勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

文字の大きさ
上 下
43 / 89

43 双子の王子

しおりを挟む
 なに、この二匹のちびっこいの。

 俺が目を大きく開いて固まっていると、黒髪に灰色の瞳の男の子が俺の顔に顔をぐっと近付けてきた。無表情が怖い。

 と、金髪碧眼の方が俺の顔を両手で挟み、自分の方に向けようとする。いて、首捩れるって。

 今度は黒髪の方が眉を顰め、負けじと俺の顔を両手で挟んで自分の方に引っ張り始めた。いた、痛い痛い。

 すると、オリヴィアが怖い顔をして子供たちを叱り始めた。

「こら! クリストフ! クロイス! ファビアンは怪我人なのよ!」
「あ、まさかこいつらオリヴィアの子……?」

 話題に出さないからすっかり忘れていたけど、そういやオリヴィアは双子の母親だった。双子の王子が生まれたって聞いたのは、聖国マイズ内を進軍の最中。もう三年近く前の話だ。

 ――そっか、もうそんなに経ってたんだな。

 オリヴィアが苦笑する。

「ええ、そうよ。騒々しくてごめんね? 自分たちもファビアンの所に行きたいって言って聞かなくて。――こら! ファビアンの首がもげちゃうからやめなさい!」

 もげはしないけど、前後にぎぎぎ、と同時に引っ張られるのは頬の皮膚が引きつれて普通に痛い。いたた、こいつらちびっこい癖に力強くないか。

「こらー! 痛い痛いしちゃダメでしょー!」

 オリヴィアの叱り方が意外で、ああ、ちゃんと母親をやってんだなあなんてちょっと感心してしまった。

 改めて、ちびっこ二人を見てみる。

 金髪碧眼の方は、色合いがロイクっぽい上に面影があって、一瞬心臓が嫌な風にドキッとしてしまった。だけど、俺の頬を挟んだままにっこにこに笑っている姿を見ている内に段々と、「あ、別人じゃないか」って思えてくる。

 なんて言うか、作為のない無邪気な笑顔だったから。まあ、三歳程度の子供の笑顔にロイクみたいな作られた聖人君子面が見えたら、とんでもなく嫌すぎるけど。

「にーちゃ、おでこ痛い痛い?」
「おでこ?」

 相手がロイクだったら会話はおろか目を合わせるのだってごめんだったけど、こいつはあいつの血を引くとはいえ幼い子供だ。オリヴィアにしていたような子供っぽい態度を取り続けるのも気が引けて、つい普通に問い返してしまった。

 金髪碧眼が、コクコクと頷く。動作がどこからどう見ても子供だからか、ロイクの面影がどんどん消えていくように思えた。

「ここ、痛そう」

 金髪碧眼はようやく俺の顔から手を離すと、再び俺の眉間を指で伸ばし始める。……あ、ここに皺を寄せていたから、それで痛がってるって思っちゃったのかな?

「ええと……」

 なんて言うべきか。痛くないよって言った方がいいのかな。でもじゃあ何で皺を寄せてたんだとか聞かれたら、それはそれで面倒な気もする。

 俺が返事に窮していると。

 金髪碧眼が「痛いの痛いのー飛んでいけっ」と言ったかと思うと、俺の眉間にちゅ、と口づけをしてきた。うおっ。

 子供特有のなんとなく甘ったるい柔らかさに、俺は反応できず固まってしまう。

「クリストフずるい!」

 すると突然、黒髪の方が怒り出したじゃないか。え、ここって怒るところ? よく分かんねえ……と思っていたら。

 さっきの無表情から一転、ぶすっとした表情に変わった黒髪が、俺の頬を挟む手に力を入れる。こっちはちっともロイクに似てないけど、なんかとんでもなく綺麗な顔をした子だった。オリヴィア似なのかな? 金髪碧眼のクリストフっていう方に比べると、かなりの女顔だ。

「ボクだって負けないもん!」
「あっ! クロイスずるい!」

 俺の顔は思い切り黒髪の方に向けられ、俺の首がゴキッと鳴った。痛い。

「痛いの痛いのー飛んでいけっ!」と言いながら、黒髪は俺の唇に唇をぶちゅっと押し当てる。

 うわ、口も顔も手も全部ちっこい。ぎゅってなってる顔が可愛いんだけどコイツ。

「やだ! クロイスってば何してるのよ!」

 オリヴィアが慌てて止めようと飛んできたけど、クロイスと呼ばれた黒髪は「ぶふーっ!」と息を隙間から吹き出しながら、更に唇を押し付けてきた。

 ……おいおい、何やってんだこのちびっ子。

 ていうか二人とも、さすがはあの手の早いロイクの息子だよな。会って僅かしか経ってないのに、おでこと唇を奪われたんだけど。

 それでも、跳ね除けるのも何だか可哀想で、俺がそのまま固まっていると。

 ようやく顔を離したクロイスが、小首を傾げた。

「……にーちゃ、痛い痛いの飛んでいった?」
「お、おう……」

 すると、クロイスの女の子みたいな可愛らしい顔に、ぱああ、と初めて見るこれまた可愛らしい笑みが広がる。

「ボクのヨシヨシ、上手だった!?」
「お……おう」

 と、今度はクリストフが俺の顔をぐきっと自分の方に向けた。俺の首、大丈夫かな。

「ボクだって!」

 うーっと窄められたちっこい唇が迫ってくる。

 ……あ、もうダメ。

「く……っ」
「ファビアン?」

 オリヴィアが目をまん丸くして俺を見ていた。ちびっ子たちは、キョトンとしている。

「く、くく……っ! はは、あはははっ!」

 子供なんて、卑怯だろ。意地を張ってた俺の方が子供みたいじゃないか。

「はは、ふふふ……っ! う、ううう……っ」
「……にーちゃ、やっぱり痛い痛い?」

 クリストフが眉を垂らす。

「ぎゅっとするの」

 クロイスが、俺の首に抱きついてきた。

「ぎゅーっ」

 クリストフもくっついてくる。

「ぎゅーっ」
「あ……ああ、うわあああ……っ!」

 気付けば俺は両腕にちびっ子二人を抱き、誰よりも子供みたいに泣いて泣いて泣きまくっていたのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...