勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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13 終わった筈なのに

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 驚いた顔のオリヴィアに、苦笑を向ける。

「だって知ってるだろ、俺の目的は」
「そ、そうだけど……」
「ここから行けば近いしさ、もう魔物はいないんだからひとりでも大丈夫だし」
「まあ……それはそうよね……」

 困った様子のオリヴィアだったけど、納得できる内容だったのか、賛成に回り始めた。

 俺の故郷は、人間がいなくなってしまったとはいえ、今俺たちがいるこの地だ。俺の今後の目的は家族とかつての仲間の墓を作ることだったから、わざわざ他国に凱旋に寄るのは時間の無駄だ。

 そこにロイクとの思い出の地を辿るという苦行が加わることで、俺の意思は完全にここで二人と別れる方へと傾いていた。

 笑顔を無理やり作って、二人を見る。

「な? だから二人とは、ここでお別れしようと思うんだ」
「ファビアン……」

 だけど、ロイクの返答は短かった。

「だめだ」

 表情は強張り、俺を独占しようとしていた時の顔を思い起こさせる。……意味が分からない。俺を拒否した奴がなんでそんな顔をしてるんだよ。

 俺は意地になってきていた。勝手に始めて勝手に終わらされて、俺はずっと振り回されただけだったじゃないか。

 なのに関係が終わった後も、俺のことをそういう顔で縛るのかよ。ふざけんじゃねえ。

「いや、だめだって言われても、ここから直接向かう方が近いから」
「報奨金や勲功がある。まずはそっちが優先だ」

 有無を言わせない笑顔できっぱりと言われてしまい、俺は黙り込む。

 ロイクの手を握るオリヴィアが、ロイクに追従した。

「そうよファビアン。今後の生活のこともあるし、まずは一旦討伐完了の報告をしに戻りましょう。報奨金と勲功をもらえたら、旅だってきっと楽になるわよ」
「でも……」

 すると、ロイクが勇者の微笑みをたたえながら続ける。

「ファビアン、私たちはクロードという大切な仲間を失ったばかりじゃないか。ここで君とまで別れるのは寂しすぎる」
「そうよファビアン! ね、先のことは戻ってから考えたらいいわよ。きっとその頃には、今よりももう少し冷静になれていると思うし。ね!」

 オリヴィアの悪意のない懇願に、俺は返事に窮してしまった。

 懇願されるのに、俺は弱いんだよ――。

「……ん、分かったよ……」

 渋々頷くと、ロイクとオリヴィアがホッとした様子で微笑み合う姿が見えた。

 ――その日の夜。

 もう用足しをしてもロイクに抱かれることはない。俺は寂しさと安堵と困惑とという不思議な感情を覚えながら、草むらに向かって放尿していた。

 すると、背後からガサッと音が聞こえる。ロイクは来る筈もないし、オリヴィアが見たら悲鳴を上げていそうだ。動物でもいるのかな、と振り返ると。

「――ッ!」

 真後ろに立って背中越しに俺の股間を見下ろしていたのは、ロイクだった。

「なっ、何してるんだよっ!」

 だけど放尿はすぐには止まらない。何故かロイクは何も言わない。

「見るな馬鹿!」

 とにかく身体の向きを変えてロイクの目線から俺の雄を隠すと、ようやく尿は止まってくれた。女性がいると、なかなか大胆にその辺でできないから溜まるんだよな。

 ガサゴソと下穿きを整えながら、しかめ面でロイクを振り返る。

「……何? 何か用?」

 尋ねても、ロイクは無表情のまま何も答えない。

「用がないなら俺は戻るから」

 ロイクも用足しにきただけか。ロイクの横をすり抜けようとすると、手首を掴まれ捻り上げられた。

「いたっ! 何すんだよ!」

 ギロリとロイクを睨むと、ロイクが端正な顔を俺に近付ける。……無表情が怖いんだけど。

「な、何……?」
「私は言った筈だ」
「は? 何を?」

 ロイクの顔は無表情に見えた。だけど、よくよく見てみると、目の中に見えるのは――まさか、怒りだろうか。でもなんで?

 ロイクの言動の意味がさっぱり分からなくて、顔を顰める。と、ロイクが低い声で言った。

「ファビアンは私だけのものだ。誰にも渡さないと言った筈だ」
「は……?」

 言っている意味が分からなくて、間抜けな声が出る。

「私から離れようとするな。分かったな」
「は? ちょっと待てよ、ロイク!」
「話はそれだけだ」
「はあっ!?」

 俺の手首を離すと、ロイクはスタスタと元来た方向へと先に戻ってしまった。

「……は?」

 困惑と少しばかりの恐怖に動けなくなった俺は、しばしその場に立ち尽くしていたのだった。
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