勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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58 疑い※

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 ロイクは俺のケツに股間を押し当てると、ハアハアいやらしい吐息を俺に吹きかけていた。

 だけど、遠くから宰相がロイクを探す声が聞こえてくると、いきなり前を剥き出しにして隣の便器の前に移動する。

 すると突然、俺の手をバッと掴んだ。問答無用でロイクの雄を握らされると、上から馬鹿力で握り締められる。

 ゾワワワッと強烈な悪寒が込み上げてきた。

「……なにしやがんだよっ!」

 腕を引っこ抜こうと動かすと、固い棒の上を皮膚がぬるりと滑って泣きそうになる。

 ロイクは欲情を剥き出しにした表情を俺に向けると、堂々とのたまった。

「ごめん、ちょっと手伝って。急がないと見られちゃうよ」

 そのまま盛大に扱くと、便器に向かって精を吐き出しやがった。

 物凄く久々に見るロイクの赤黒い雄は相変わらず凶暴そうで、それが射精と共にビクン、ビクンと俺の手の中で動く度に、嫌悪を感じた。

 ふうー、と満足げな息を吐いたロイクが、ようやく俺の手を離す。

「ファビアン、ありがとう」
「……っざけんな!」

 手を振りかざそうと上げると、ロイクはスッと避けて便所から出ていってしまった。

 振り上げた手の行き所をなくし、手の中に生々しく残る猛った雄の感触を今すぐ洗い流したくなる。

 手洗い場の水瓶に柄杓を突っ込むと、これでもか、と手が赤くなるくらいに洗った。



 このままクロイスに何も言わず去るのはさすがに拙い。

 クロイスは俺とロイクのおぞましい関係なんて知らない方がいい。だけど、ロイクは勘違いをしてクロイスを一瞬だけでも疑ってしまった。

 一度感じた疑念は、あいつの妄想の中でいつ再熱するか分かったもんじゃない。

 たとえ事実でなくとも、俺に対してクロイスが恋愛感情を抱いていると、クロイスは実の親に殺される道を歩むことになる。

 クロイスの好意は恋愛感情じゃない。仲のいい兄に対するような親愛の情だ。だけど、少しでも疑われてしまったら、クロイスが危険に晒される。

 旅に必要な道具を次々と買い込みながら、俺はぐるぐると考え続けた。

 このまま、また次の機会が訪れるまでヒライム王国に残ろうか。いや、それよりも俺がクロイスを置いていったと示せば、ロイクは怒り狂うだろうけどクロイスに対する疑いは晴れるんじゃないか。

 だけどどうする。俺はこんな残酷なことをクロイスに伝えたくはなかった。

 ハッと気付く。

 そうだ、だったら「誰が」の部分を伏せて、俺が好かれることを好まない人間がいるとだけ伝えてみようか。

 アルバンとセルジュの墓が俺の屋敷の敷地内にあることに関して、双子が俺に理由を尋ねてきたことは一度もなかった。だけど、二人が俺にとって大切な人だったというのは理解している筈だ。

 敏いクロイスのことだから、俺が愛した人間だと薄々気付いているんじゃないか。

「とにかく話をするしかない……!」

 俺はグッと唇を噛み締めると、荷物を抱えて家に急ぎ戻った。



 今夜あたり、クロイスが来るんじゃないか。

 俺の予想は的中して、辺りが静けさに包まれた深夜になると、カチャリと玄関の扉が当然のように開かれた。勿論施錠はしている。

「――あれ? ビイ?」

 玄関前の広間でクロイスを待ち構えていた俺は、クロイスの元気な顔を見て思わず力が抜ける。

「ビイ!」

 ふらりと倒れそうになってしまった俺を支えると、クロイスは心配そうに俺の顔を上から覗き込んだ。

「ビイ、どうしたの? 顔色がよくない」

 どう切り出そう。なんて言えばクロイスは納得してくれるだろう。

 頭がぐちゃぐちゃになってしまって、二十歳も年下のクロイスの腕の中で口をパクパクするしかできない。

「ビイ、落ち着いて。大丈夫だよ、大丈夫……」

 クロイスは心配そうに眉を垂らすと、俺の頭を撫で始めた。

 ――クロイスは初めから俺の頭を撫でてたよなあ。

 三歳の時、死にたがっていた俺の前に突然現れて無垢な愛情を向けてくれた双子の片割れ。俺はこいつらがいなけりゃ、とっくに狂っていただろう。

 だから死なせたくない。こんな馬鹿なことで、大事な人を死なせたくはない。

「クロイス……俺の話を聞いてくれ」
「分かった。聞くから、ひとまず部屋に戻ろう」
「ここでいいから、いいから話を……!」

 早く話さないとと焦燥感に襲われていた俺を、「ふう」と息を吐いたクロイスが突然横抱きに抱き上げた。

「わっ」
「ビイの様子がおかしいから、とにかく部屋で横にならなくちゃ」
「クロイス! 離せってば! 話をしなくちゃ! 話を……!」

 バタバタと暴れると、クロイスは俺のおでこにゴチンとクロイスのおでこを当てる。痛い。

 灰色の瞳が差し込んでくる月光をきらりと反射していて、吸い込まれそうな美しさに息を呑んだ。

「ビイ、ちゃんと聞く。でもビイの様子は心配だから、部屋で落ち着いてから聞く。分かった?」
「う……わ、分かった」

 渋々答えると、クロイスは滅多に見せない優しい笑みを浮かべる。

「じゃあ部屋に行こうね」
「いや降ろせよ。普通に歩けるし、おっさんを横抱きにするなよ」
「おっさんて誰のこと?」

 ああ言えばこう言う。クロイスは普段感情をあまり見せない癖に、こういう時は頑固で強引になるんだ。

 それをよく知ってる俺は、仕方なく諦める。

「……さっさと連れてけ」
「うん、ビイ」

 俺を抱えながら軽やかに階段を駆け上がるクロイスを下から見上げていると、何だかでかくなっちまったなあ、と感慨深く思えてきた。

 そりゃもう成人だ。大きくもなるだろうけど、俺と双子とで本を読んでは笑い合った日々はもう過去のものなんだなあと思うと、一抹の寂しさも覚える。

 クロイスはこちらは開けっ放しだった俺の部屋の扉を潜ると、真っ直ぐに寝台に向かい中心に俺をそっと下ろした。

 俺の胸まで布団を掛けると寝台に軽く腰掛けて、俺の頭を撫で始める。……二十歳も年下にしょっちゅう頭を撫でられるおっさん。なんだかなあ。

「クロイス、話なんだけどな」
「うん。聞くよ」

 今度は頷いてくれたので、俺は今日延々と考えてねくり続けた『筋が通ってそうな話』を語り始めた。
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