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9 最終対決
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俺たち四英傑は、暗黒竜ガークが巣食うヌデンニックの王城に到着した。
見覚えのある城は遠目から見ても荒れ果て、空は城を中心にどす黒い雷雲が渦巻いている。
目的地が近いからか、俺たちは連日、大勢の魔物にこれでもかというくらいの勢いで襲われていた。だからここ最近はオリヴィアが張った結界の中でしか寝ることは出来ず、ロイクは俺を抱けていない。時折切なそうに俺を見る目が、若干憐れではあった。
いよいよ城門を潜ろうという時になって、ロイクが俺の腕を引っ張って耳打ちしてくる。
「ファビアン。ガークを倒したら、君を朝まで抱き潰したい。いいかな?」
「……お前なあ」
今言うことか? と思ったけど、ロイクの顔は真剣そのものだ。まあ、溜まってるのもあるんだろう。俺は苦笑すると、小声で返す。
「……それでお前のやる気が出るなら、まあいいよ」
俺は完全にロイクに絆されていたけど、ロイクの猛攻が凄すぎて素直になれていなかった。だから本当は俺だって抱いてもらえたらなって思っていたけど、こんな生意気なことしか言えない。
でも、ロイクには関係なかったらしい。
「本当か? 楽しみだな!」
晴れやかな笑顔になったけど、言っている内容は四英傑の仲間である俺を朝まで抱くぞってことだ。ろくなもんじゃないけど、これで絶対に暗黒竜をやっつけてやるって気になるんだったら安いものだ。
ロイクの朗らかな顔を見上げながら、拳を突き出す。
「……死ぬなよ」
「当然だ。ファビアンこそ」
コツンと拳同士を合わせると、それを見ていたオリヴィアとクロードが駆け寄ってきた。
「ちょっと! 私もそれやりたい!」
「だな。オレたちは四英傑、つまり四人でひとつなんだからな」
二人の言葉を聞いて、ロイクが幸せそうに笑う。
「……ここまで、私たちはよく頑張った」
拳をもう一度突き出すロイク。
「あと少し、最後のひと山を登れば、頂上はそこにある」
俺も拳を出すと、オリヴィアとクロードも微笑みながら拳を突き出した。
「私はヒライム王国の王太子となり、国王になりたい。いや、なってみせる」
ロイクが宣言すると、オリヴィアが続く。
「私は聖国マイズに戻らなくていいように、玉の輿に乗って真の自由を捕まえるわ!」
オリヴィアの言葉に、俺たちは口々に「玉の輿って正直すぎて怖えな!」とか「うん。いい人が見つかるといいな」とか「魔法回復薬の店でもやればいいだろ。儲かりそうだ」とか軽口を叩く。オリヴィアはおかしそうに笑った。
皆の視線が俺に集まる。俺の番だ。実は、ずっと考えていたんだ。
「俺は……とりあえず両親や仲間の墓を作りたい」
三人の笑顔が小さくなった。あれ?
「魔物に変わった人間って、神託によると暗黒竜が死んだら一緒に死ぬんだろ? だからさ、今生きてるにしても死んじゃうなら、墓を作って弔って、それから俺のことは考えよっかなーと」
ロイクとオリヴィアが、涙ぐみながら頷く。よかった、分かってもらえたみたいだ。
全員で、今度はクロードを見た。クロードで最後だ。
クロードは考えるように小首を傾げる。
「オレは故郷もないし師匠も死んでるからな……あ」
と、俺を見て美人な顔を緩ませる。うわお、やっぱりクロードってすっげえ綺麗。痣なんてあってもなくても関係ない。ロイクとああいう関係になってからはちょっと付き合いづらくなっちゃったけど、ずっと俺の味方でいてくれた、俺にとっては優しい兄的存在だった。
ついでにオリヴィアは母親的って言ったら切れられそうだから、言わないでおくけど。
「え、なになに?」
俺の問いかけに、クロードは飄然とした様子で答えた。
「オレはファビアンに付いていくことにする。ファビアンと一緒に墓を作って弔う」
「クロード……」
「オレとファビアンなら、物理攻撃と魔法攻撃の補完ができるしな」
ほわりとした笑みを向けられて、俺は大きく頷いた。王様になるロイクとは、きっとこの先は一緒にはいられない。皆と別れるのが寂しいなって思っていたけど、クロードが隣にいてくれるなら俺も嬉しい。
「うん! ありがとう!」
ロイクが若干複雑そうな表情を浮かべていたけど、ロイクは付いていくとは言えないのは俺にだって分かっていた。
――多分、次に抱かれるのが最後になるんだろうな。
悲しくはあったけど、最初から分かっていたことだ。
ロイクは仲間をひとりひとり見ると、大きく頷いた。
「最後に倒し方のおさらいだ。神託によれば、暗黒竜の魔法攻撃は賢者の攻撃で跳ね返せる。魔法攻撃が無効化されると、勇者と剣聖の物理攻撃が効くようになる」
オリヴィアが後に続く。
「弱った暗黒竜を聖女の結界で包み込み、竜の鍵を以て封ずる……よね。竜の鍵って結局何か分からなかったけど」
旅の最中に何か見つかるのかと考えていたけど、結局なにも見つからなかったのだ。
「竜って、俺たちの痣と関係あるのかなあ?」
「もしかしたら、オレたちの超人的な力を返すって意味かもしれないぞ」
なるほど。俺たち四英傑は、人外に近い力を持って生まれた。暗黒竜を倒す為に生まれてきたような俺たちに、暗黒竜を倒した後は力は不要ならば、それもありなのかもな。
ロイクが顔をしかめる。
「こればかりは、実際に見てみるしかないだろうな」
「あーあ、結局ぶっつけ本番かよ」
俺が茶化すと、全員が笑った。
「私たちはいつもそうだっただろう?」
「一番向こう見ずなファビアンがよく言うわよ」
「お前はとにかく無駄に突っ込むな。分かったな」
言いたい放題の年上の仲間たちに、俺はべーっと舌を出す。
クスクスと笑ったロイクが、宣言した。
「よし! 最後の戦いだ、引き締めていこう!」
「おー!」
ゴツンと音を立てて、俺たち四英傑の拳がぶつかり合った。
――そして。
神託の通りに暗黒竜を弱らせた俺たちは、最後の難関に悩まされていた。
「これってどういう意味よ! 早くしないと、結界が保たない!」
ボロボロになったオリヴィアが、白い髪を振り乱しながら、全力の聖魔法で倒れた暗黒竜を結界で覆っている。オリヴィアの白い皮膚のあちこちからは血が流れていて、かなり痛そうだ。
魔力がほぼ切れた状態のクロードは膝を付き、俺はクロードの背に庇われながら床に倒れていた。足を怪我して危なかったところを、クロードが守ってくれたのだ。
「あれ、なんだよ……!」
「悪趣味、としか言いようがないな……っ」
俺の叫びに、クロードが辛そうに答える。
暗黒竜の前にぽっかりと口を開いているのは、竜の形をした人間大の鍵穴だった。
「まさか……! 私たちの誰かに人柱となれという意味か……!?」
暗黒竜の炎で幾度も皮膚を焼かれた煤だらけの顔を絶望に染め、ロイクが言った。
見覚えのある城は遠目から見ても荒れ果て、空は城を中心にどす黒い雷雲が渦巻いている。
目的地が近いからか、俺たちは連日、大勢の魔物にこれでもかというくらいの勢いで襲われていた。だからここ最近はオリヴィアが張った結界の中でしか寝ることは出来ず、ロイクは俺を抱けていない。時折切なそうに俺を見る目が、若干憐れではあった。
いよいよ城門を潜ろうという時になって、ロイクが俺の腕を引っ張って耳打ちしてくる。
「ファビアン。ガークを倒したら、君を朝まで抱き潰したい。いいかな?」
「……お前なあ」
今言うことか? と思ったけど、ロイクの顔は真剣そのものだ。まあ、溜まってるのもあるんだろう。俺は苦笑すると、小声で返す。
「……それでお前のやる気が出るなら、まあいいよ」
俺は完全にロイクに絆されていたけど、ロイクの猛攻が凄すぎて素直になれていなかった。だから本当は俺だって抱いてもらえたらなって思っていたけど、こんな生意気なことしか言えない。
でも、ロイクには関係なかったらしい。
「本当か? 楽しみだな!」
晴れやかな笑顔になったけど、言っている内容は四英傑の仲間である俺を朝まで抱くぞってことだ。ろくなもんじゃないけど、これで絶対に暗黒竜をやっつけてやるって気になるんだったら安いものだ。
ロイクの朗らかな顔を見上げながら、拳を突き出す。
「……死ぬなよ」
「当然だ。ファビアンこそ」
コツンと拳同士を合わせると、それを見ていたオリヴィアとクロードが駆け寄ってきた。
「ちょっと! 私もそれやりたい!」
「だな。オレたちは四英傑、つまり四人でひとつなんだからな」
二人の言葉を聞いて、ロイクが幸せそうに笑う。
「……ここまで、私たちはよく頑張った」
拳をもう一度突き出すロイク。
「あと少し、最後のひと山を登れば、頂上はそこにある」
俺も拳を出すと、オリヴィアとクロードも微笑みながら拳を突き出した。
「私はヒライム王国の王太子となり、国王になりたい。いや、なってみせる」
ロイクが宣言すると、オリヴィアが続く。
「私は聖国マイズに戻らなくていいように、玉の輿に乗って真の自由を捕まえるわ!」
オリヴィアの言葉に、俺たちは口々に「玉の輿って正直すぎて怖えな!」とか「うん。いい人が見つかるといいな」とか「魔法回復薬の店でもやればいいだろ。儲かりそうだ」とか軽口を叩く。オリヴィアはおかしそうに笑った。
皆の視線が俺に集まる。俺の番だ。実は、ずっと考えていたんだ。
「俺は……とりあえず両親や仲間の墓を作りたい」
三人の笑顔が小さくなった。あれ?
「魔物に変わった人間って、神託によると暗黒竜が死んだら一緒に死ぬんだろ? だからさ、今生きてるにしても死んじゃうなら、墓を作って弔って、それから俺のことは考えよっかなーと」
ロイクとオリヴィアが、涙ぐみながら頷く。よかった、分かってもらえたみたいだ。
全員で、今度はクロードを見た。クロードで最後だ。
クロードは考えるように小首を傾げる。
「オレは故郷もないし師匠も死んでるからな……あ」
と、俺を見て美人な顔を緩ませる。うわお、やっぱりクロードってすっげえ綺麗。痣なんてあってもなくても関係ない。ロイクとああいう関係になってからはちょっと付き合いづらくなっちゃったけど、ずっと俺の味方でいてくれた、俺にとっては優しい兄的存在だった。
ついでにオリヴィアは母親的って言ったら切れられそうだから、言わないでおくけど。
「え、なになに?」
俺の問いかけに、クロードは飄然とした様子で答えた。
「オレはファビアンに付いていくことにする。ファビアンと一緒に墓を作って弔う」
「クロード……」
「オレとファビアンなら、物理攻撃と魔法攻撃の補完ができるしな」
ほわりとした笑みを向けられて、俺は大きく頷いた。王様になるロイクとは、きっとこの先は一緒にはいられない。皆と別れるのが寂しいなって思っていたけど、クロードが隣にいてくれるなら俺も嬉しい。
「うん! ありがとう!」
ロイクが若干複雑そうな表情を浮かべていたけど、ロイクは付いていくとは言えないのは俺にだって分かっていた。
――多分、次に抱かれるのが最後になるんだろうな。
悲しくはあったけど、最初から分かっていたことだ。
ロイクは仲間をひとりひとり見ると、大きく頷いた。
「最後に倒し方のおさらいだ。神託によれば、暗黒竜の魔法攻撃は賢者の攻撃で跳ね返せる。魔法攻撃が無効化されると、勇者と剣聖の物理攻撃が効くようになる」
オリヴィアが後に続く。
「弱った暗黒竜を聖女の結界で包み込み、竜の鍵を以て封ずる……よね。竜の鍵って結局何か分からなかったけど」
旅の最中に何か見つかるのかと考えていたけど、結局なにも見つからなかったのだ。
「竜って、俺たちの痣と関係あるのかなあ?」
「もしかしたら、オレたちの超人的な力を返すって意味かもしれないぞ」
なるほど。俺たち四英傑は、人外に近い力を持って生まれた。暗黒竜を倒す為に生まれてきたような俺たちに、暗黒竜を倒した後は力は不要ならば、それもありなのかもな。
ロイクが顔をしかめる。
「こればかりは、実際に見てみるしかないだろうな」
「あーあ、結局ぶっつけ本番かよ」
俺が茶化すと、全員が笑った。
「私たちはいつもそうだっただろう?」
「一番向こう見ずなファビアンがよく言うわよ」
「お前はとにかく無駄に突っ込むな。分かったな」
言いたい放題の年上の仲間たちに、俺はべーっと舌を出す。
クスクスと笑ったロイクが、宣言した。
「よし! 最後の戦いだ、引き締めていこう!」
「おー!」
ゴツンと音を立てて、俺たち四英傑の拳がぶつかり合った。
――そして。
神託の通りに暗黒竜を弱らせた俺たちは、最後の難関に悩まされていた。
「これってどういう意味よ! 早くしないと、結界が保たない!」
ボロボロになったオリヴィアが、白い髪を振り乱しながら、全力の聖魔法で倒れた暗黒竜を結界で覆っている。オリヴィアの白い皮膚のあちこちからは血が流れていて、かなり痛そうだ。
魔力がほぼ切れた状態のクロードは膝を付き、俺はクロードの背に庇われながら床に倒れていた。足を怪我して危なかったところを、クロードが守ってくれたのだ。
「あれ、なんだよ……!」
「悪趣味、としか言いようがないな……っ」
俺の叫びに、クロードが辛そうに答える。
暗黒竜の前にぽっかりと口を開いているのは、竜の形をした人間大の鍵穴だった。
「まさか……! 私たちの誰かに人柱となれという意味か……!?」
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