勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

文字の大きさ
上 下
54 / 89

54 指南役の終了

しおりを挟む
 クリストフの熱心さもあり、クリストフと令嬢は早々に婚約した。

 だけど結婚は、十八歳の誕生日を迎えた後になるんだそうだ。誰が決めたのか知らないけど、立太子の儀は対象者が十八歳の年に行なうのが慣例なんだとか。

 立太子以前に結婚はできないそうなので、必然的に十八歳になるまでは結婚できないってことだ。

 ちなみにクリストフが次期国王になることは、王家の満場一致で決められた。クロイスにやる気が全くないので、議論にすらならなかったんだそうだ。想像ができてちょっとおかしい。

 クリストフは「まあ最初から分かってたよ。やるからにはちゃんとこなしてみせるさ」と大人っぽくなった顔で笑っていた。もしかしたら、クリストフに王太子の自覚を植え付ける為にクロイスはわざとやる気のなさを見せていたのかな、なんて思ったものだ。

 クロイスなら、それくらいしれっとやりかねない。

 ちなみにクロイスはいつ結婚するんだろうと思って尋ねてみたら、「兄より先に結婚できないでしょ?」と薄い笑顔で返されてしまった。どんな相手なのかと周りにそれとなく聞いてみたけど、どうやら婚約者ではないらしい。

 あれ? 婚約者がいないのに昔から相手がいる?

 どういうことだろうと首を傾げたけど、王家には王家の何かがあるのかと思い、深掘りするのは控えた。

 クロイスが毎回言葉を濁すから、まだ大っぴらに言えない理由でもあるんだろう。例えば相手が再婚だとか、子持ちだとか。

 しかし一体いつそんな相手ができたんだろうなあ、水臭いなあなんてちょっと思ってしまったのは、許してほしかった。



 クリストフとクロイスは、ぐんぐん成長していった。今じゃ二人とも俺より頭半分くらい背が高い。

 抜かされた時は、本当に悔しかった。二人とも俺の頭を撫でて「師匠が小さいの可愛いな」って笑うものだから、余計だった。

 おっさんが可愛い訳ないだろ。こいつらは昔からちょっとずれてるんだから。

 剣術の腕も、その辺の奴らじゃ容易に勝てないくらい強くなった。二人とも素直で吸収が早くて、とても教え甲斐のある弟子だったと思う。

 クリストフの魔力量は魔術師になれるほどは多くないけど、ロイクと同じように魔法を剣に纏わせることができた。体つきも戦い方もかつてのロイクに似てきたところが時折「うーん」と思ったけど、やっぱり性格がちょっぴりアレなのでロイクじゃないしな、と思える。

 ロイクの笑顔は作り物だけど、クリストフのはかなり素だから好感が持てた。

 ロイクとは違い、蔑まれないで育てられたから真っ直ぐに育ったのかもしれない。環境が違えば性格も変わるんだなあ、なんて思ったものだ。

 クロイスはというと、純粋な力ではクリストフに負けるものの、秘めた魔力量は歴代王族の中でもずば抜けているんじゃないかと謳われるほどのものだった。

 戦い方も一風変わっていて、魔法攻撃を連続で繰り出されてこっちが手を出せないでいる内に、背後に迫り切りかかってきたりする。

 全く魔法が使えない俺とは二人とも相性が悪くて、剣の腕だけだったら辛うじて俺が勝てても、魔法が混ざるとなんとか引き分けに持っていくので精一杯だった。

 そして、明日はいよいよ十八歳の誕生日を迎えるというこの日、俺は最後の勝負を双子に挑んだ。

 鍛錬場で、双剣をすらりと抜き構える。何年も前に俺が選んだ機能重視の剣を構えた双子が、緊張の面持ちで俺の言葉を黙って聞いていた。

「二人一度にかかってきていいぞ。俺に一太刀浴びせることができたら、卒業だ」
「はい師匠! 頑張ります!」
「卒業……」

 クリストフはやる気満々だけど、クロイスはいまいちやる気が見られない。

「おいクロイス、やる気を出さないと俺だって本気を出すから怪我しちまうぞ?」

 中性的だった綺麗な顔には男らしさが加わり、姿絵が町に出回るほどの美丈夫に育ったクロイスが、不満そうな目を俺に向ける。

「……合格したら、もう相手をしないってこと?」
「クリストフの立太子の儀が終わったら、外交やらなにやらやることになるんだろ?」

 立太子の儀を境に、王族としての務めが激増していくらしい。これまでのように訓練を行なうのが時間的に厳しくなるのは、事前に分かっていたことだ。

 だから俺の指南役の役目は、今日でおしまい。

 この後ロイクがどんな手を使って俺を引き止めにくるかは分からないけど、先日一応希望を聞かれて「ちょっとは休ませてくれ」と答えたら笑って頷いていたから、すぐに何か役職を割り振られることはないと願いたかった。

 クリストフの結婚式は、立太子の儀が終了して三日後に執り行われることになっている。

 クロイスの結婚式も参列してみたかったけど、どうもすぐに結婚する気配はなさそうだ。

 ということで、かなり心残りではあったけど、クリストフの結婚式が終わった夜に闇夜に隠れて出立しようと考えていた。

「まあ、時折は腕が鈍ってないか確認してやるよ」

 だから、これは嘘だ。

 クロイスが、疑い深そうな目で俺を見る。

「約束だよ」
「ああ、分かったって」

 笑顔で返すと、クロイスは小さな息を吐いてようやく頷いた。やれやれだ。

 クロイスは、今でも時折突然夜中にやってきては、俺と語らっていくことをやめない。ここ最近は、帰らずに朝起きて一緒に城に行く始末だ。

 クリストフに婚約者ができて以降、口を開けば婚約者との惚気話ばかりで聞き飽きた、というのがクロイスの理由だ。まあ俺は枯れてるから惚気はしないけど、俺お前の師匠だよ? 二十歳も年上のおっさんだよ? お友達じゃないよ? と何度か言ったものの、あまり効果はなかった。

 大体訪れるのは、その日の用事が全て片付いて城が寝静まる深夜近く。

 城門だって閉まってるだろうにどうやって来てるんだと聞いたら、「魔法って空が飛べるから便利だよね」とさらりと答えられた。空を自由に飛べる魔力の持ち主なんて、そうはいない。

 どうやらクロイスの部屋がある主塔の窓から抜け出して、俺の家の中庭まで飛んできているらしかった。

 で、当然のように施錠された扉を魔法で難なく突破してくる。俺が男根型の大人の玩具を使ってお楽しみの最中だったらどうするんだよ。

 なので、俺が自慰するのはもっぱら日中になってしまった。うーん、雰囲気でねえ。

 尚、クロイスは俺の部屋にやってくると、子供の時と同じように俺の布団に潜り込んでは、俺の顔をじっと見つめながら俺と会話をする。

 正直、超がつくほどの美形で最近男らしさが増してきたから、どうも落ち着かなかった。俺から動かされない視線に思わずドキッとしてしまうことが増えて、俺は自分に「おいこらちょっと落ち着けファビアン」と言い聞かせている。

 顔がよすぎるって罪だよなあ。つくづくそう思った。

 それにしても、子供の時だったらともかく、クロイスだってもういい年齢だ。なのに同じ布団に入って見つめ合いながら語り合っていていいものだろうか。

 クロイスとの距離の取り方がいまいち分からなくて、正直俺は戸惑っていた。

 心を決めた大切な人がいるのに、その人はクロイスが俺の布団に潜り込んで朝まで過ごしていても気にしないんだろうか。

 たとえ同性でも、俺だったら嫌だ。

 こっちは卒業できても、クロイスの夜の訪問は卒業できる気がしなかった。

「とにかく! これはけじめってやつだ! いつまでもダラダラ師弟関係を続けてたってよくないだろ? お前らはこれから先この国を背負っていく立場になるんだからな!」

 所詮俺は他国出身の平民出でしかない。剣聖で厄災を討った英傑のひとりではあっても、貴族連中には面白くないと思っている者もいるのだと知った。

 そして勿論、この二人も俺のそんな立場をよく分かっている。だからこそ、「けじめ」という言葉に二人、特にクロイスは沈黙せざるを得なかったんだろう。

「……分かった」

 二人は真剣な眼差しでこくりと頷くと、俺の教えた通りに剣を構えた。

 そして双子の連携により俺の左腕に付いた傷を以て、俺の指南役の役目は終わりを迎えたのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...