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11 拒絶
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せめて、遺体の一部だけでも残っていないか。
俺の足を治した後、魔力切れを起こして倒れてしまったオリヴィアを、城の個室に横にならせる。その後、俺とロイクはクロードの痕跡を探していた。
「ない……クロード、全部呑まれちまったのかよ……!」
クロードが最期に立っていた場所に、がくりと膝を付く。石床に少量の血痕はあったものの、それだけだ。
「う……っ! 何でだよ、クロード……!」
思い出されるのは、いつもはムスッとしている筈のクロードの貴重な笑顔と、最後に見せてくれた涙だった。
クロードはいつだって優しくて思いやりがあって、多くは語らないけど俺の横にいてくれたのに。俺はクロードに何もしてやれなかった。
「俺が人柱になるって言ったのに……言ったのに!」
拳で床を叩き額をぶつけると、俺の背中に触れる手があった。――ロイクだ。
ぐしゃぐしゃな泣き顔で見上げると、ロイクも泣いている。
「……うわああんっ」
ロイクの胸に飛び込むと、ロイクはビクッとした後、遠慮がちに俺を抱き締めてくれた。
「ロイクッ! お前最後に何を話してたんだよ! あの魔法はなに!? なんでクロードを行かせたんだよ!」
ロイクは何かをクロードと話していた。一体あれは何だったんだ。
でも、ロイクは教えてくれなかった。
「済まないファビアン……あれはクロードとの約束なんだ。他の人間には話せないことだ」
「どうしてっ!」
勢いよく顔を上げると、青い目が俺を悲しそうに見つめている。男前な顔は煤だらけだけど、やっぱりこんな時でも格好いい。
「……クロードは、ファビアンを死なせたくなかったんだ。だからファビアン、君はクロードの分まで生きて」
「なんで……っなんでそんなこと言うんだよお……っ!」
ドン、とロイクの分厚い胸を叩いても、ロイクはビクともしない。
「うう……っ!」
悔しくて寂しくて、クロードの優しい手の温もりを二度と感じられることがないと思うと、喪失感でどうにかなってしまいそうだった。
だから。
クロードが死んだ場所で言うなんて、間違ってる。分かってはいたけど、俺の口は止まらなかった。
「ロイク……」
「うん?」
ロイクはいつもは俺の足に縋り付つのに、今日縋りついてるのは俺の方だ。だから俺は懇願する。
「抱いて……っ今すぐ抱いて……!」
「ファビアン……」
抱いてなんて、自分から言ったのは初めてだ。普段なら恥ずかしくて言えないけど、今は頭も心もぐしゃぐしゃで、だからすんなり言うことができた。
「抱いてよ! 痛くたって構わないから、今すぐ色んなこと忘れさせてよ……っ!」
「ファビアン、でも」
ロイクは困ったような顔をしている。どうして? いつもなら俺が渋っても遠慮なく突っ込んでくるじゃないか。
「暗黒龍を倒したら抱き潰すって言ったじゃないか!」
水分でぐしゃぐしゃの顔で必死に訴えたけど、ロイクは首を縦には振ってくれなかった。
「……ごめんね」
「なんで! 俺がいいって言ってんのに!」
俺は下穿きをくつろげると、下半身を丸出しにして膝を付いているロイクの上に跨る。ロイクの大きな雄が、服の下でむくりと起き上がるのが分かった。
「ほら、ヤリたいってこっちは言ってるだろ!」
ロイクの雄を掴もうとした瞬間。
「――やめてくれ!」
「わっ!」
ドン! と押されて、俺は下半身剥き出しのまま床に転がった。何が起きたか、一瞬分からなかった。
「……ロイク? どうして……?」
ロイクは俺の下穿きを拾い上げると立ち上がり、怒った顔で俺に投げつける。
「まっ」
「もういい加減、こんな爛れた関係はやめようと思ってたんだ」
「……は?」
何言ってんの。散々嫌がる俺に無理やり突っ込んだのはロイクだろ。
ポカンと見上げていると、ロイクは俺を見下ろしながら侮蔑の色を顔に浮かばせる。
「……あれは死霊の呪いのせいだった。私は暗黒竜に対する恐怖もあったからファビアンを抱いたが、暗黒竜は最早いない」
そうだけど。そうなんだけど、じゃあ城の前で俺に言ったのって何だったんだよ。
「――二度と私を誘惑しないでくれ」
「ロイク……?」
ロイクは言い捨てると、くるりと背中を向けてオリヴィアがいる方へ歩いていくじゃないか。
そりゃ確かに、今回は俺が誘った。だけど、これまでは全部ロイクからだったのに。
――俺が誘惑したから抱いたって言ってんのか? 俺がいつそんなことをした。
頭が痺れて、何も考えられない。
こんな時、クロードならただ頭を撫でてくれて、俺が「ありがと」って言うと、照れたような顔をして「別に」って答えるんだろう。
でも、そのクロードはもういない。何もない俺を生かす為に、俺の代わりに人柱になっちゃったから。
ぽっかりと空いた心の穴を、ロイクならぐちゃぐちゃに抱いて埋めてくれると思っていたのに。
最後に抱かれたら、ロイクがいない人生を歩もうと考えていたのに。その前に、ロイクから断ち切られてしまった。
「……何も、なくなっちゃった……」
冷たい床に投げ出されたケツが冷たい。俺はのろのろと下穿きを履く。
回復したオリヴィアが泣き腫らした目をしてロイクと手を繋いで戻ってくるまで、俺は何も考えられずにずっと座っていた。
その場で、オリヴィアはずっとロイクのことが好きで、暗黒竜を倒したらロイクに想いを告げるつもりだったと聞かされる。
「こんな時だし、ダメ元だったんだけど……へへ」
繋がれた手が、ロイクの答えを告げていた。
「そ、そうだったんだ……」
何も考えられない。
オリヴィアは、美しく微笑む。ああ、恋してるんだな。そうと分かる幸せな顔だった。
こんなものを見せられたら、俺とロイクの関係なんて言える訳がないじゃないか。だって、ロイクの言う通り、本当に爛れた関係だったんだから。
「クロードには相談してたの。だからクロードの為にもって思い切ったけど……よかった」
「へ、へえ……おめでと」
他になんて答えたらよかったんだろう。
引き攣り笑いを浮かべた俺を、オリヴィアは「ファビアンは死んじゃダメよ……!」と抱き締めてくれた。
オリヴィアの肩越しに見えるロイクは、俺とは目を合わさない。
以後、俺は二度とロイクに抱かれることはなかった。
俺の足を治した後、魔力切れを起こして倒れてしまったオリヴィアを、城の個室に横にならせる。その後、俺とロイクはクロードの痕跡を探していた。
「ない……クロード、全部呑まれちまったのかよ……!」
クロードが最期に立っていた場所に、がくりと膝を付く。石床に少量の血痕はあったものの、それだけだ。
「う……っ! 何でだよ、クロード……!」
思い出されるのは、いつもはムスッとしている筈のクロードの貴重な笑顔と、最後に見せてくれた涙だった。
クロードはいつだって優しくて思いやりがあって、多くは語らないけど俺の横にいてくれたのに。俺はクロードに何もしてやれなかった。
「俺が人柱になるって言ったのに……言ったのに!」
拳で床を叩き額をぶつけると、俺の背中に触れる手があった。――ロイクだ。
ぐしゃぐしゃな泣き顔で見上げると、ロイクも泣いている。
「……うわああんっ」
ロイクの胸に飛び込むと、ロイクはビクッとした後、遠慮がちに俺を抱き締めてくれた。
「ロイクッ! お前最後に何を話してたんだよ! あの魔法はなに!? なんでクロードを行かせたんだよ!」
ロイクは何かをクロードと話していた。一体あれは何だったんだ。
でも、ロイクは教えてくれなかった。
「済まないファビアン……あれはクロードとの約束なんだ。他の人間には話せないことだ」
「どうしてっ!」
勢いよく顔を上げると、青い目が俺を悲しそうに見つめている。男前な顔は煤だらけだけど、やっぱりこんな時でも格好いい。
「……クロードは、ファビアンを死なせたくなかったんだ。だからファビアン、君はクロードの分まで生きて」
「なんで……っなんでそんなこと言うんだよお……っ!」
ドン、とロイクの分厚い胸を叩いても、ロイクはビクともしない。
「うう……っ!」
悔しくて寂しくて、クロードの優しい手の温もりを二度と感じられることがないと思うと、喪失感でどうにかなってしまいそうだった。
だから。
クロードが死んだ場所で言うなんて、間違ってる。分かってはいたけど、俺の口は止まらなかった。
「ロイク……」
「うん?」
ロイクはいつもは俺の足に縋り付つのに、今日縋りついてるのは俺の方だ。だから俺は懇願する。
「抱いて……っ今すぐ抱いて……!」
「ファビアン……」
抱いてなんて、自分から言ったのは初めてだ。普段なら恥ずかしくて言えないけど、今は頭も心もぐしゃぐしゃで、だからすんなり言うことができた。
「抱いてよ! 痛くたって構わないから、今すぐ色んなこと忘れさせてよ……っ!」
「ファビアン、でも」
ロイクは困ったような顔をしている。どうして? いつもなら俺が渋っても遠慮なく突っ込んでくるじゃないか。
「暗黒龍を倒したら抱き潰すって言ったじゃないか!」
水分でぐしゃぐしゃの顔で必死に訴えたけど、ロイクは首を縦には振ってくれなかった。
「……ごめんね」
「なんで! 俺がいいって言ってんのに!」
俺は下穿きをくつろげると、下半身を丸出しにして膝を付いているロイクの上に跨る。ロイクの大きな雄が、服の下でむくりと起き上がるのが分かった。
「ほら、ヤリたいってこっちは言ってるだろ!」
ロイクの雄を掴もうとした瞬間。
「――やめてくれ!」
「わっ!」
ドン! と押されて、俺は下半身剥き出しのまま床に転がった。何が起きたか、一瞬分からなかった。
「……ロイク? どうして……?」
ロイクは俺の下穿きを拾い上げると立ち上がり、怒った顔で俺に投げつける。
「まっ」
「もういい加減、こんな爛れた関係はやめようと思ってたんだ」
「……は?」
何言ってんの。散々嫌がる俺に無理やり突っ込んだのはロイクだろ。
ポカンと見上げていると、ロイクは俺を見下ろしながら侮蔑の色を顔に浮かばせる。
「……あれは死霊の呪いのせいだった。私は暗黒竜に対する恐怖もあったからファビアンを抱いたが、暗黒竜は最早いない」
そうだけど。そうなんだけど、じゃあ城の前で俺に言ったのって何だったんだよ。
「――二度と私を誘惑しないでくれ」
「ロイク……?」
ロイクは言い捨てると、くるりと背中を向けてオリヴィアがいる方へ歩いていくじゃないか。
そりゃ確かに、今回は俺が誘った。だけど、これまでは全部ロイクからだったのに。
――俺が誘惑したから抱いたって言ってんのか? 俺がいつそんなことをした。
頭が痺れて、何も考えられない。
こんな時、クロードならただ頭を撫でてくれて、俺が「ありがと」って言うと、照れたような顔をして「別に」って答えるんだろう。
でも、そのクロードはもういない。何もない俺を生かす為に、俺の代わりに人柱になっちゃったから。
ぽっかりと空いた心の穴を、ロイクならぐちゃぐちゃに抱いて埋めてくれると思っていたのに。
最後に抱かれたら、ロイクがいない人生を歩もうと考えていたのに。その前に、ロイクから断ち切られてしまった。
「……何も、なくなっちゃった……」
冷たい床に投げ出されたケツが冷たい。俺はのろのろと下穿きを履く。
回復したオリヴィアが泣き腫らした目をしてロイクと手を繋いで戻ってくるまで、俺は何も考えられずにずっと座っていた。
その場で、オリヴィアはずっとロイクのことが好きで、暗黒竜を倒したらロイクに想いを告げるつもりだったと聞かされる。
「こんな時だし、ダメ元だったんだけど……へへ」
繋がれた手が、ロイクの答えを告げていた。
「そ、そうだったんだ……」
何も考えられない。
オリヴィアは、美しく微笑む。ああ、恋してるんだな。そうと分かる幸せな顔だった。
こんなものを見せられたら、俺とロイクの関係なんて言える訳がないじゃないか。だって、ロイクの言う通り、本当に爛れた関係だったんだから。
「クロードには相談してたの。だからクロードの為にもって思い切ったけど……よかった」
「へ、へえ……おめでと」
他になんて答えたらよかったんだろう。
引き攣り笑いを浮かべた俺を、オリヴィアは「ファビアンは死んじゃダメよ……!」と抱き締めてくれた。
オリヴィアの肩越しに見えるロイクは、俺とは目を合わさない。
以後、俺は二度とロイクに抱かれることはなかった。
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