勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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3 死霊の攻撃

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 小さな村の礼拝堂の割には、随分と奥行きがある。

 まだ影に魔物が潜んでいるかもしれないので、双剣の柄に交差した手を触れながらロイクの隣を歩く。

 と、ロイクが眉を下げながら振り返った。どうしたんだろう。

「……なに?」

 にぱっと笑いながら問いかけると、ロイクがふわりと笑う。会ったばかりの頃は、ロイクは一切笑わない人だった。それはオリヴィアもクロードもそうだったけど、中でもロイクの表情はいつも苦しそうに俺の目には映っていた。

 随分と笑うようになったよなあ、と思う。

 ちなみに俺は、神託で集められた時、まだ故郷が瘴気に呑まれたことを知らなかった。神官の口から聞かされるまで、「王子だ、うわーすっげー!」なんて思ってたくらいだ。

 だから俺だけが興奮して笑ってた。皆は何で深刻な顔をしてるんだろうなんて不思議だった。

 ――しばらくの間笑うことができなくなった俺を立ち直らせてくれたのは、仲間だ。仲間を悲しませない為に、俺は笑って生きていくことを決めた。

 皆が「ファビアンの笑顔は元気が出る」と言ってくれるから、俺は皆の為に笑うんだ。

 俺が「ん?」と更に笑顔を向けると、ロイクは複雑そうな笑みを浮かべたまま、尋ねてくる。

「この集落は随分と魔物の数が多い。元々死者だった者の数もだ。その……ヌデンニック人なら、何か知ってるのかと」
「……あー」

 ヌデンニックに足を踏み入れたことがあるのは、四人の中で俺だけだ。今は魔物の巣窟と化してしまったけど、場所の配置は変わらない。俺のうろ覚えな知識は、時折は役に立つこともあった。

 現在地と記憶の中の国の地図を頭の中で重ね合わせる。

「……ええと、そういえばこの地域のどこかに、昔の戦場で未だに幽霊が戦争をしてるから慰霊碑を建てた場所があるって聞いたことあるな」

 ロイクが目を大きく開いて頷く。

「ああ、それならこの魔物の多さも納得だな」

 俺は頷き返した。

「確か礼拝堂じゃなくて霊廟があって、地下に戦争のきっかけとなった美女の墓があるって話でさ! 仲間と顔を拝んで見たかったって……あ」

 戦争が起きるほどの美人ってある意味すごいよな、とかつての仲間とエロい想像をした記憶が蘇る。一瞬だけ胸の奥がチクリと傷んだけど、唇を噛み締めることでやり過ごした。

 俺の些細な仕草を見て、何故かロイクが俺の頭をぽんと撫でる。

「そうか。じゃあ、ここはただの礼拝堂ではなく地下墓地がある霊廟ってことなんだな」
「もし俺が言ってるのと同じだったらな」
「もう少し明るくするか」

 ロイクの言葉と共に、俺たちの前に浮かんでいた光の玉が輝きを増した。魔法が使えない俺には、さっぱり原理が分からない。たとえ俺に魔力があったって、理解できる脳みそはきっとないだろう。これが適正っていうものなのかもな、なんて考える。

「――あそこに下に降りる階段がある」
「ざっと見ても、かめはないな。やっぱり地下かなあ」

 段差の低い階段がぱっかりと暗い口を開けている手前までやってくると、俺とロイクはスラリと剣を抜いた。クロードの魔法は、多分地下までは届いていない。だから中にはまたうじゃうじゃと死霊らがいる可能性はあった。

 だけど、不思議と恐怖はない。

「さ、行こうか」

 穏やかな笑みを浮かべたロイクが隣にいるからかもしれない。

 四人を取りまとめる中心的人物である勇者ロイクが隣にいる限り、俺は怖いものなしだった。



 カツン、カツン、と石段を降りていく度に、先の見えない闇の空洞に俺たちの足音が響き渡る。

 耳を澄ませても、物音は他にしない。もしかしたら単に美女の墓があるだけで、魔物はいないのかもしれない。魔法剣を使えるロイクなら何とかできても、切れないあいつらの前では俺は戦力外だ。

 いませんように、と心の中で小さく唱えた。

 階段を全て降りると、こじんまりとした部屋に着いた。正面からは、大きな墓石が俺たちを見下ろしている。四方を壁で囲まれているけど、魔物のまの字もない。墓石の裏にも隠れられるような空間は残されていないので、ちょっぴりだけど安心する。

 キョロキョロと見渡すと。

かめは――あ、あった!」

 墓石の右脇に四角い人工的な岩が置かれている。上から覗くと、ぽっかりと空いた穴に水がたっぷりと入っていた。中から水が少しずつだけど湧き出しているのか、岩の側面を時折水が筋となって流れ出ている。

 ロイクを振り返った。

「なあ、魔力は感じるか?」

 残念ながら、魔力皆無の俺には分からないのだ。ロイクは水面に顔を近づけてじっと睨むように見つめた。やがて頷きながら微笑む。

「じゃあ、オリヴィアを呼んでこなくちゃだな!」

 パッと出口の方を振り返った。俺より背の高いロイクの背後に迫っていたのは、女の輪郭をした死霊。

「――ロイク!」
「わっ!」

 咄嗟にロイクを横に押し退けると、死霊はロイクではなく俺に向かってきた。

「くっ!」

 双剣を振り回してみても、触れることが出来ない。空を切る剣の音に、焦りを隠せなかった。

「き、切れない!」
「ファビアン! 逃げるんだ!」
「う、動けないっ!」

 死霊が触れた途端、俺の身体は雷に打たれたように痺れて動かなくなる。心臓がドクドクいい始めて、苦しい。

「ファビアン!」

 血相を変えたロイクが、死霊の抱擁から俺を抱えて連れ出した。だけど俺はそれどころじゃなかった。どんどん息が荒く、身体が火照ってくる。なんだこれ、なんなんだよ!

「消えろ! 死霊め!」

 ロイクの怒声と共に、白い炎の塊が死霊を襲い――。

 ふと気付くと俺とロイクは床に座り、俺はロイクの腕の中に抱えられていた。

 は、は、と荒くて熱い息を繰り返す。

「く、苦しいよ、ロイク……ッ」
「……ファビアン! ファビアン! しっかりしろ!」

 泣きそうな顔のロイクが俺を揺さぶった。熱い、苦しい、――切ない。

 ズクンと俺の下腹部が疼き始める。

「え、あれ……?」

 俺が目線を自分の股間へ向けると、ロイクの目線もつられたように俺の三角に勃ち上がった股間部へと注がれた。

 ロイクがハッとする。

「まさか……催淫の呪いか!」
「うっそ……っ」

 俺たちは、互いに顔を見合わせた。
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