勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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19 勇者と鬼ごっこ※

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 俺はアルバンにねだって、ギリギリまで抱いてもらった。

「いいな、腹壊した作戦だからな! 俺が到着するまで絶対……っあっ、んっ、――んはあっ」

 俺が気持ちよさに喘ぐと、アルバンは俺の唇に嬉しそうにアルバンのものを重ねる。柔らかくて優しくて、アルバンの口づけは大好きだ。

 アルバンは熱が籠った目を細めながら、口の端を可愛らしく上げる。

「エロい剣聖様にまた会いたいから、そうする。約束する」

 アルバンの言葉に満面の笑みになった俺は、更におねだりをすることにした。

「うん、あ、はあ……っ。もっと痕付けて、痕……っ」
「本当にこの剣聖エロいんだけど」
「あっあっあっ……アルバン、もっとお……!」
「ファビアン、ファビアン……!」

 こんな風にひと晩中アルバンに足も腕も絡ませて、俺の中に熱を何度も放ってもらった。それが一昨日の夜から昨日の朝にかけての話で、昨日の朝、とうとうアルバンは前線に旅立った。

 だから今日はその熱が隣になくてちょっぴりどころじゃなくて凄い寂しいけど、俺は今日何としてでも前線行きを勝ち取る気でいる。

 セルジュと並び、勇ましく謁見の間へと向かった。

「いくぞ、セルジュ!」
「気合い入ってますね」

 セルジュは相変わらず一定だ。怒ったり笑ったりないのかな。

「当然だ!」
「ご立派です」

 セルジュはきっと俺を何か凄い剣聖みたいに思ってくれているから、本当のことは言えない。だけど頼りになる相棒ではある。一応騎士団長だけあって、強いしな。

 ところが。

「はあっ!? 延期?」

 俺の情けない声が、謁見の間の閉じられた扉の前で鳴り響いた。

「申し訳ございません」

 ハゲの宰相が静かに頭を下げる。眩しい。

「理由は何なのですか」

 セルジュも困惑しているのか、眉間に皺を寄せている。

「詳しいことは、私にも。とにかく、次回は三日後とのことです」

 さらりと答える宰相に、俺はブチ切れた。

「ふっざけんな! その間にどれだけの人間が死ぬと思ってんだよ!」

 すかさずセルジュが援護する。

「宰相閣下。ファビアン様は兵たちの戦況を聞き、状況を憂いているのです。何卒お取次ぎを」
「しかし……ロイク様のご都合が……」

 やっぱりあいつか。俺はこめかみに血管を浮き上がらせると、「ロイクはどこだ!」と城内を探し回り始めた。

 だけど、ロイクが捕まらない。「先程まであちらに」と言われてセルジュと向かうと、今度は「馬場の方へ行かれると」と言われる。走って馬場に向かうと、もう城に戻ってしまったと聞き、城へ戻ると今度は町の孤児院に視察に出かけたときた。

「あいつ……っ! 絶対わざとだな!」

 勇者然として微笑みながらこの鬼ごっこを楽しむロイクの姿が脳裏に浮かび上がり、俺は怒り心頭に発する。俺をずっと手元に置きたいんだろうが、そうは行かない。

 夕暮れ時。王都中の孤児院を探し回り、やっと見つけた該当の孤児院で先程立ち去ったと聞いて、俺はその場で膝を付いた。俺にそっと水袋を差し出す汗だくのセルジュから受け取ると、ギロリとセルジュを睨む。

 セルジュは何も悪くない。分かっちゃいるが、当たれる人間がセルジュしかいないから仕方ない。

 セルジュが、渋い顔を更に渋くさせながら尋ねてきた。

「……どうされますか?」

 俺は若いし竜の痣を持つ英雄なだけあって、体力には自信がある。汗まみれになりながらも一日俺についてこれたセルジュは、さすがは騎士団長なだけあった。

「……一箇所だけ、絶対捕まえられる場所がある」

 俺の言葉に、セルジュが珍しく目を見開いた。



「剣聖様! こちらは王太子ご夫妻の寝所でございます! 何卒お引き取りを!」
「うるせえ。あいつらまだ結婚してねえだろ! 結婚前からもうパコパコやってんのかよ! ロイクの奴、節操ないにも程があるんじゃねえか?」
「剣聖様! お言葉をお控え下さいませっ」
「うっせえっつってんだろ! そもそも俺はこの国の人間じゃねえっつーの! 王太子に不敬だとか何とかなんて知らないし!」

 豪華絢爛なロイクの寝所の扉を守る近衛兵が、扉の前で胡座を掻いて座り込みを始めた俺に懸命に訴えていた。勿論俺は聞く気はない。

 奴だって寝る。ここ以外で寝たら、結婚直前の王太子が何やってんだって話になるから、絶対にここで寝る。あいつはそういう奴だ。

 困り果てた様子の近衛兵に、俺の横で姿勢よく直立しているセルジュが告げた。

「悪いが、こうなったファビアン様はテコでも動かない。諦めてくれ」
「騎士団長様まで!」

 泣きそうな近衛兵には悪いけど、今日中にあいつを捕まえるにはここで待つのが一番確実だ。俺がギロリと近衛兵を睨みつけると、近衛兵は泣きそうな顔で項垂れた。
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