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44 お日様の下に
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それからというもの、ちびっ子双子王子は連日俺の元へ訪れては、俺にまとわりつくようになった。
三歳なんて、お外で遊びたい盛りなんじゃないか? それが毎日俺の部屋に来ては、飽きもせず本を読んでもらったり(俺に)、俺の脇の下で昼寝をしたりしている。毎日欠かさずだ。
オリヴィアはというと、これまで俺に貼り付いていたけど、実は王太子妃の仕事っていうのが溜まりに溜まっていたらしい。現国王は年を取ってきたし、王妃ももう隠居したい気満々で、隙あらばオリヴィアに仕事を引き継がせようとしてきているんだとか。
現国王は死ぬまで現役は嫌だと言っているらしくて、ロイクの王位継承も間近に迫ってるんだそうだ。あいつが国王になるって、大丈夫かこの国の未来。
そんなオリヴィアは、双子といると俺が意地を張り続けられないのを知ると、即座に作戦を変えた。オリヴィアは見た目は儚げだけど、なんせ玉の輿を堂々と宣言していたような奴だ。こういう時の思い切りはとてもいい。腹が立つくらいに。
これまでは俺のことを腫れ物に触るような扱いをしていたのに、今じゃ双子を俺の部屋に届けると、食事や俺へ浄化魔法をかける時だけ顔を出すようになってしまった。この切り替えの速さは、やっぱりオリヴィアだ。昔からちっとも変わっちゃいないのが妙に懐かしくて、苦笑してしまった俺の負けだった。
オリヴィアは、俺に付けられていた足枷もあっさりと取ってくれた。「分かってるわよね?」と笑顔で凄まれて、俺の頬が引きつったのを見てオリヴィアは満足したようだった。
にしても、俺のことを体のいい子守りか何かだと思ってないか。疑問が湧いたけど、肯定されるのも癪だったので聞かなかった。
オリヴィアは「助かるわあー」と言いながらさっさと消えるし、双子は俺の部屋に入った途端布団に飛び乗って俺に抱きついてくるし。……可愛いじゃないか、コンチクショウ。
で、読め読めとしつこいので二人に両脇を挟まれながら読んだ絵本は、冒険のお話だったって訳だ。
「お前らちゃんと外で遊んでるか?」
俺が尋ねると、両脇から袖を掴まれる。毎度のことだ。自分の方を見ろ見ろと、こいつらは主張が激しい。
若干こいつらの父親の強引さを思い起こさせたけど、俺はその考えを無理やり頭の中から追い出した。
金髪の愛想のいいクリストフが、にこにこ笑顔で言う。
「ビイとお外行きたい!」
すると、殆ど笑わない黒髪のクロイスが、心配そうに眉を歪めた。
「でもビイ、まだ痛い痛い?」
胸がキュンと締め付けられるのを懸命に堪えながら、俺は二人の頭を撫でる。あー可愛い。めっちゃくちゃ可愛い。
こいつら、ファビアンが発音できなくて、俺のことをビイって呼ぶんだ。可愛い。もう食べちゃいたいくらい可愛いんだけど。
「傷はもう痛くないよ。だけどさ、もうずっと歩いてなかったから身体が動くかなあ」
俺の言葉を聞いた双子が、パアッと顔を輝かせる。
「じゃあ、ボクがビイのお手て引っ張る!」
「ボクはビイが転んだら痛い痛いの飛んでけする!」
大体最初に喋るのがクリストフで、後から「ううんとうんと」と考えながら喋るのがクロイスだ。クリストフが、提案する。
「今度、お外でお昼ごはん食べようよ!」
「わあい! 賛成!」
双子は俺を見上げると、期待に満ちたキラキラとした目で見つめてきた。……だから俺は、懇願されるのに弱いんだってば。
「……じゃあ、歩く練習から始めないと」
「やったー! ビイ、大好き!」
「ボクの方が、もっと沢山ビイ大好き!」
ちびっこい身体にむぎゅっと抱きつかれ、俺は二人をまとめて腕の中に抱えた。ちびっこい暖かいのが、俺の腕の中でクスクスと嬉しそうに笑うのが堪らない。
「そうだな……外、出ないとな」
こいつらをお日様の下に出してやりたい。それに俺は、未だにセルジュとアルバンの墓参りすらしていなかったから。
「……悪いけど、付き合ってくれるか?」
「うん!」
「悪くないもん、嬉しいもん!」
暖かいなあ。
こんなことで、死にたがってばかりいた俺の心は生きる方向を向いてしまう。元が単純な作りなんだろうなとは自分でも思うけど、可愛いんだから仕方ないじゃないか。
ギリギリだった俺の心に飛び込んできた双子。
可愛い以外にも、俺が「いいかな」と思ってしまう理由がひとつあった。
こいつらは、ロイクの実の息子たちだ。国の王子で、嫉妬を募らせて簡単に殺してしまっていい相手ではない。
それにロイクだって、自分の血を分けた子供になら、馬鹿馬鹿しい独占欲なんて起こらないんじゃないか。
だったら俺は、こいつらに絆されたってきっと大丈夫な筈だ。
今度は殺されない。だから俺が可愛がったって問題ない。
「……ん。頑張るな」
「ビイ、がんばろーね」
「ビイ、チューしてあげる」
「あっ狡いぞクロイス!」
「ビイ、んーっ」
「ボクも!」
両頬にくすぐったい口づけをもらい、俺は数カ月ぶりに何の憂いもなく幸せの笑みを浮かべたのだった。
三歳なんて、お外で遊びたい盛りなんじゃないか? それが毎日俺の部屋に来ては、飽きもせず本を読んでもらったり(俺に)、俺の脇の下で昼寝をしたりしている。毎日欠かさずだ。
オリヴィアはというと、これまで俺に貼り付いていたけど、実は王太子妃の仕事っていうのが溜まりに溜まっていたらしい。現国王は年を取ってきたし、王妃ももう隠居したい気満々で、隙あらばオリヴィアに仕事を引き継がせようとしてきているんだとか。
現国王は死ぬまで現役は嫌だと言っているらしくて、ロイクの王位継承も間近に迫ってるんだそうだ。あいつが国王になるって、大丈夫かこの国の未来。
そんなオリヴィアは、双子といると俺が意地を張り続けられないのを知ると、即座に作戦を変えた。オリヴィアは見た目は儚げだけど、なんせ玉の輿を堂々と宣言していたような奴だ。こういう時の思い切りはとてもいい。腹が立つくらいに。
これまでは俺のことを腫れ物に触るような扱いをしていたのに、今じゃ双子を俺の部屋に届けると、食事や俺へ浄化魔法をかける時だけ顔を出すようになってしまった。この切り替えの速さは、やっぱりオリヴィアだ。昔からちっとも変わっちゃいないのが妙に懐かしくて、苦笑してしまった俺の負けだった。
オリヴィアは、俺に付けられていた足枷もあっさりと取ってくれた。「分かってるわよね?」と笑顔で凄まれて、俺の頬が引きつったのを見てオリヴィアは満足したようだった。
にしても、俺のことを体のいい子守りか何かだと思ってないか。疑問が湧いたけど、肯定されるのも癪だったので聞かなかった。
オリヴィアは「助かるわあー」と言いながらさっさと消えるし、双子は俺の部屋に入った途端布団に飛び乗って俺に抱きついてくるし。……可愛いじゃないか、コンチクショウ。
で、読め読めとしつこいので二人に両脇を挟まれながら読んだ絵本は、冒険のお話だったって訳だ。
「お前らちゃんと外で遊んでるか?」
俺が尋ねると、両脇から袖を掴まれる。毎度のことだ。自分の方を見ろ見ろと、こいつらは主張が激しい。
若干こいつらの父親の強引さを思い起こさせたけど、俺はその考えを無理やり頭の中から追い出した。
金髪の愛想のいいクリストフが、にこにこ笑顔で言う。
「ビイとお外行きたい!」
すると、殆ど笑わない黒髪のクロイスが、心配そうに眉を歪めた。
「でもビイ、まだ痛い痛い?」
胸がキュンと締め付けられるのを懸命に堪えながら、俺は二人の頭を撫でる。あー可愛い。めっちゃくちゃ可愛い。
こいつら、ファビアンが発音できなくて、俺のことをビイって呼ぶんだ。可愛い。もう食べちゃいたいくらい可愛いんだけど。
「傷はもう痛くないよ。だけどさ、もうずっと歩いてなかったから身体が動くかなあ」
俺の言葉を聞いた双子が、パアッと顔を輝かせる。
「じゃあ、ボクがビイのお手て引っ張る!」
「ボクはビイが転んだら痛い痛いの飛んでけする!」
大体最初に喋るのがクリストフで、後から「ううんとうんと」と考えながら喋るのがクロイスだ。クリストフが、提案する。
「今度、お外でお昼ごはん食べようよ!」
「わあい! 賛成!」
双子は俺を見上げると、期待に満ちたキラキラとした目で見つめてきた。……だから俺は、懇願されるのに弱いんだってば。
「……じゃあ、歩く練習から始めないと」
「やったー! ビイ、大好き!」
「ボクの方が、もっと沢山ビイ大好き!」
ちびっこい身体にむぎゅっと抱きつかれ、俺は二人をまとめて腕の中に抱えた。ちびっこい暖かいのが、俺の腕の中でクスクスと嬉しそうに笑うのが堪らない。
「そうだな……外、出ないとな」
こいつらをお日様の下に出してやりたい。それに俺は、未だにセルジュとアルバンの墓参りすらしていなかったから。
「……悪いけど、付き合ってくれるか?」
「うん!」
「悪くないもん、嬉しいもん!」
暖かいなあ。
こんなことで、死にたがってばかりいた俺の心は生きる方向を向いてしまう。元が単純な作りなんだろうなとは自分でも思うけど、可愛いんだから仕方ないじゃないか。
ギリギリだった俺の心に飛び込んできた双子。
可愛い以外にも、俺が「いいかな」と思ってしまう理由がひとつあった。
こいつらは、ロイクの実の息子たちだ。国の王子で、嫉妬を募らせて簡単に殺してしまっていい相手ではない。
それにロイクだって、自分の血を分けた子供になら、馬鹿馬鹿しい独占欲なんて起こらないんじゃないか。
だったら俺は、こいつらに絆されたってきっと大丈夫な筈だ。
今度は殺されない。だから俺が可愛がったって問題ない。
「……ん。頑張るな」
「ビイ、がんばろーね」
「ビイ、チューしてあげる」
「あっ狡いぞクロイス!」
「ビイ、んーっ」
「ボクも!」
両頬にくすぐったい口づけをもらい、俺は数カ月ぶりに何の憂いもなく幸せの笑みを浮かべたのだった。
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