石炭と水晶

小稲荷一照

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自動車化歩兵聯隊

アミザム 共和国協定千四百四十四年穀雨

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 共和国軍が戦争を理解していないという言葉は相応に深刻な疑義であったが、事実の一端としては多くの共和国軍人が一度は抱く感想でもあった。
 世間一般の兵隊に対する評価はともかく軍人としての意識のある文明化された組織人である彼らの殆どは、組織の理論と常識に従い各自分の内心と責任において、それぞれの部署で懊悩するばかりであったが、基本的に善良な者達の多くには善良であるがゆえに打ち手がなかった。
 共和国は巨大で共和国軍は複雑な形で巨大な中に張り巡らされた組織だったから、将軍大元帥といえども全貌を把握して働いているわけではなかったし、ましてその把握を待って戦争をしているわけでもなかった。
 彼らはせいぜいが農夫がとりあえずの収穫のために麦を撒き、とりあえずの収穫のために芋を埋めという程度の感覚で戦争にあたっていた。全員が全員というわけではなかったが、殆どの者は十年先のことや、まして敵の背後を見て戦争をしているわけではない。せいぜいが各部署に定まった予算と手元に積み上がる各部署からの要望による、近いが見通せない未来を苦労しながら見据えていただけだ。
 兵站本部は連絡未熟な共和国にあって、そういう見通しの難しい先の予定を考えずになんとなくの勘や習慣で戦争がおこなえるようにするための組織であったし、大事にならない大戦争であればそれでよかった。
 なぜなら、共和国は人は少ないが物が少ないというわけではないし、人が少ないと言っても前線で帝国を押しとどめることくらいはわけがなかったからだった。
 これまでは。
 だが、今回の戦争は全く違う様相を呈していた。
 帝国軍は土地を奪うや即座に人を押し込み、家畑を建てた。
 なぜ今になってというのは、それができるようになった理由があったからに違いないが、ともかくも共和国は帝国のことを知らないまま戦争に臨み、敗北の淵を覗き、全くどういうわけか勝利している。
 形の上では。
 そして勝利の結果として手の中にある八十万に迫る捕虜についての扱いに再び困っていた。
 語るべき言葉がないというところで言えばどういう形にせよ、作戦が勝利に終われば当然に発生する捕虜の対処をどこの誰も準備をおこなっていないことだろう。
 だが、前線における八十万の食料を考えればどこなりと後方に下げる必要があった。
 鉄道と運河で往来の良くなったチョロスやスカローという泥海沿いや、マスケットというこれまで輸送の宛のなさに捕虜の預かりに手を挙げなかった州や、鉄道がジョートまで来たことで往来が楽になった幾つかの州が合計で四十万を受け入れることになったが、それでもなお膨大な捕虜が戦地に残され、その手当もつかないままだった。
 もちろん誰の目にも共和国の優勢、国軍の活躍は誇らしくあったが、同時に何者かの魔法の霧の詐術にでもかけられているような、得体の知れない足元のなさを軍都に集う各地の大議員は感じていた。
 積み上げた物資とその苦労こそが戦いの実感である、という軍政の苦労、兵站の苦労を思えば今次の戦いは、彼らの思い描いていた共和国と違う、という違和感だった。
 もちろん、それは帝国との戦いが軍政本部が大議会で説明し、大議員の多くが作戦前に脳裏に思い描いていた疑わしいほどの安穏とした楽観に転じた、というわけでないことは大議員の誰もが理解していた。それどころか、これが勝利といえるものなのか、疑っている者も多い。
 確かに、戦傷戦死というわかりやすい将兵の犠牲は凡そ軍政本部が示した数字に桁の上では寄り添っていた。土地の上でも完全に予定通りというわけではなかったが、様々漏れ聞く形からの想像で云えば、愚痴以上の文句をいうことは不見識を謗られる程度には成功したと言える。
 だが、戦果といえるかどうか怪しげな膨大な規模の捕虜は、再びの厄介の種を共和国大議会に示した。
 強いて上げれば多少早く切り上げることになった作戦の分、前線の備蓄は多少の余裕があったが、そんなものは銃弾や砲弾ばかりの話であって、糧秣に関しては備蓄はすでにないも同然でもあった。かろうじて後方からの車輌輸送で拠点までの往来は確保されていたが、前線司令部までは掃討しきれない帝国軍や民兵組織が連絡線遮断後も戦いを続けていた。そもそも彼ら帝国軍民兵組織にとっては連絡線という概念はこの六年で殆ど失われてもいた。
 リザール川流域と呼べるほどの一帯はすでに帝国軍の土地として機能していた。
 僅かな自動車と馬車による行李の往復では軍勢を押しこむことは出来ても、敵地で馬匹を頼りに輜重を連絡し続けることは難しかった。結局、南部軍団は短期間での帝国軍の無力化は諦めてリザール川がかろうじて見渡せる位置まで後退し、友軍後方の援護をおこなうことになった。
 それがどういう意味を持つかといえば結局、共和国の作戦は一時的な勝利に過ぎず、その戦果の維持を諦めたということにほかならない。
 今のところは南部軍団だけだったが、中部北部についてもいつどのタイミングで諦めるかという、帝国軍との駆け引きの問題になっていた。
 およそ帝国指導層に共和国内の事情を見透かされた上での戦争であることに、気がついているものは共和国において少なかったが、少なくとも数名はいた。
 この戦争が単純に後装小銃の配備の失敗による歩兵戦力の低下という要素だけでなく、ほぼ完全な形で共和国の軍事的行動余地を把握して、その上で抵抗困難な圧迫をかけていることはこの数年でうすうすわかっていた。それは、歴史上の一気呵成に共和国中枢を押し流そうという帝国軍の攻勢でもなく、リザール湿地をめぐる神経戦でもなく、より大きく計算された中での大作戦であることは間違いなかった。
 もちろん前線の帝国軍将兵たちにとって、共和国の新装備の数々は脅威恐怖ではあったろうが、そんなものは統一され物量を送り込める、帝国の圧倒的な兵站への信頼の前には些末なことであった。
 帝国軍との兵站の戦いが問題であるなら、鉄道が通れば共和国が勝てるのか、といえば、勝つと信じているものも共和国内に多くいた。
 だが、クエード兵站本部長はそれでは不足だと考えていた。
 なにをどうすればよろしいのか、クエード兵站本部長は未来を見据える立場にあった。
 では自動車が、というのとも違うと彼は考えていた。
 結局は、駅なり集積所なり倉庫なりに膨大な物資が到着したとして、それを適切に前線に届ける組織が必要になる。もちろんその時間を短縮するために自動車が必要不可欠なのは言うまでもない。
 だが、それ以上に必要なのは、到着した物資を適切に部隊に届ける輜重に預けることであって、そうあるまでに管理する組織でもあった。鉄道駅の先が馬匹だろうが自動車だろうが、はたまた兵隊の足であろうが、そこは関係なかった。
 兵站部隊が前線に相応の規模で常備組織として必要になることを意味していた。
 これまでも常設の輜重部隊は当然にあったが、彼らは直接倉庫に入り込んで必要なものを前線に運ぶだけの部隊だった。物資が単純である間はそれでよかったが、すでに前線で混乱を引き起こしている機関銃と機関小銃の銃弾の取り違え混乱など、ひと目で見れば分かりそうな事故が現場では起きている。機関銃と機関小銃という名前が悪い、名前を変えようという、意見もあるがそれはそれで一つの施策として、より直接的に軍需品倉庫を管理する組織が必要だろうという結論に至った。
 既にローゼンヘン工業からは青弾黄弾なる非殺傷性の弾丸の売り込みがきている。
 機能としてはそれぞれに見るべきものがある特殊弾ではあるが、現状それらが共和国軍の補給網に乗った場合、大混乱が予想できる。
 面白げな名前に惹かれて意味もなく調達を求めてみたり、或いは用途と全く関係ないところに回る可能性もある。
 そういう愚かしい意図がなくともこのあと鉄道が膨大な量の物資を、雪崩の如く堰き止められない流れの如き早さで前線に叩きつければ、その物量によって前線は却って混乱するだろうとクエード兵站本部長には想像ができた。
 実のところを云えば、アミザムに開設されたばかりの軍用駅の軍需品列車線がすでにそうなっていた。
 各地から送られてきた糧秣や弾薬或いは革や地金、小麦や食肉やらという様々な物資がわずかひとつきの間に軍用待避線をうめつくし、更に野積みとなり一部の物資は駅で腐り始めていた。
 これはアミザムが前線から遠いから輜重の手配がつかない、と云う話題ではなく、すでに速度が変わり始めている共和国の様々が全くその速度に対応できないままに、利便を求めた結果であることは間違いなかった。
 当然にアミザムに配置される人員が倍増されたが、それでも追いつかず、再びの倍増の間に別の混乱が起きるという有様だった。
 小川が集まりやがて大河となるように各地の輜重が鉄道によって吸い集められ、それが本部からの可能なかぎり迅速に、という命令を忠実に守った結果としてアミザムの軍専用駅を押しつぶすようにして、初めての軍専用駅はひとつきで機能を停止した。
 アミザムは軍用駅ができるまでは全くの田舎町それも、一種すえた香りのする朽ちかけの街だったから土地は周辺にいくらでもあってそういう意味でも、またかつての軍都近辺の職人町としても軍用駅の設定には悪くない位置であったし広さでもあった。街道への接続も貨物自動車が余裕をもって通れ、戦車や大型重機を搬送するための超大型牽引車に合わせた広い車線規格の街路が駅から街道に向かって伸ばされていたから、アミザム市内という意味では往来の便は良好だったし、軍都やキンカイザ或いはトーンという北街道の軍都近傍の拠点を結ぶ結節点への往来も優先的に整備されていた。
 駅ができたときローゼンヘン工業鉄道部はやや狭いですが、と言って半リーグ四方ほどの土地にいっぱいの待避線と整備線を示した。それがひとつきたらずのうちに貨車で埋まっていた。一日一本百両編成の長大な軍用列車が来るたびに多くの物資が送られてくるのだが、それが二十本溜まったところで、鉄道の動きは止まった。というよりも、流石に現地アミザムの兵站部隊が音を上げたのだ。
 線路や敷地そのものにはまだ余裕があったが、人員も輜重も全く足りていなかった。
 軍用列車の貨車は公称十五グレノル積めることになっていた。もちろん積載重量いっぱいに積まれることはまずありえない。だが、そもそも何がどれだけ積まれているのか、アミザムの兵站部隊はその把握ができない状態になっていた。
 そういう何がどれだけ詰まっているのか確認できないままの推定三万グレノルの物資が集積されたまま放置されることになった。
 およそ一千グレノルで兵一万人が半年ほどで消費する物資になるという兵站上の目安があってそれに応じた行李の調達運行計画が兵站本部の戦争計画の基本であるわけだが、そういう単位の上での話としておよそ十五万の兵が一年に必要とする物資がひとつきのうちにアミザムに集まり、数万の兵の一年分の様々がそのまま二度と使えない状態になったということである。
 もちろん、貨車には満載されていることなぞありえないし、どこに何があるのかわからない状態だったから、そこまでに浪費されているはずがない、兵站本部はそう確信していたが、今もなおアミザムの鉄道駅の貨車には家畜の死体がそのままになっているものがあるし、十分に精査されていない移送命令書の山が存在している。
 かくしてアミザムの軍専用駅にとっては苦い幕開けになった。
 まもなく鉄道はキンカイザに伸び、同時に軍都にも至り、すでに予算が成立している電話網電灯網が敷設されることになるが、それで楽観している者たちをクエード兵站本部長は冷淡に眺めていた。
 自分を含めて一体誰に連絡すれば現場の状況を信頼できる形で報告を受けられるというのか、組織として全く完成していないことに本部長は気がついていたし、その完成を待つ前に各地の輜重隊は期日や人員機材等の経費或いは本部からの要請で鉄道を経由した大量の物資を送りつけ続けていた。
 これまではローゼンヘン工業が受付の留保期間を含めて引取がない場合は送り返し措置を含めて社則内規に従って処理していたし、軍としてはそれでは困ると専用駅を立ち上げたわけだが、方法論はともかく結果として圧倒的な鉄道の威力を絶望的な軍組織の無能の形で見せつけられることになった。
 いま軍の貨物は民間便に便乗して貨物線でアミザムで降ろされ、期日までの受け取りがない場合、発送駅に帰され、そこで一定期間の保管の後に処分されていた。
 電話で連絡がつかない相手は原則として貨物便は受け付けておらず、長距離便の代理を専門に引き受ける余裕のある倉庫をもつ商会が仲介に入ることが多い。
 だが、各地の軍連絡室には各駐屯地や軍需品倉庫の管理権限がないことも多かった。
 デカートのような文字通り、連絡だけをおこなうような組織もあって、しばしば問題になっていた。デカートは幸いローゼンヘン工業の私有線を長期に賃貸することで基地諸共に面倒を回避していたが、数年にわたっておこなわれていた鉄道管理についてデカート州軍連絡室は十分な研究報告を上げていない。
 とはいえ、その問題解決についてデカート州軍連絡室を預かるクロツヘルム中佐に全てを押し付けるわけにもゆかず、参謀本部も兵站本部も軍令本部でも鉄道のもたらし引き起こす、数万グレノルと云う貨物の破壊力について全く理解がなかったことは否めない。
 それは時にローゼンヘン工業鉄道部でさえ首をひねる頻度で列車が轟々と東に向かった結果でもあった。
 すでに軍用列車を運行する人員については軍人が一部乗り込んでおり、定められた時間で定められた時刻を目指し一定区間を走破する、という急いでも遅れてもいけない時計に従った鉄道運行の様式について指導を受けている最中だったから、ときに空の貨車を繋いだまま彼らは走った。
 一日に数回の発着割り込みの機会を逃すと全体の運行が止まることもあって、彼らを責めることは誰にもできないわけだが、ともかくも結果として軍用駅はますます混乱することになった。
 結局、鉄道は大量の整理困難な様々な物資、命令書上で約二万六千グレノルをアミザムに集めていた。
 それは東部戦線の将兵住民そして捕虜まで贅沢に暮らせる一ヶ月半分の物資であったが、それを輜重に移し替える作業だけでおよそ四半年がかかっていた。その間におよそ四割が盗まれたり腐ったり、或いは最初から届いていなかったりという事由で使い物にならなくなっていた。それでも半分を超える量をなんとか出来たという事実について今はむしろ感心するべきでさえあった。前線で必要だっただろう食料の多くは腐れ果てて失われてもいたが、前線で必要なものは食料だけではない。
 兵站本部鉄道課の未経験の苦闘とは別に、その頃には鉄道はトーンと軍都とアミザムを三角につなぎアミザムからはキンカイザそしてバートンに抜けていた。またキンカイザからはヌモゥズを目指して線路が伸ばされるとともにトンネル掘削用の機械が送られ組み立てが始まっていた。軍都からは単線二本が同時に伸び南街道とセンヌを同時に目指しと線路の伸張は休まるところを知らなかった。
 バートン製鐵の鉄鋼は全くローゼンヘン工業の望む量には足りていなかったが、それでも鉄鉱石の大手である彼らは鉄道が届くや猛然と鉄鉱石と石炭を鉄道に載せていた。
 その量は軍需列車用の時間枠を使って遥々デカートまで送られていた。
 様々に言いようはあったが、結局、鉄鋼材を鉄道部が望むだけの値段で大量に手に入れることは難しいことは分かったからでもあった。
 それでもローゼンヘン工業とバートン鉱業との付き合いは露天掘り用の機材を含む様々な形でゆるやかに行われた。機械の導入で最初の露岩が容易になったことで、キンカイザは五万人規模の捕虜受け入れに同意した。バートン鉱業が捕虜労務に使うためである。
 バートンからの鉱石は量はともかく質は良かった。鉄も銅もフラムの石に比べれば苦労が全く無く使えるような鉱石ばかりだった。
 それは、ついでのオマケ、を含まないということでもあってマジン個人の趣味にとって必ずしも面白げではなかったが、一旦キンカイザそしてバートンが鉄道に接続すると共和国全域で鉱石の価格は大きく動揺した。共和国の西東で分断されていた鉱石の相場が一気に渦を巻くように均されていた。
 それは地金や鉱石がどこまで高くなるのか、とミョルナの西側の地場の精錬所のいくらかや金属を扱う細工師たちを心配させていたローゼンヘン工業の蠢きの波及による災禍じみた高騰を幾分鎮めてくれた。
 名前だけ残り事実上の商社兼倉庫管理会社になっていたロータル鉄工は軍用小火器の取り扱い拠点として、様々なローゼンヘン工業の軍需製品の集積基地として扱われるようになっていた。
 実態としてローゼンヘン工業の貨物車整備基地や貨物便運行乗員のための宿泊施設として重要な意味合いを持っていたし、奴隷が不要になった後には敷地を整理整備し直していたが、鉄道によって経営本部と接続されたことで商社としての取扱商品に幅が出ていた。
 もちろん第一の顧客は共和国軍である。
 あまりに軍事的に重要な設備施設になってしまったので、旧来の市街の屋舎では収容しきれず聯隊駐屯地に近接した形で専用引き込み線を設け、アミザムの街の川向うに移動することになった。
 ロータル鉄工は騎兵歩兵用の小火器に始まり砲兵用の測量機器や軍用車両の部品或いは携行保存食や各種燃料薬品まで一通りのものが手に入る、軍需品商社と化していた。
 個人用小火器は扱っていないが、拳銃弾としてはやや大きく扱いも面倒な小銃弾に変わって、長さの短い金属薬莢入りの拳銃向け弾薬を取り扱っていて、既にあちこちの拳銃工房で利用が始まっている。
 元来は民間に販売していないはずの小銃弾は当初から予想された通り様々な経路で横流しがされていた。必殺を目的とした小銃弾は弾体尾部を長く作ってあり、狩りなどで使うと肉が無意味にえぐられるなどの問題もあり、短銃身の拳銃を片手で発砲するとキックで銃身が跳ねるとか、警告目的の射撃で相手を殺すことが事件として多いことから、旧来からある拳銃用の銃弾を公開した。
 新製品としてはクラクションガンとしての利用ができる青弾の亜種として黄球が登場していた。黄弾は、発砲後速やかに速度を失いつつ分解し弾薬表面が一気に発火することで五キュビットほどの火炎と轟音と煙とを撒き散らす特殊弾だった。発砲すると銃口に大きな発砲炎を上げる弾薬で目をつぶっていてもひどく明るく感じるものだった。
 主に夜間の信号用で獣避け等の副次的な用途でローゼンヘン工業で使っていた物を販売している。
 共和国内の商業信用は実績の積み重ね以外にはなく、これまでのロータル鉄工とその配下の経営資産を一掃することで旧来の疑獄事件に巻き込まれることを避けた経営判断によって、経営的な連続も顧客情報の連続も失われていた。
 皮肉なことにロータル鉄工が本格的な経営刷新が完了し新組織が営業を始めるようになると、賊徒やジューム藩王国経由の帝国軍の調達と思しき注文が増え始めた。
 あくまで疑いや状況証拠という以外には判断できないわけだが、基本的な書式様式が違うものだったり、聞いたことのない部隊や将軍の名前だったりというものだ。すでに兵站本部による正規調達経路が確保された武器の調達は部隊認証の装備からは外れていて、統帥権による緊急需要品請求であってもそういう注文については憲兵本部と兵站本部にそれぞれ報告している。
 他にも不正規な弾丸を使ったことによる不良と思われる故障の持ち込みもあり、そもそも民間販売をしていない小銃についての流出の報告と調査を憲兵本部に依頼することも増えていた。
 実態として憲兵本部からの出向の社員なども紛れていて、ロータル鉄工が旧来の組織と全く関係ないか、ということはもはやありえないわけだが、ともかく経営の軸足は完全に新体制に移り実績を積み重ねていた。
 ロータル鉄工の経営主軸はもはや製造にはないわけだが、様々な機械の企画製造はおこなっていて、幾らかのマスケット銃の改良品の提案なども行っている。
 これは共和国内各地で起こった、マスケット銃の再評価と新型マスケット銃の流行に応じたものだった。
 一旦マスケット銃が軍の正規装備から外れると急速に発展を始めたというのも面白いことだった。これまでは的を狙わず銃列で射撃する空間を制圧する兵器だったものが、一発必中を期するための道具へと急速に変化を始めていた。
 これは工作機械が普及したせいではなく、軍が定期的に大規模導入をしていた安定産業としての市場が失われたことによる新規顧客に向けた対応であった。軍が定めていた規格は各地の鍛冶屋に容易に作れることを前提にした規格でそれもひどく緩やかなものだったが、軍用銃としての役目を終えたマスケット銃が廉価かつ高性能な狩りの装備として一気に普及した。
 それは扱う腕でなんとかするにしても、もうちょっとなんとか出来るだろうという不出来なもので、これまでは飲み込んでいた言葉を自分の財産道具として扱い始めた市井の者たちがそれぞれに形に手を入れ始めた、ということである。
 それは兵站本部或いは軍令本部の一部参謀たちが、なぜこれを早く出来なかったか、と呻きを上げるような種類の進化でこの五年ほどで、マスケット銃が当たらないと言うのは嘘である、ということを示すようになっていた。
 マスケット銃が当たらない理由は基本的には弾丸が銃身内で不規則な衝突を起こしつつ加速するその過程にあった。
 最終的に弾丸は最も抵抗の小さな前方への運動を得るのだが、その他に様々な回転を中心にした運動要素を獲得する。
 また微細な視点としては、弾丸が銃身を通過する過程で変形を連続的に遂げる。或いは銃身の保持を振れさせ銃口をずらすというものもあった。
 このことによってマスケット銃の弾丸は、毎回複雑な運動要素の塊となり、毎回違った飛翔をすることになる。
 一つには鉛という変形しやすい金属を弾丸に使っていることと、一つには寸法の弾丸と銃身の径の大きなちがいにある。
 なぜそうであるかといえば、銃身より硬い金属を使うことは高価な銃身を傷つけるし、銃身と同じ鉄の弾丸を使うと打ち出す火薬の熱と衝撃で鍛造され張り付いてしまう。
 寸法の話はもっと簡単で軍用小銃の宿命として常に雑に扱われるからだ。
 戦場という非常の場において、命以外の全ては軽視される宿命に在る。したがって、軍用兵器であるマスケット銃もそう在ることを前提に作られている。
 また、物資輸送補給能力の限界というものも重要な要素になる。
 結局マスケット銃が鉛球を使い、銃弾と銃口がゆるい口径を持っていることは宿命だった。
 命中精度を上げる最初の努力はもちろん銃口を銃弾に揃える或いは銃弾を銃口に揃えるという方法だった。
 できるだけ滑らかに銃身内部を磨き上げ、銃弾が火蓋を切らねば銃身に落ち込まないほどに銃弾と銃身を揃えてゆく。
 精度を上げる努力の結果はマスケット銃が元来持たない寿命という概念を獲得することにもなったが、つまりだいたいのところ原因はそういうことであった。精度を上げてゆくと、使っていくうちに精度が維持できなくなる現象がどうしても発生する。
 次に単純な方法で弾丸を円筒形にするという物が登場した。これによって自動的に銃弾の運動が銃身によって制限され、銃の挙動が著しくわかりやすくなった。
 それに続いてマスケットに旋条を刻むというアイディアや、弾丸に鉄のカップを仕込んで僅かに弾丸を押し広げるという方法であるが、弾丸や銃身に手を加えずとも安く効果があったのは、薬包の包み紙を決まった形に折る或いは専用の抑え紙を用意する、と云う方法だった。
 それは火薬の注ぎ方にも繋がった。
 薬研で刻んだばかりの火薬をひたすら精度を上げたマスケット銃の銃身と弾丸で使うことはもはやできなくなっていた。
 火薬に火を回すためにはある程度の密度が必要で押し固め、抑え紙で支えるという作業自体は粉末状の火薬の場合には必要で正しい。だが、その抑え紙によって弾丸の姿勢が毎回変わるということが問題だった。悪い時には弾丸が銃口から飛び出した後に抑え紙が衝突していた。
 技術的には硝酸処理や紙を薄くすることで対処もできたが、湿気をきらい装薬をよくばり手間を惜しみ弾丸の大きな軍用小銃では抑え紙の問題は対処が難しかった。
 結局これは紙梱包のまま銃身に押し込み横から雷管の付いた針を叩き込むと云う方法で対処する方法が登場するまで解決はしなかった。
 火薬を押し固めると云う問題に顆粒状の火薬で対処したモノもあった。こうすると火薬の燃焼速度は穏やかに銃身から飛び出さずに確実に燃えた。
 細かく挽いた火薬をいれた器を揺すりながら薬液をこぼし、火薬の粒を作ってゆく。
 それを定めた隙間の板の下で押しつぶし転がしながら大きさを揃えねり固める。
 こうして揃えた粒は銃身内でつき固めなくても綺麗に燃焼したし、弾丸と銃身の隙間より大きく作ってあれば零れもしなかった。また、粉に比べて銃身に張り付く量も燃える前に銃口から飛び出す量も少ない。
 結果として汚れも少なく抑えられ、また不発不完全燃焼といったものが減り、燃焼反応が膨張させるべき空気量が増え顆粒化によって銃弾の威力が増した。
 この技術が登場することで銃身に弾丸を削らせ密着させるような技術は本当の価値を示すようになった。
 火薬の適切な顆粒化は時に火薬を三割も増した時に匹敵する威力を示した。
 最終的に、こればかりは工作技術の進歩によって銃弾或いは銃身に旋条を刻み、先端を尖らせ弾底部にくぼみを設けた円筒形の弾丸を、顆粒状の黒色火薬で適切な燃焼速度とガス圧による加速を得ることで、僅かに膨らませ銃身に密着させつつ整った軸回転させながら射出する、もはや別のもの新型と云って良い銃器が登場するに至って、マスケット銃はかつてない命中率と威力を得ることに成功した。
 口径で等しい軍用マスケット銃に比して、威力射程でほぼ二倍、同射程の散布でほぼ四分の一に絞れる銃もあった。
 単発の射撃性能で言えば機関小銃に比べても何ら遜色のない、銃弾の重量を考えれば部分的に勝ってすらいる性能である。
 前装銃の宿命的な問題点はさておき、銃として道具として命中しないという点については、殆ど風評と云っていい問題となった。
 実を言えばそういったそれぞれの技術そのものは五十年も昔から現れては消えていたものばかりだった。
 そしてこういった高性能小銃が機能を発揮するためには使用運用する者が小銃の機能機構について十分に把握していて日常的に適切な手入れをおこなえることが重要だった。
 共和国で国軍においてマスケット銃の技術発展を摘んでいたのは軍需品倉庫制度を管理する兵站本部の能力不足或いは共和国という国家の体力不足、そしてマスケット銃を使う兵の能力資質によるところが大きい。
 有事に備えた兵站に堪える備蓄を揃えることを目的とした軍需品倉庫制度はその性質上、地域性や工房の能力を無視できる装備を求めていた。
 またそうでなければ運用ができなかった。
 結果として安く数が揃えられ単純な物が受け入れられていた。新しい物を受け入れる余裕がなかったと云っても良い。
 共和国全体の技術水準としては未だに弾丸も銃弾も公差として認められた五シリカというものをあっという間に食い潰す程度の工作技術であったから、昨今登場した新型マスケットの精度水準を考えれば驚くべきだった。
 むろん装填速度や射手の操作の熟練への習得期間はマスケット銃は全体において後装銃に対して不利な面が多いが、単純に命中と威力という点においては、兵器としての軛を解かれたマスケット銃はこの数年で躍進の進歩を遂げていた。
 技術の環境への適応の皮肉に兵站本部の大方は気がついていなかったが、これも広大でありながら流通の速度の上限が馬車輸送に縛られている事による共和国の限界だった。
 ローゼンヘン工業は単純な愛国心というよりも、連結的な企業収益と規模体力を背景に第二期の機関小銃の整備計画でとうとう一丁二千タレルという金額を割り込んできていた。
 当初に社主が豪語していた一千タレルを目指すというと云う数字には未だ及ばないものの、一千タレルでは軍用マスケットでさえ調達は困難であることを考えれば、ある意味で順当な金額だった。
 ローゼンヘン工業は計画当初からその最大の敵をデカート州ヴィンゼ或いはローゼンヘン館から軍都までの距離と定めて対策を講じていた。理想な路程では三百五十リーグの距離も一般的な駅馬車が通る道では四百五十リーグに迫り、軍の輜重が野営を前提にする荷馬車行李を通わせられる経路でも四百リーグをやや割る程度というものが一般的な北街道の距離である。片道概ね二ヶ月から三ヶ月というものが標準的な輜重の運行期待速度でまれに順調だとひと月半ということもあるが、それは馬匹と荷駄を贅沢に使った数字であまり参考になるものでもない。馬匹はいきものだから疲れさせないように或いは無理して使えば、数字はある程度好転するが、それは長期的な採算とは別のものだった。更に様々な理由で街道はしばしば往来不能の状態になる。
 ローゼンヘン工業はその最初から輸送を馬匹に頼ることを諦めていた。
 それが革命的な自動車輸送である。
 そして更に大規模な鉄道輸送を軍都まで完成させた。
 現在開放されている鉄道整備用の保線路は軍都デカート間で四百リーグをやや超えるものの道がなめらかで斜度がゆるやかに取られていて、途中宿場が殆どないことを除けば、理想的な街道であると云っていい。極めて車輌運行に適した道である。
 ここに至ってローゼンヘン工業は長距離輸送の主力を鉄道に完全に譲り、自動車輸送は補助的な役割に引き継いだ。大豆油の高騰やそれを受けての燃料の切り替え等の問題もあるが、長距離輸送に際しての人員管理が意外と難しいという問題が大きい。自動車が陳腐化するに従って自動車を狙った強盗などというものも横行し始めていて、大きさからそれなりに頑健な貨物車といえども運行乗員の神経をすり減らすことは避けられなかった。それに比べれば鉄道のほうが数段管理がマシで投資もしやすい。
 クエード兵站本部長はローゼンヘン工業の社主で商売で様々を卸売しているはずのゲリエ卿が自動車を含めしばしば売り渋り、それも条件の有無にかかわらない戦争の先行きに不安を抱くような口振であることに、疑念不審にも似た疑問を持っていたが、アミザムで軍の手による管理を行っている軍専用駅の状況を見るに理由の一端を見た思いがした。
 アミザム軍用駅では失敗したことをローゼンヘン工業の各地の駅は順調にこなすことができている。それは様々な方法で贅沢に苦労できる量の物資を扱うことができるということだ。
 ならば、どうして兵站上問題があることが予見できたはずの第二次反攻作戦に彼が新兵器を融通したかと疑えば、おそらくは彼も戦争の勝利を望んでしまったからだろう、としか思えなかった。
 そして共和国は自ら望んだ勝利によって、再び苦境に陥った。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

催眠アプリで恋人を寝取られて「労働奴隷」にされたけど、仕事の才能が開花したことで成り上がり、人生逆転しました

フーラー
ファンタジー
「催眠アプリで女性を寝取り、ハーレムを形成するクソ野郎」が ざまぁ展開に陥る、異色の異世界ファンタジー。 舞台は異世界。 売れないイラストレーターをやっている獣人の男性「イグニス」はある日、 チートスキル「催眠アプリ」を持つ異世界転移者「リマ」に恋人を寝取られる。 もともとイグニスは収入が少なく、ほぼ恋人に養ってもらっていたヒモ状態だったのだが、 リマに「これからはボクらを養うための労働奴隷になれ」と催眠をかけられ、 彼らを養うために働くことになる。 しかし、今のイグニスの収入を差し出してもらっても、生活が出来ないと感じたリマは、 イグニスに「仕事が楽しくてたまらなくなる」ように催眠をかける。 これによってイグニスは仕事にまじめに取り組むようになる。 そして努力を重ねたことでイラストレーターとしての才能が開花、 大劇団のパンフレット作製など、大きな仕事が舞い込むようになっていく。 更にリマはほかの男からも催眠で妻や片思いの相手を寝取っていくが、 その「寝取られ男」達も皆、その時にかけられた催眠が良い方に作用する。 これによって彼ら「寝取られ男」達は、 ・ゲーム会社を立ち上げる ・シナリオライターになる ・営業で大きな成績を上げる など次々に大成功を収めていき、その中で精神的にも大きな成長を遂げていく。 リマは、そんな『労働奴隷』達の成長を目の当たりにする一方で、 自身は自堕落に生活し、なにも人間的に成長できていないことに焦りを感じるようになる。 そして、ついにリマは嫉妬と焦りによって、 「ボクをお前の会社の社長にしろ」 と『労働奴隷』に催眠をかけて社長に就任する。 そして「現代のゲームに関する知識」を活かしてゲーム業界での無双を試みるが、 その浅はかな考えが、本格的な破滅の引き金となっていく。 小説家になろう・カクヨムでも掲載しています!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

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