勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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67 ファビアンの長い話

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 いよいよ俺の話を話す段階になって、お互いフリチンで真面目な話もないだろうとさすがに服を着させてもらうことになった。

 そういえば、寝ている間に銀色のリボンは解かれていた。師匠を縛って抱く弟子ってどうなんだ。

 だけど。

「……あーあのさ、話しにくいんだけど」
「ん? どうして?」

 クロイスはキョトンとした顔になったけど、キョトンじゃねえ。綺麗な顔でキョトンとされると、俺が間違ってるみたいに思えちゃうだろ。

「いやさ、大事な話をする体勢じゃないのは分かるよな?」

 寝台の背もたれにもたれたクロイスの胡座の中に横向きですっぽり収められているのは、おっさんの俺だった。な、真剣な話をする体勢じゃないだろう。

 でも、クロイスは眉を下げると俺をきゅっと引き寄せてしまった。

「オレの腕の中にいて。不安だから」

 唇が耳に当たってる! 話しにくいから! 暫くジタバタ抵抗を試みたけど、結局は抱き寄せられてチュッチュされるだけなので、やがて諦めた。

「全く……」

 結局俺はすぐに絆されるんだ。あーあ。

 俺はせいぜい偉ぶる為に、ビシッと人差し指をクロイスの鼻に押し付けた。

「いいかクロイス! 聞きたくなくなったらいつでも止めろよ! お前にとってはその……いい話じゃないからさ」
「ビイの過去は何でも知りたいよ。聞かせて」
「……後悔するなよ」
「しないよ」

 散々勿体ぶったけど、俺はとうとうクロイスに英傑として選ばれた頃から順序立てて、あったことを全てクロイスに語り始めたのだった。



 厄災討伐の最中からロイクに抱かれるようになった話をした時、嫌悪か怒りのいずれかの感情が見られるかと思った。だけど、反応は全く予想だにしないものだった。

 クロイスは、「そういうことか……」と呟いた後は、無表情になってしまったのだ。あ、あれ? 案外普通だな。

 自分の父親と現恋人の俺が大人な関係だったことを、もしかしたら予想してたんだろうか。驚きは見られなかった。

 少し安心した俺は、クロードが犠牲になってしまった後に突然拒否されたこと、なのにひとりで故郷に向かおうと思ったらロイクに自分のものだと言われて驚いたことも話す。

 アルバンと出会ってようやく愛し合うとは何かを知ったこと、だけどアルバンが前線送りになり、道中で俺を好きだった奴らが全員殺されたことを話して涙ぐんだ時は、クロイスは俺の頭を撫でてくれた。

 アルバンのかたきを打つ為に前線に行ったけど、司令官がいなかったりして大変だったこと。そしてやってきたラザノに取り憑いていた亡霊がアルバンだったことを伝えると、耐え切れず声を詰まらせた俺をクロイスはそっと抱き締めてくれた。

 自分を鼓舞して、続きも伝える。

 アルバンを昇天させる為にセルジュに憑依させて抱かれて、そこからセルジュと恋仲になっていったこと。俺はセルジュがいたから辛い戦争も乗り越えられたことは、懐かしくて微笑みながら伝えることができた。

 セルジュとのことは、これまで誰にも話すことがなかった。これが正真正銘初めてだ。セルジュの思い出を語ったら泣いてちゃんと喋られないんじゃないかと思っていたけど、泣かずにいられてちょっとびっくりした。

 俺は、ちゃんとセルジュのことは消化できていたんだ。

「俺はセルジュの魂を引き止めてなかったかな。あいつはちゃんと昇天できたのかな」
「うん。きっとできてるよ」

 微笑んだ俺に、同じように微笑んだクロイスがそっと唇を重ねた。

「それで……セルジュが死んで、俺も向こうの兵に刺されて遅れて死ぬつもりでいたんだけど……」

 意識が朦朧とする中に現れたロイクが語った言葉。今でもあれは一字一句覚えている。

「あいつはこう言ったんだ。『弱い人間はね、皆先に死んでしまうんだよ。ファビアンの隣にいて死なないのは、強い私だけなんだ』って。だから俺は、あいつが俺から愛した人間を奪って絶望を味わせて、あいつしかいないって思わせるのが目的なんだって、ようやく分かった」
「――うん」

 自分の父親の非道を聞かされているというのに、クロイスの表情は殆ど変わらなかった。俺を気遣う気配は感じるけど、ロイクが黒幕だったと知って驚いた様子がないのだ。……こいつまさか、気付いていたとか?

 それでもオリヴィアの手前、ロイクを直接責められなかったこと。何年も干渉がなくてもう大丈夫なのかなと油断した戴冠式の後、鍛錬場でされたこと。あれは今思い出してもおぞましい。

 あの時初めて、自分の子供を俺を引き止める材料に使った。人間として狂ってやがる。

 だけどそのことを聞いても、クロイスは「うん」としか言わなかった。――それだけ? 親子の情愛とかはいいのか?

「それで、最後にこの間……」

 便所まで追いかけられ咄嗟に抵抗できなかったことと、クロイスとの関係を疑われ、はっきりとそういう関係であったら「殺す」と口にしたことまで伝えると、最後に俺はぺこりと頭を下げた。

「あの衣装な……俺が自分で破いたんだ。申し訳ない」
「……ビイを狙ってる奴の名前を言わずに、オレが狙われてるって伝える為に?」
「うん……」

 さすがに怒ってるよな。上目遣いでクロイスの目を探すと、突然クロイスに後頭部を引き寄せられ、ぶちゅっと唇を奪われる。

「んんっ!?」

 口の中に舌を突っ込まれ、腕ごと身体をぎゅっと締め付けられて、苦しい。苦しくて気持ちよくて、ぼうっとしてきてしまう。

「クロ……ん……っ」

 自分からも舌を絡め始めると、クロイスが頬を嬉しそうに緩ませたのが分かった。

 暫くくちゅくちゅと深い口づけを堪能した後、クロイスがゆっくりと顔を離す。俺たちの唾で濡れた唇をテカらせながら、クロイスはしれっと言った。

「じゃあ、一回させれくれたら許してあげる」

 クロイスを軽く睨む。どれだけヤりたい盛りなんだ、このエロ王子は。まあそういう年齢だろうけど。

「ちょっと待てよ。お前の話がまだだろ?」

 言っている傍から、クロイスはスルスルと俺の服を剥いでいく。聞いちゃいねえ。

「一回の後、する」

 あーもう。

「一回だからな?」

 そう言いながらも、俺もクロイスの首に腕を回してるんだからどうしようもない。だって、十何年ぶりに相思相愛の相手ができたんだ。もうロイクの野郎を何とかしないといけないのが決まってしまった以上、抱かれるのを拒否する意味はもうない。

 俺の若い恋人は、舌でぺろりと唇を舐めると言った。うーん、狙われてる感満載だ。

「うん、とりあえずは一回ね」

 俺はとりあえずの意味はあえて聞かなかったことにした。

 クロイスはあっという間に剥かれた俺をゆっくりと布団の上に下ろすと、幸せそうな吐息をつきながら俺の上に乗ってきたのだった。
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