勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

文字の大きさ
上 下
34 / 89

34 未来を夢みる※

しおりを挟む
 前線へやってきて、八ヶ月が経った。

 ようやくヒロイム王国全土から集められた兵が砦に集結した為、いよいよ明日は砦を出、聖国マイズへと進軍していくことになる。

 実は少し前まで、軍の総司令官であるロイクが前線に来て号令をかけるのではという噂もあった。

 俺はロイクに会いたくなくて、あいつが来ませんようにと毎日祈り続けた。アルバンを殺すように命じたかもしれないロイクの顔を見た瞬間、殴りかかってしまう自信しかなかったからだ。そしてそれは、自殺行為に等しい。

 俺とロイクの間にあった事実を知るのは、俺たち以外にはセルジュのみ。周りは皆、ご立派な勇者で王太子のロイクの味方をするに決まっている。

 俺がロイクに逆らってもセルジュは当然俺の味方をするだろうから、俺とセルジュが引き離されている間にセルジュに手を下されてしまう危険は避けなければならなかった。

 幸い、俺の祈りが通じたのか、ロイクは前線まで来ることはなかった。どうやらオリヴィアの体調がよくないらしい。

 オリヴィアは、妊娠し安定期に入ったにも関わらず、悪阻が酷くて寝込んでいるんだとか。彼女の元を離れるのは忍びないと、ロイクは俺に全軍出撃の号令をかけるように伝書で依頼してきやがった。

「本当あいつ、俺を都合よく使うよな」
「会わずに済んでよかったと思いましょう」

 苦笑するセルジュの渋い顔は、俺の腕の中にある。俺はセルジュの顔を見て、汗だくの頬を緩ませた。そうだ、今はあいつのことは忘れたい。眼の前にいるのはセルジュなんだから。

 俺は今、胡座を掻いて座っているセルジュに向き合って腰を上下に動かしている真っ最中だった。

 敵国に入ったら、次はいつゆっくりと休めるか分かったもんじゃない。絶対今夜は抱かれるんだと主張する俺の我儘に応えて、セルジュは晩飯後すぐから俺を抱いてくれていた。

「まあなー。セルジュを見て『もしやこいつ』とか思われるのも嫌だもんな……んっ」

 と、俺の胸に腕を回したセルジュが、俺の胸の突起をちゅぷりと口に含む。

 しばらく吸った後、舌先で転がしながら、セルジュは俺を上目遣いの熱が込められた目で見た。セルジュが俺を見る目は、いつだって火傷しそうなくらいに熱い。

「……ファビアン様を前にして、何も想っていない顔など今更できません。ファビアン様に執着しているあの方なら、私をひと目見て私の想いを見抜く可能性は高いですしね」
「セルジュ……」

 セルジュの両腕が俺の膝裏に通されたかと思うと、両手で俺のケツを鷲掴みにして、いきなり持ち上げた。宙吊り状態になった俺を、膝立ちしたセルジュが下からガンガン突き始める。

 あまりの快感に、俺はしがみつくだけで精一杯だった。

「んはっ! あっ、やば、ひんっ、セルジュ、セルジュ……!」
「私はっ、ファビアン様のお側をっ、何があろうと離れませんっ!」

 ハッハッと荒い息は繰り返しているものの、俺を持つ腕は震えもしない。さすがは騎士団長だ。

「あっ、激し、んんっ、――はあっ!」
「ファビアン様、愛しております……!」

 ぐちょぐちょと卑猥な音が天幕内に鳴り響く中、俺はセルジュの唇に自分のそれを重ねた。すぐにセルジュの口が開いて、俺から伸ばされた舌を食む。

「んふ……っんん……っ」

 気持ちよくて脳みそが蕩けていって、俺は思ったままの言葉をうわ言のように呟いていった。

「セルジュ、好き、俺も好き、愛してる……っ」

 すると、セルジュがハッと息を呑む。グズ、と鼻を鳴らすと、これまでよりも早く俺を突き始めた。

「ああ、このセルジュ、もういつ死んでも悔いはございません……っ」
「死ぬなってば」
「はは……そうでしたね」

 セルジュの溢れ出した涙を唇で掬うと、塩っぱい。

 愛されてるなあ。多幸感が俺の中に満ちていった。

 勿論、アルバンを二度も失ったすぐには、俺の心にセルジュを愛すだけの余裕は残されていなかった。だけどセルジュはあの日の誓いの通り、少しずつ俺の心の空虚を献身的な愛で埋めていってくれたのだ。

 アルバンを愛していた俺を丸ごとそのまま愛してくれたセルジュを、いつしか俺は大切な恋人として愛するようになっていた。

 セルジュに揺さぶられながら、俺は二人の未来を語る。

「なあ、この戦いが終わったらさ、王都のアルバンの墓参りに行きたい」
「お供します」

 セルジュの即答に、俺は喜びの笑い声と共に嬌声を漏らした。

「ん……っ、そうしたらさ、騎士団の特別顧問は辞職するんだ」
「では私も辞職します」

 しちゃうんだ。

「そうしたら、今度こそ故郷に戻って、両親と昔の仲間の墓を立てるんだ」
「勿論お供します。まさか置いていこうなんて考えてないですよね?」
「へへ……嬉しいな。……あっ、あっ、あっ!」

 その頃には、ロイクにも可愛い子供が生まれているだろう。だから今度こそ、きっと俺への執着は終わりを迎える筈だ。

 下からの熱杭の突き上げに、俺はどんどん高みへと登っていく。

「俺、自由になってセルジュと笑顔で暮らすんだ……っ」
「ファビアン様、お供します……!」

 セルジュは俺の龍の痣が巻き付く二の腕を力強く掴むと、俺がイクと同時に俺の中に熱を放ったのだった。

 ――そして翌日、俺たちは聖国マイズへと進軍した。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...