
「オレも一緒に行く予定だったのにできなかったから、ずっとどうなったのか気になっていたんだ。だけどビイは昔の話をするとすぐに話を逸したから、うまく聞けなくて」
オレも一緒に行く予定だった。クロイスの言葉に目を見開く。……いやいや、オリヴィアとロイクはこの話を知っている。そこから伝わって思い込んだ可能性だってあるぞ。
「……厄災討伐の頃の話は、しても楽しいもんじゃなかったからな」
途中まではよかったんだ。それがロイクに抱かれるようになり、最後にはクロードが俺を死なせない為に犠牲になってしまった。どこで選択肢を間違えたのか考え始めると迷路から出られなくなる気がして、俺はあの時のことを思い出すことを極力避けていた。
「戦争に行く前あたりにでも行ったのかなって思うことにしてたんだ。だけどまさか行けてなかったなんて思ってもなかった」
「……引き止められるんだよ」
「ねえ、ビイ」
「ん?」
クロイスの灰色の綺麗な瞳が、俺を真っ直ぐに見つめる。そういえば、こいつはいつだって俺を真っ直ぐに見ていたなあ。あれって俺に恋してたからだったのかと考えると……俺、結構接触したり一緒の布団で寝たり、油断だらけというか無防備というか。よくこのエロ小僧が性欲を抑えられていたもんだ。
いや、抑えていたからこそのこの爆発力なのかもしれないぞ、と思ったけど、とりあえず今はそれを横に置いておくことにした。どうも股の間に異物が挟まっている状態だと、考えがそっちに行ってしまう気がする。
「オレとロイクが最後に何を話したのか、ロイクからは聞かされてない?」
「いんや……聞けるような関係じゃなくなっちまったし」
「突き飛ばしてビイにしてもない誘惑を二度とするなって言うなんて、最低だよね」
「だよなー? お前もそう思うだろ?」
「うん」
クロイスの父親の話をしているのがいまいち違和感満載だったけど、ここに関しては俺は譲れなかった。
あの、手のひらを返したような急激な態度の変化。何がどうしてそうなったのか、なのに何故未だに俺を縛り付けておこうとするのか。俺にはさっぱり理解できず、ずっと俺の腹の底に不満が燻り続けていたのだ。
クロイスの静かな顔をじっと見つめる。
「……お前がその答えを持っていたとしても、ロイクから聞かされた可能性はあるぞ」
「じゃあ話の内容でロイクがそれを話すかどうか判断してもらうしかないね」
どういうことだと考え、すぐに思い至った。ロイクは激しく外面がいい。自分の評判が落ちるようなことは、する筈がないのだ。
王太子、ひいては国王になるのが一貫してあいつの目的だった。俺を突き放したのも、オリヴィアを騙したのも、クロードが竜の穴に入るのを引き止めなかったのも、全部あいつがその夢を叶えたかったからだ。
そして晴れて念願の地位と名声を手に入れたロイクは、なんとしてでも今の状況を守ろうとしている。それがあいつの生きていく意義だからだ。
生まれてから勇者に選出されるまでの間、奴は竜の痣のせいで不遇の時期を過ごさざるを得なかった。ロイクは、いつか自分が蔑まれずに人々からも父王からも認められ尊敬されるのを夢見てきたんだろう。その為に厄災討伐も頑張った。
そんなロイクにとって不都合なのは、心の広い聖人君子である自分が他者に嘲笑されたり凡人だと見られることなんじゃないか。ロイクは執着心を表立って見せることは絶対にしない。縋ることも、表向きはしない。
こいつも人の子だったのだと馬鹿にされるのを厭うからだ。
つまり、クロードがあの時持ちかけた『契約』の内容は、矜持の高いロイクにとって公にすることが難しい内容、とクロイスは言いたんだろう。
「どんな内容か、聞かせてみろ」
俺にのしかかっていたクロイスの肩を押すと、俺は隙間から抜け出して座る。
「ちゃんと聞く。お前もちゃんと話せ」
「――分かった」
クロイスも起き上がると、床に落ちていた下履きを魔法で呼び寄せ、ようやく下半身をしまう。クロイスのシャツも呼び寄せると、俺の肩にそっとかけた。俺は剥き出しか。
シャツのボタンを止めてギリギリ股間を隠すと、背筋を伸ばしてクロイスに向き直った。
「俺の前世は、クロードなんだ」
「……はい?」
思わず聞き返す。冗談を言ってんじゃないかと思ったけど、俺をじっと見つめるクロイスの顔は真剣そのものだ。そして相変わらずこいつの雄は俺の股の間に挟まっている。いい加減出せよ。
俺が眉間に皺を寄せてじっと見ていると、クロイスの眉が不安そうに垂れてきた。
「……クロードのこと、覚えてない?」
「馬鹿、覚えてるに決まってるだろ! 俺の大切な仲間だった男だぞ!」
「よかった……!」
一気に顔を近付けると、はむはむと唇ごと食べられる。あっという間に舌が入り込んできて、俺の歯茎をなぞっては唾を呑んでいった。こいつ、こんな濃厚な口づけを一体どこで覚えたんだろう。
暫くくちゅくちゅした後、クロイスが名残惜しそうに離れていく。唇の間に渡った銀糸がエロい以外の言葉が思いつかない。
クロイスはそれをぺろりと舌で舐め取ると、話を再開した。
クロードの生まれ変わりだなんてにわかには信じがたい話だけど、何がどうしてそう思うに至ったのかは知りたい。なので俺は、遮ることなく話を聞くことにする。
「はじめの頃は、記憶は断片的だった。ビイと何かしている時にふと思い出すことが多かったな。それが段々夢にも見るようになって、オレの師匠に教わったことや厄災を倒すまでの道中での出来事も、細かい部分まで思い出せるようになった」
クロードの師匠。クロードは幼い頃に顔にある竜の痣のせいで親に捨てられ、隠居していた森の賢者に拾われ育てられた。
確かに話の齟齬はない。ただ、当時の文献を漁れば出てくる可能性はある内容ではある。
クロイスが、俺の髪に指を通し、優しく梳いていく。
「ビイの髪の毛を切るのは、クロードであるオレの役目だったでしょ。オリヴィアは案外不器用だし、ロイクはビイの双剣を研いでたから、この役目はどうしても譲れなかった」
「え……っ」
思い出す。ロイクの戴冠式前に、十歳だったクロイスが頑なに俺の髪の毛を切ると言い張ったことを。
そしてあの時切られた長さは、クロードが知る髪の長さだったことを。
「……でも、それだけじゃ」
「うん、証拠としては足りないよね」
クロイスは俺の髪を撫でつけながら、考えるようにぽつりと言った。
「あとは……厄災討伐が終わったら、故郷に家族と元仲間の墓を作りたいって言ってたでしょ」
「……!」
いま待て俺。確かにそうだけど、この話はついこの間こいつにもしたぞ。
「オレも一緒に行く予定だったのにできなかったから、ずっとどうなったのか気になっていたんだ。だけどビイは昔の話をするとすぐに話を逸したから、うまく聞けなくて」
オレも一緒に行く予定だった。クロイスの言葉に目を見開く。……いやいや、オリヴィアとロイクはこの話を知っている。そこから伝わって思い込んだ可能性だってあるぞ。
「……厄災討伐の頃の話は、しても楽しいもんじゃなかったからな」
途中まではよかったんだ。それがロイクに抱かれるようになり、最後にはクロードが俺を死なせない為に犠牲になってしまった。どこで選択肢を間違えたのか考え始めると迷路から出られなくなる気がして、俺はあの時のことを思い出すことを極力避けていた。
「戦争に行く前あたりにでも行ったのかなって思うことにしてたんだ。だけどまさか行けてなかったなんて思ってもなかった」
「……引き止められるんだよ」
「ねえ、ビイ」
「ん?」
クロイスの灰色の綺麗な瞳が、俺を真っ直ぐに見つめる。そういえば、こいつはいつだって俺を真っ直ぐに見ていたなあ。あれって俺に恋してたからだったのかと考えると……俺、結構接触したり一緒の布団で寝たり、油断だらけというか無防備というか。よくこのエロ小僧が性欲を抑えられていたもんだ。
いや、抑えていたからこそのこの爆発力なのかもしれないぞ、と思ったけど、とりあえず今はそれを横に置いておくことにした。どうも股の間に異物が挟まっている状態だと、考えがそっちに行ってしまう気がする。
「オレとロイクが最後に何を話したのか、ロイクからは聞かされてない?」
「いんや……聞けるような関係じゃなくなっちまったし」
「突き飛ばしてビイにしてもない誘惑を二度とするなって言うなんて、最低だよね」
「だよなー? お前もそう思うだろ?」
「うん」
クロイスの父親の話をしているのがいまいち違和感満載だったけど、ここに関しては俺は譲れなかった。
あの、手のひらを返したような急激な態度の変化。何がどうしてそうなったのか、なのに何故未だに俺を縛り付けておこうとするのか。俺にはさっぱり理解できず、ずっと俺の腹の底に不満が燻り続けていたのだ。
クロイスの静かな顔をじっと見つめる。
「……お前がその答えを持っていたとしても、ロイクから聞かされた可能性はあるぞ」
「じゃあ話の内容でロイクがそれを話すかどうか判断してもらうしかないね」
どういうことだと考え、すぐに思い至った。ロイクは激しく外面がいい。自分の評判が落ちるようなことは、する筈がないのだ。
王太子、ひいては国王になるのが一貫してあいつの目的だった。俺を突き放したのも、オリヴィアを騙したのも、クロードが竜の穴に入るのを引き止めなかったのも、全部あいつがその夢を叶えたかったからだ。
そして晴れて念願の地位と名声を手に入れたロイクは、なんとしてでも今の状況を守ろうとしている。それがあいつの生きていく意義だからだ。
生まれてから勇者に選出されるまでの間、奴は竜の痣のせいで不遇の時期を過ごさざるを得なかった。ロイクは、いつか自分が蔑まれずに人々からも父王からも認められ尊敬されるのを夢見てきたんだろう。その為に厄災討伐も頑張った。
そんなロイクにとって不都合なのは、心の広い聖人君子である自分が他者に嘲笑されたり凡人だと見られることなんじゃないか。ロイクは執着心を表立って見せることは絶対にしない。縋ることも、表向きはしない。
こいつも人の子だったのだと馬鹿にされるのを厭うからだ。
つまり、クロードがあの時持ちかけた『契約』の内容は、矜持の高いロイクにとって公にすることが難しい内容、とクロイスは言いたんだろう。
「どんな内容か、聞かせてみろ」
俺にのしかかっていたクロイスの肩を押すと、俺は隙間から抜け出して座る。
「ちゃんと聞く。お前もちゃんと話せ」
「――分かった」
クロイスも起き上がると、床に落ちていた下履きを魔法で呼び寄せ、ようやく下半身をしまう。クロイスのシャツも呼び寄せると、俺の肩にそっとかけた。俺は剥き出しか。
シャツのボタンを止めてギリギリ股間を隠すと、背筋を伸ばしてクロイスに向き直った。
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