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21話 突然のプロポーズ

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「なあ、俺と結婚しよう」

「はあ!? あんた、ついに正気を失ったの!?」



 今日も元気に精液を搾り取られていた勇者が、何の前振りもなく突然プロポーズした。

 もちろんスライムにとっては、青天の霹靂だ。

 

「知っているんだぞ、魔王が勇者と結婚できるって」

「できるのと、したいかは別よ」

「な、なんだよ、これだけ一緒にいるんだ。もう夫婦も同然じゃないか!」



 あっさり断られて、泣きが入っている勇者だが、実はすでに魔王城に来てから100年は経っている。

 その間に、犬はコボルトに戻ったので、きっと今頃、フナも人魚になっているだろう。



「こんなに長生きできるって知ってたら、もっと早くに申し込んでたよ」



 勇者の体があまねく人間らしくないように、その寿命も魔物じみていると判明した。

 だから勇者は決意したのだ。

 

「聖力も全く衰えないし、これならまだ、残された時間はあるはずだ。それなら、お前にもっと寄り添っても、いいかなって思ったんだよ」

「訳が分からないわ」

「せっかく心を通じ合わせても、あっけなく俺が死んだら、お前は悲しむだろう?」

「だから今まで、遠慮してたとでも言うの?」



 やれやれと言いたげなスライムに、勇者は真剣に頷いている。

 こんなところが馬鹿に真面目だから、スライムはつい絆されてしまうのだ。

 

「俺よりも、お前に相応しい魔物がいるかもしれないって悩んだけど、考えてみたらお前より強い魔物なんていない」

「私ほど聖力を取り込んでいる魔物は、他にいないからね」

「この世界は弱肉強食だと聞いた。だったら、これからもお前を強くしてやれる栄養剤の俺が、一番相応しいんじゃないか?」

「突飛すぎるわ」

「理由はなんでもいいんだよ。肝心なのはそこじゃないから」

「どこなのよ?」

「これからもずっと、お前の側にいられる権利が欲しい」

 

 結婚は契りだ。

 ペットと飼い主の関係よりも強固だ。



「もうずっと、お前しか抱いてない。これだけ一途な俺を、捨てるつもりか」

「人聞きが悪いわね。嬉しそうに搾り取られているくせに」

 

 大きくなったスライムの軟体を、両手で愛おしげに撫でながら、相変わらず勇者は腰を振っている。

 

「だいたいプロポーズというのはね、もっとロマンチックに行われるべきものなのよ!」

「分かった。お前の心を掴むまで、何度でもやり直そう!」



 乙女なスライムを満足させられるだけのプロポーズを完遂するまで、それから勇者は10年ほどかかった。

 

 ◇◆◇◆



「スライムはどうやって妊娠するんだ?」

「しないわよ」

「なんだって!? じゃあ、俺たちの間には、愛の結晶が生まれないというのか!?」



 それは勇者とスライムが結婚して、50年目のことだった。

 

「当たり前でしょう? 魔物はその辺でポンと生まれるんだから」



 諦めきれない勇者は、スライムの腹あたりを撫でまわす。



「ここが膨らんでくれたらなあ。そしてスライムそっくりの赤ちゃんが、生まれてくれたらなあ」

「ちょっと! くすぐったいわ!」



 ふふっと笑うスライムが、勇者の手をどけようとしたとき――。



 ビカッ!



 その全身が、銀色に輝いた。



「うわ! どうした一体!?」



 眩しくて目を閉じた勇者が、ゆっくりと瞼を持ち上げる。

 すると、先ほどまでスライムがいた場所に、銀色の女性が座っていた。



「俺のスライムが消えてしまった!!!!!」

「落ち着きなさいよ。どう見ても、これが私でしょ」



 半狂乱になりかけた勇者を、スライムが片腕で押さえつける。

 下手に暴れられて、魔王城が半壊しては敵わない。

 

「腕があるって便利ね」

「スライムだ!!!!!」



 銀色の女性がスライムだと分かると、勇者は縋りつく。

 

「どうしてこんな姿に……!?」

「私にも分からないわ。でも銀色ってことは、これが骨のドラゴンが隠していた特技なのね」



 これまで、ピンク色のスライムの体内を漂っていた、銀色のラメ。

 それは骨のドラゴンを倒した際に、奪ってしまった力に由来していた。

 邪魔にならないからと、ずいぶん放置していたが、こんな使い方があったとは。

 

「……形が変わっただけだろうか?」

「どういうこと?」

「もしかしたら、性質も人間寄りに、なっていたりしないか?」



 じりじりと、勇者がスライムを追い詰める。



「気色悪い顔を近づけないで」



 むに、と頬を押しやられた勇者だったが、それで諦めるほどヤワじゃない。



「この姿で試してみたい。妊娠するかもしれないだろ」

「冗談でしょう?」

「俺の夢がまた、叶うかもしれない!」

「女体でヤりたいだけなんじゃないの?」

「……」

「なんで黙るのよ!?」



 説得に失敗した勇者だったが、基本的にスライムは流されがちだ。



「仕方ないわね。一度だけよ?」

「ありがとう!!!」



 性欲絶倫の勇者が、一度で終わるはずはなかった。

 だが、サキュバスを抱いたときよりも、ことさら丁寧に愛撫する勇者に翻弄されて、スライムは人型での性交を数回ほど受け入れてしまった。

 そして何の因果か、スライムの腹は膨れたのである。
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