勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

文字の大きさ
上 下
44 / 89

44 お日様の下に

しおりを挟む
 それからというもの、ちびっ子双子王子は連日俺の元へ訪れては、俺にまとわりつくようになった。

 三歳なんて、お外で遊びたい盛りなんじゃないか? それが毎日俺の部屋に来ては、飽きもせず本を読んでもらったり(俺に)、俺の脇の下で昼寝をしたりしている。毎日欠かさずだ。

 オリヴィアはというと、これまで俺に貼り付いていたけど、実は王太子妃の仕事っていうのが溜まりに溜まっていたらしい。現国王は年を取ってきたし、王妃ももう隠居したい気満々で、隙あらばオリヴィアに仕事を引き継がせようとしてきているんだとか。

 現国王は死ぬまで現役は嫌だと言っているらしくて、ロイクの王位継承も間近に迫ってるんだそうだ。あいつが国王になるって、大丈夫かこの国の未来。

 そんなオリヴィアは、双子といると俺が意地を張り続けられないのを知ると、即座に作戦を変えた。オリヴィアは見た目は儚げだけど、なんせ玉の輿を堂々と宣言していたような奴だ。こういう時の思い切りはとてもいい。腹が立つくらいに。


 これまでは俺のことを腫れ物に触るような扱いをしていたのに、今じゃ双子を俺の部屋に届けると、食事や俺へ浄化魔法をかける時だけ顔を出すようになってしまった。この切り替えの速さは、やっぱりオリヴィアだ。昔からちっとも変わっちゃいないのが妙に懐かしくて、苦笑してしまった俺の負けだった。

 オリヴィアは、俺に付けられていた足枷もあっさりと取ってくれた。「分かってるわよね?」と笑顔で凄まれて、俺の頬が引きつったのを見てオリヴィアは満足したようだった。

 にしても、俺のことを体のいい子守りか何かだと思ってないか。疑問が湧いたけど、肯定されるのも癪だったので聞かなかった。

 オリヴィアは「助かるわあー」と言いながらさっさと消えるし、双子は俺の部屋に入った途端布団に飛び乗って俺に抱きついてくるし。……可愛いじゃないか、コンチクショウ。

 で、読め読めとしつこいので二人に両脇を挟まれながら読んだ絵本は、冒険のお話だったって訳だ。

「お前らちゃんと外で遊んでるか?」

 俺が尋ねると、両脇から袖を掴まれる。毎度のことだ。自分の方を見ろ見ろと、こいつらは主張が激しい。

 若干こいつらの父親の強引さを思い起こさせたけど、俺はその考えを無理やり頭の中から追い出した。

 金髪の愛想のいいクリストフが、にこにこ笑顔で言う。

「ビイとお外行きたい!」

 すると、殆ど笑わない黒髪のクロイスが、心配そうに眉を歪めた。

「でもビイ、まだ痛い痛い?」

 胸がキュンと締め付けられるのを懸命に堪えながら、俺は二人の頭を撫でる。あー可愛い。めっちゃくちゃ可愛い。

 こいつら、ファビアンが発音できなくて、俺のことをビイって呼ぶんだ。可愛い。もう食べちゃいたいくらい可愛いんだけど。

「傷はもう痛くないよ。だけどさ、もうずっと歩いてなかったから身体が動くかなあ」

 俺の言葉を聞いた双子が、パアッと顔を輝かせる。

「じゃあ、ボクがビイのお手て引っ張る!」
「ボクはビイが転んだら痛い痛いの飛んでけする!」

 大体最初に喋るのがクリストフで、後から「ううんとうんと」と考えながら喋るのがクロイスだ。クリストフが、提案する。

「今度、お外でお昼ごはん食べようよ!」
「わあい! 賛成!」

 双子は俺を見上げると、期待に満ちたキラキラとした目で見つめてきた。……だから俺は、懇願されるのに弱いんだってば。

「……じゃあ、歩く練習から始めないと」
「やったー! ビイ、大好き!」
「ボクの方が、もっと沢山ビイ大好き!」

 ちびっこい身体にむぎゅっと抱きつかれ、俺は二人をまとめて腕の中に抱えた。ちびっこい暖かいのが、俺の腕の中でクスクスと嬉しそうに笑うのが堪らない。

「そうだな……外、出ないとな」

 こいつらをお日様の下に出してやりたい。それに俺は、未だにセルジュとアルバンの墓参りすらしていなかったから。

「……悪いけど、付き合ってくれるか?」
「うん!」
「悪くないもん、嬉しいもん!」

 暖かいなあ。

 こんなことで、死にたがってばかりいた俺の心は生きる方向を向いてしまう。元が単純な作りなんだろうなとは自分でも思うけど、可愛いんだから仕方ないじゃないか。

 ギリギリだった俺の心に飛び込んできた双子。

 可愛い以外にも、俺が「いいかな」と思ってしまう理由がひとつあった。

 こいつらは、ロイクの実の息子たちだ。国の王子で、嫉妬を募らせて簡単に殺してしまっていい相手ではない。

 それにロイクだって、自分の血を分けた子供になら、馬鹿馬鹿しい独占欲なんて起こらないんじゃないか。

 だったら俺は、こいつらに絆されたってきっと大丈夫な筈だ。

 今度は殺されない。だから俺が可愛がったって問題ない。

「……ん。頑張るな」
「ビイ、がんばろーね」
「ビイ、チューしてあげる」
「あっ狡いぞクロイス!」
「ビイ、んーっ」
「ボクも!」

 両頬にくすぐったい口づけをもらい、俺は数カ月ぶりに何の憂いもなく幸せの笑みを浮かべたのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

続きは第一図書室で

蒼キるり
BL
高校生になったばかりの佐武直斗は図書室で出会った同級生の東原浩也とひょんなことからキスの練習をする仲になる。 友人と恋の狭間で揺れる青春ラブストーリー。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...