勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

文字の大きさ
上 下
13 / 89

13 終わった筈なのに

しおりを挟む
 驚いた顔のオリヴィアに、苦笑を向ける。

「だって知ってるだろ、俺の目的は」
「そ、そうだけど……」
「ここから行けば近いしさ、もう魔物はいないんだからひとりでも大丈夫だし」
「まあ……それはそうよね……」

 困った様子のオリヴィアだったけど、納得できる内容だったのか、賛成に回り始めた。

 俺の故郷は、人間がいなくなってしまったとはいえ、今俺たちがいるこの地だ。俺の今後の目的は家族とかつての仲間の墓を作ることだったから、わざわざ他国に凱旋に寄るのは時間の無駄だ。

 そこにロイクとの思い出の地を辿るという苦行が加わることで、俺の意思は完全にここで二人と別れる方へと傾いていた。

 笑顔を無理やり作って、二人を見る。

「な? だから二人とは、ここでお別れしようと思うんだ」
「ファビアン……」

 だけど、ロイクの返答は短かった。

「だめだ」

 表情は強張り、俺を独占しようとしていた時の顔を思い起こさせる。……意味が分からない。俺を拒否した奴がなんでそんな顔をしてるんだよ。

 俺は意地になってきていた。勝手に始めて勝手に終わらされて、俺はずっと振り回されただけだったじゃないか。

 なのに関係が終わった後も、俺のことをそういう顔で縛るのかよ。ふざけんじゃねえ。

「いや、だめだって言われても、ここから直接向かう方が近いから」
「報奨金や勲功がある。まずはそっちが優先だ」

 有無を言わせない笑顔できっぱりと言われてしまい、俺は黙り込む。

 ロイクの手を握るオリヴィアが、ロイクに追従した。

「そうよファビアン。今後の生活のこともあるし、まずは一旦討伐完了の報告をしに戻りましょう。報奨金と勲功をもらえたら、旅だってきっと楽になるわよ」
「でも……」

 すると、ロイクが勇者の微笑みをたたえながら続ける。

「ファビアン、私たちはクロードという大切な仲間を失ったばかりじゃないか。ここで君とまで別れるのは寂しすぎる」
「そうよファビアン! ね、先のことは戻ってから考えたらいいわよ。きっとその頃には、今よりももう少し冷静になれていると思うし。ね!」

 オリヴィアの悪意のない懇願に、俺は返事に窮してしまった。

 懇願されるのに、俺は弱いんだよ――。

「……ん、分かったよ……」

 渋々頷くと、ロイクとオリヴィアがホッとした様子で微笑み合う姿が見えた。

 ――その日の夜。

 もう用足しをしてもロイクに抱かれることはない。俺は寂しさと安堵と困惑とという不思議な感情を覚えながら、草むらに向かって放尿していた。

 すると、背後からガサッと音が聞こえる。ロイクは来る筈もないし、オリヴィアが見たら悲鳴を上げていそうだ。動物でもいるのかな、と振り返ると。

「――ッ!」

 真後ろに立って背中越しに俺の股間を見下ろしていたのは、ロイクだった。

「なっ、何してるんだよっ!」

 だけど放尿はすぐには止まらない。何故かロイクは何も言わない。

「見るな馬鹿!」

 とにかく身体の向きを変えてロイクの目線から俺の雄を隠すと、ようやく尿は止まってくれた。女性がいると、なかなか大胆にその辺でできないから溜まるんだよな。

 ガサゴソと下穿きを整えながら、しかめ面でロイクを振り返る。

「……何? 何か用?」

 尋ねても、ロイクは無表情のまま何も答えない。

「用がないなら俺は戻るから」

 ロイクも用足しにきただけか。ロイクの横をすり抜けようとすると、手首を掴まれ捻り上げられた。

「いたっ! 何すんだよ!」

 ギロリとロイクを睨むと、ロイクが端正な顔を俺に近付ける。……無表情が怖いんだけど。

「な、何……?」
「私は言った筈だ」
「は? 何を?」

 ロイクの顔は無表情に見えた。だけど、よくよく見てみると、目の中に見えるのは――まさか、怒りだろうか。でもなんで?

 ロイクの言動の意味がさっぱり分からなくて、顔を顰める。と、ロイクが低い声で言った。

「ファビアンは私だけのものだ。誰にも渡さないと言った筈だ」
「は……?」

 言っている意味が分からなくて、間抜けな声が出る。

「私から離れようとするな。分かったな」
「は? ちょっと待てよ、ロイク!」
「話はそれだけだ」
「はあっ!?」

 俺の手首を離すと、ロイクはスタスタと元来た方向へと先に戻ってしまった。

「……は?」

 困惑と少しばかりの恐怖に動けなくなった俺は、しばしその場に立ち尽くしていたのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...