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2 礼拝堂
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とある小さな村に立ち寄った時のことだ。
手持ちの魔力回復薬が少なくなり、どこかで補充しなければという話になった。俺以外は全員魔法を使うので、魔力回復薬は先に進むには必須だ。
魔物の国となってしまったヌデンニックでは、薬師が特殊な薬草から作る魔力回復薬は入手できない。だけど、暗黒竜ガークの魔力の影響が及んだ国土には、時折魔力溜まりとなっている場所が生まれていた。
一番確実なのは、墓所にある礼拝堂だ。礼拝堂には大抵、死者が喉を渇かせて苦しまないようにと大きな甕が置いてある。雨水だったり湧水だったり井戸水だったりと種類は土地によって様々だけど、死霊が多く彷徨う墓所ではよく、高濃度の魔力に満ちた水を見つけることができた。
でもこのままでは飲めないので、聖女のオリヴィアが浄化する。小瓶に詰めたら、補充完了だ。
今回俺たち一行が訪れたのは、何の変哲もない村に見えた。なのに、一歩墓所に踏み入った途端、夥しい数の死霊や骸骨、腐りかけた死体が襲ってきた。
いくらロイクや俺が斬りつけても、一向に倒せない。
「物理攻撃じゃダメだ。ここはオレに任せろ」
クロードは一歩前に出ると、圧倒的な魔力で迫り来る魔物たちを次々に焼いていった。
「クロード! 私もっ!」
オリヴィアも魔法を唱えようとしたけど、クロードはオリヴィアを止める。
「オリヴィアは浄化の作業があるだろう。その前に魔力が尽きたら元も子もない」
「でも……っ」
「じゃあ、礼拝堂まで一気に道を切り開く。中に入ったら、結界を張ってくれ」
「! 分かったわ!」
俺たちはクロードの背中に急いで隠れた。
クロードの言うことは理にかなっている。次から次へと新たな魔法を唱えてばかりいると、魔力の消費は激しい。だけど聖女の結界なら、一度唱えれば魔力の消費量は少ないまま継続できるから。
「巻き込まれるなよ!」
涼やかな一瞥をくれたクロードに、俺たちはそれぞれ返す。
「後方は任せてくれ!」
「分かったわ!」
「クロード、頑張れ!」
最後のは俺だ。俺の応援に、クロードは不思議そうに俺を見た後、にこりと笑った。うわ、美人が笑うととんでもねえ!
「……クロードが笑ったああっ!」
「笑顔、めちゃくちゃ可愛いじゃない!」
俺とオリヴィアがピョンピョン跳ねながらはしゃいでいると、クロードは照れ臭そうに背中を向けてしまう。
「ほら、集中させてあげよう」
苦笑したロイクに言われ、俺とオリヴィアは舌を出して小さく笑い合った。
クロードは、地獄でもこれほどの量はないのではという火力で前方を焼き払う。礼拝堂までの真っ黒焦げになった一本道を、俺たちは直走った。
暗い礼拝堂に飛び込むと、闇に紛れていた礼拝堂内の魔物をクロードが再度焼き払う。次いでオリヴィアが急いで礼拝堂の周りに結界を張った。金色に輝く半透明の壁が、俺たちと外界とを隔てている。
「ハア、ハア……ッ! 済まない、そろそろ魔力が切れそうだ……!」
振り返ると、クロードが膝を付いて荒い息を繰り返していた。かなり辛そうだ。
「なあ、ロイク」
俺はロイクの腕をぐいっと掴むと、ロイクの顔を覗き込んだ。端正な男らしい顔が、俺を見て「なに?」とばかりに微笑む。
竜の痣を持つ俺らは、皆容姿には優れているらしい。魔力がどうたらこうたらとか神託の話を聞かされた時に、確か神官が言っていた気がする。ちっとも理解できなかったけど。
だから俺もそこそこ見られる顔をしてるけど、如何せん男らしいよりも幼さが残っていてだめだ。俺はもっと男臭い男になりたいんだ!
ロイクくらい男前になりたいなあと思いつつ、尋ねた。
「ロイク、光の魔法出せる? 俺らで甕を探そうぜ!」
残念ながら、俺は小さな魔法すら使えない。こうも暗いと、何も見えないのだ。つまりは役立たず。
ロイクはくすりと笑って頷くと、魔法を唱えて俺たちの前に光の玉を浮き上がらせた。
クロードとオリヴィアを振り返る。
「ちょっと探してくるから、休んでいてくれ!」
「ああ、済まないな」
「気を付けてね!」
「うん、いってくる!」
二人に軽く手を振るとロイクに駆け寄り、俺たちは礼拝堂内の探索を開始したのだった。
手持ちの魔力回復薬が少なくなり、どこかで補充しなければという話になった。俺以外は全員魔法を使うので、魔力回復薬は先に進むには必須だ。
魔物の国となってしまったヌデンニックでは、薬師が特殊な薬草から作る魔力回復薬は入手できない。だけど、暗黒竜ガークの魔力の影響が及んだ国土には、時折魔力溜まりとなっている場所が生まれていた。
一番確実なのは、墓所にある礼拝堂だ。礼拝堂には大抵、死者が喉を渇かせて苦しまないようにと大きな甕が置いてある。雨水だったり湧水だったり井戸水だったりと種類は土地によって様々だけど、死霊が多く彷徨う墓所ではよく、高濃度の魔力に満ちた水を見つけることができた。
でもこのままでは飲めないので、聖女のオリヴィアが浄化する。小瓶に詰めたら、補充完了だ。
今回俺たち一行が訪れたのは、何の変哲もない村に見えた。なのに、一歩墓所に踏み入った途端、夥しい数の死霊や骸骨、腐りかけた死体が襲ってきた。
いくらロイクや俺が斬りつけても、一向に倒せない。
「物理攻撃じゃダメだ。ここはオレに任せろ」
クロードは一歩前に出ると、圧倒的な魔力で迫り来る魔物たちを次々に焼いていった。
「クロード! 私もっ!」
オリヴィアも魔法を唱えようとしたけど、クロードはオリヴィアを止める。
「オリヴィアは浄化の作業があるだろう。その前に魔力が尽きたら元も子もない」
「でも……っ」
「じゃあ、礼拝堂まで一気に道を切り開く。中に入ったら、結界を張ってくれ」
「! 分かったわ!」
俺たちはクロードの背中に急いで隠れた。
クロードの言うことは理にかなっている。次から次へと新たな魔法を唱えてばかりいると、魔力の消費は激しい。だけど聖女の結界なら、一度唱えれば魔力の消費量は少ないまま継続できるから。
「巻き込まれるなよ!」
涼やかな一瞥をくれたクロードに、俺たちはそれぞれ返す。
「後方は任せてくれ!」
「分かったわ!」
「クロード、頑張れ!」
最後のは俺だ。俺の応援に、クロードは不思議そうに俺を見た後、にこりと笑った。うわ、美人が笑うととんでもねえ!
「……クロードが笑ったああっ!」
「笑顔、めちゃくちゃ可愛いじゃない!」
俺とオリヴィアがピョンピョン跳ねながらはしゃいでいると、クロードは照れ臭そうに背中を向けてしまう。
「ほら、集中させてあげよう」
苦笑したロイクに言われ、俺とオリヴィアは舌を出して小さく笑い合った。
クロードは、地獄でもこれほどの量はないのではという火力で前方を焼き払う。礼拝堂までの真っ黒焦げになった一本道を、俺たちは直走った。
暗い礼拝堂に飛び込むと、闇に紛れていた礼拝堂内の魔物をクロードが再度焼き払う。次いでオリヴィアが急いで礼拝堂の周りに結界を張った。金色に輝く半透明の壁が、俺たちと外界とを隔てている。
「ハア、ハア……ッ! 済まない、そろそろ魔力が切れそうだ……!」
振り返ると、クロードが膝を付いて荒い息を繰り返していた。かなり辛そうだ。
「なあ、ロイク」
俺はロイクの腕をぐいっと掴むと、ロイクの顔を覗き込んだ。端正な男らしい顔が、俺を見て「なに?」とばかりに微笑む。
竜の痣を持つ俺らは、皆容姿には優れているらしい。魔力がどうたらこうたらとか神託の話を聞かされた時に、確か神官が言っていた気がする。ちっとも理解できなかったけど。
だから俺もそこそこ見られる顔をしてるけど、如何せん男らしいよりも幼さが残っていてだめだ。俺はもっと男臭い男になりたいんだ!
ロイクくらい男前になりたいなあと思いつつ、尋ねた。
「ロイク、光の魔法出せる? 俺らで甕を探そうぜ!」
残念ながら、俺は小さな魔法すら使えない。こうも暗いと、何も見えないのだ。つまりは役立たず。
ロイクはくすりと笑って頷くと、魔法を唱えて俺たちの前に光の玉を浮き上がらせた。
クロードとオリヴィアを振り返る。
「ちょっと探してくるから、休んでいてくれ!」
「ああ、済まないな」
「気を付けてね!」
「うん、いってくる!」
二人に軽く手を振るとロイクに駆け寄り、俺たちは礼拝堂内の探索を開始したのだった。
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