勇者に執着されて絶望した双剣の剣聖は、勇者の息子の黒髪王子に拘束されて絆される

緑虫

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1 四英傑

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 突如現れ、小国ヌデンニックを丸ごと瘴気に飲み込んだ厄災、暗黒竜ガーク。

 ガークを倒す為に、各地から四英傑候補が神託によって集められた。四英傑とは、勇者、聖女、賢者、剣聖のことだ。

 神託は「生まれつき身体のどこかに竜の痣がある者のみが暗黒竜ガークを倒すことができる」というものだ。これにより、それまで痣のせいで不吉と言われていた者たちが、突如脚光を浴びることになったんだ。

 まずは、ヒライム王国の第一王子である勇者ロイク。金髪碧眼の見目麗しい若者だ。鎖骨から首にかけて竜が巻き付いているように見える痣がある為、不吉と言われて立太子とされていなかった不遇の王子。

 剣技と魔法双方の扱いに優れており、人間とは思えない身のこなしから、勇者と断定された。

 厄災を取り除けば、勲功で念願の王太子となれる。ロイクは、暗黒竜ガーク退治に全てを賭けていた。

 次に、聖国マイズの聖女オリヴィア。聖女の名に相応しい、見事な白髪の儚そうな印象の美女だ。背中に竜がとぐろを巻いており、こちらは神の御使だと神聖化され、これまで神殿に閉じ込められてきた。

 大人しそうな顔に見合わず、恐ろしいほど容赦なく聖魔法で片っ端から魔物を浄化することから、疑いなく聖女と断定されている。

 厄災を取り除けば、聖なる血を絶やさない為、他国へ嫁ぐことになる。神殿に縛り付けられていたオリヴィアは、外の世界に残り続ける為に、暗黒竜ガーク退治に全てを賭けていた。

 三人目は、流浪の魔導士、賢者クロード。彼は顔に竜の痣があることから、幼い頃に両親に捨てられ、隠居中の森の賢者に拾われた。

 普段は黒いフードの中に顔を隠している陰鬱な雰囲気の黒髪の男だけど、痣があっても細面の顔は美人と言える部類のものだ。攻撃魔法も補助魔法も無詠唱でバンバン繰り出すクロードは、賢者と断定されている。

 クロードは厄災を倒すこと自体に興味は示していなかったけど、顔を見せても怖がらない仲間と共にいたい、と旅の同行を受け入れた。

 そして最後が俺、ファビアン。ヌデンニック出身で、冒険者としてヒライム王国を訪れていた時に厄災が国を襲った為、魔物にならずに済んだ。竜の痣は両腕にあって、双剣が俺の武器だ。で、俺が「剣聖」ってやつらしい。

 四英傑の中では、俺が一番若い。そのせいか、薄紫にも見える伸びっ放しの銀髪をクロードが切り揃えてくれたり、いくら食べても腹が減ってる俺にオリヴィアが笑いながらお代わりをよそってくれたり、うまく剣が研げない俺の剣までロイクが一緒に研いでくれたりと、ひとりだけ子供扱いされている気がしている。

 でも、多分それは俺がなくしたものの大きさが、他の三人と比べて大きいからなのかもしれない。

 俺は故郷を失っている。俺を愛してくれた両親や、俺の腕を「なんか強そうだな」と笑って受け入れてくれていた冒険者仲間は、皆魔物に変わってしまった。

 俺が暗黒竜ガーク退治を受けたのは、復讐の為だ。復讐の後のことは、何も考えていない。

 ヌデンニックの王城に暗黒竜ガークはいるらしい。言われずとも、俺らの竜の痣がガークの居場所を教えてくれる。俺たちは迷うことなく、かつては人間だった魔物が跋扈する道を進んで行った。

 俺が困った事態に陥ったのは、そんな旅の最中さなかだった。
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