12 / 89
12 別れの決意
しおりを挟む
四英傑、いや今や三英傑となってしまった俺たちの凱旋先は、今回の厄災討伐で勇者ロイクを輩出したヒライム王国だ。
ロイクはヒライム王国へ戻れば王太子となり、いずれは国王となる。するとオリヴィアは未来の王妃様ってことだ。
早く地位を盤石なものにしたいのだろうロイクとオリヴィアは、すぐに出発することを提案してきた。
確かにこのまま暗黒竜がいなくなった城にダラダラいても仕方ない。俺は素直に提案に従った。
「魔物がいないなら、早く戻れるだろう」
「行きは魔物だらけだったものね」
微笑み合う二人の後ろに続いて、城門を潜り城の外に出る。俺たちが行きにここを潜った時は、クロードがいた。四人で拳を合わせて厄災討伐後の夢を語ったのは、そんな前の話じゃないのに。
立ち止まり、城を振り向く。クロードの痕跡をギリギリまで探したけど、結局少量の血痕以外は何も見つけることができなかった。服の切れ端も、髪の毛一本すらない。
いつかまた会えるから。必ず会いに行くから待っていてと、クロードは俺に言った。
死んじゃったのに、どうやって会いに来るんだよ。会いに来るなら、今すぐ帰ってきてよ。それで一緒に城を出て、二人で俺の実家に墓を建てに行こうよ。
伝えたい相手は、もうこの世にいない。
「う……っ」
一度は止まった涙が、再び溢れてきた。そんな俺を見て、オリヴィアが眉を下げる。
「……ファビアン、元気を出して」
「そうだよファビアン。クロードはファビアンに生きて欲しくて犠牲になったんだ。クロードの願いを叶える為に、苦しくても笑顔で前を向いていこう」
「……」
涙目でロイクを見ると、ロイクは仲間といる時の勇者の顔になっていた。ロイクが今どんな心境なのか、聞いてみたくなる。ろくなもんじゃない気がしたけど。
「……さ、クロードにお別れを言いましょう」
オリヴィアに言われて、俺は小さく頷いた後、心の中でクロードに尋ねた。
――ねえクロード。会いに行くってもしかして、身体はなくなっても、魂は一緒にいてくれるって意味だったのかな。だったら、今も俺らと一緒にいるの?
当然、返事はない。
――早くいつもみたいに「別に」って言ってよ。
そう思ったら、胸が苦しくなった。
オリヴィアにそっと背中を支えられながら、城を後にする。嗚咽が止まらなくなって、前が見えない。
「よしよし……。ファビアンはクロードに沢山可愛がられていたものね。今はたっぷり泣いていいわ。目が腫れたら、私が治してあげるから」
オリヴィアは優しい。俺は嗚咽を繰り返しながら、コクコクと頷いた。
何も知らない優しいオリヴィアを、ロイクを盗られたからって嫌いになんてなれない。ロイクとの関係にいずれは終わりが来ることは、分かっていたことだ。
だから仕方ないんだ。頭では理解している。その内俺の心も頭の理解に追いついてくることを、ただ待つしかないんだ。
だけど、とふと立ち止まった。
「……ファビアン?」
ロイクが悲しそうな笑顔で俺に問いかける。でも俺は、その表情の意味をこれ以上考える気にはならなかった。
俺を見て股間をおっ勃ててやがった癖に、俺を突き飛ばした。俺に縋りついて慰めてって言ってた口で、俺を拒絶したロイク。悪いとは思ってるんだ、ごめんねって顔か? ふざけんな、俺のケツ穴の純潔を返しやがれ。
心の中で毒づいても、ロイクには聞こえない。
第一、恋人同士となったロイクとオリヴィアと一緒に、ロイクに抱かれた思い出が残る道を戻るのか?
考えたくもない。悪趣味にもほどがある。ぐし、と涙を拳で拭くと、俺は二人に向かって言った。
「……俺はこのままヌデンニックに残るよ」
「え? 何を言っているのファビアン!」
オリヴィアが驚愕の声を上げた。
ロイクはヒライム王国へ戻れば王太子となり、いずれは国王となる。するとオリヴィアは未来の王妃様ってことだ。
早く地位を盤石なものにしたいのだろうロイクとオリヴィアは、すぐに出発することを提案してきた。
確かにこのまま暗黒竜がいなくなった城にダラダラいても仕方ない。俺は素直に提案に従った。
「魔物がいないなら、早く戻れるだろう」
「行きは魔物だらけだったものね」
微笑み合う二人の後ろに続いて、城門を潜り城の外に出る。俺たちが行きにここを潜った時は、クロードがいた。四人で拳を合わせて厄災討伐後の夢を語ったのは、そんな前の話じゃないのに。
立ち止まり、城を振り向く。クロードの痕跡をギリギリまで探したけど、結局少量の血痕以外は何も見つけることができなかった。服の切れ端も、髪の毛一本すらない。
いつかまた会えるから。必ず会いに行くから待っていてと、クロードは俺に言った。
死んじゃったのに、どうやって会いに来るんだよ。会いに来るなら、今すぐ帰ってきてよ。それで一緒に城を出て、二人で俺の実家に墓を建てに行こうよ。
伝えたい相手は、もうこの世にいない。
「う……っ」
一度は止まった涙が、再び溢れてきた。そんな俺を見て、オリヴィアが眉を下げる。
「……ファビアン、元気を出して」
「そうだよファビアン。クロードはファビアンに生きて欲しくて犠牲になったんだ。クロードの願いを叶える為に、苦しくても笑顔で前を向いていこう」
「……」
涙目でロイクを見ると、ロイクは仲間といる時の勇者の顔になっていた。ロイクが今どんな心境なのか、聞いてみたくなる。ろくなもんじゃない気がしたけど。
「……さ、クロードにお別れを言いましょう」
オリヴィアに言われて、俺は小さく頷いた後、心の中でクロードに尋ねた。
――ねえクロード。会いに行くってもしかして、身体はなくなっても、魂は一緒にいてくれるって意味だったのかな。だったら、今も俺らと一緒にいるの?
当然、返事はない。
――早くいつもみたいに「別に」って言ってよ。
そう思ったら、胸が苦しくなった。
オリヴィアにそっと背中を支えられながら、城を後にする。嗚咽が止まらなくなって、前が見えない。
「よしよし……。ファビアンはクロードに沢山可愛がられていたものね。今はたっぷり泣いていいわ。目が腫れたら、私が治してあげるから」
オリヴィアは優しい。俺は嗚咽を繰り返しながら、コクコクと頷いた。
何も知らない優しいオリヴィアを、ロイクを盗られたからって嫌いになんてなれない。ロイクとの関係にいずれは終わりが来ることは、分かっていたことだ。
だから仕方ないんだ。頭では理解している。その内俺の心も頭の理解に追いついてくることを、ただ待つしかないんだ。
だけど、とふと立ち止まった。
「……ファビアン?」
ロイクが悲しそうな笑顔で俺に問いかける。でも俺は、その表情の意味をこれ以上考える気にはならなかった。
俺を見て股間をおっ勃ててやがった癖に、俺を突き飛ばした。俺に縋りついて慰めてって言ってた口で、俺を拒絶したロイク。悪いとは思ってるんだ、ごめんねって顔か? ふざけんな、俺のケツ穴の純潔を返しやがれ。
心の中で毒づいても、ロイクには聞こえない。
第一、恋人同士となったロイクとオリヴィアと一緒に、ロイクに抱かれた思い出が残る道を戻るのか?
考えたくもない。悪趣味にもほどがある。ぐし、と涙を拳で拭くと、俺は二人に向かって言った。
「……俺はこのままヌデンニックに残るよ」
「え? 何を言っているのファビアン!」
オリヴィアが驚愕の声を上げた。
21
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?


【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる