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16話 黒色のボンデージ

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 ある日、勇者のもとを見知らぬ女が訪れる。

 しかしここは、魔王城の中だ。

 女が人間のはずはない。

 

「あら……これは予想していた以上に、美味しそうな聖力ね」



 真っ赤な髪と真っ赤な瞳、きゅっと弧を描く唇に、艶やかな赤いグロスが良く似合う。

 褐色の柔らかな肢体は、黒色のボンデージに包み隠されているが、ラバーに似た素材のおかげでぴったりと張りつき、淫らな凹凸を強調していた。

 勇者は目を皿のようにして、女の容姿を眺める。



「うふふ、私に興味を持ってもらえたかしら?」

「素晴らしい! できればそこで、くるっと回ってくれないか?」



 長い髪を色っぽくかきあげると、女は勇者の望み通り、ゆっくりとターンして肉感的な体を見せつけた。

 しなやかな背中から続く豊満な尻のラインや、細い体には不釣り合いなほど飛び出たバストが、勇者の劣欲をそそる。

 ごくりと唾を飲みこむ音が、女にまで聞こえた。



「ねえ、私と遊ばない? この体を、好きにしていいわよ?」



 勇者はピンときた。

 これが魔物の娯楽なのだ。



「そうか、だから魔物には雌雄があるのか」



 丸いだけのスライムに、男女差があるのが不思議だった。

 しかし娯楽として性交をするには、役割分担が決まっていたほうがいい。

 勇者はなんの警戒もせず、女を手招いた。



「ちょうど、時間を持て余していたんだ。相手をしてくれるなら助かる」

「……チョロいわね」



 ニヤッと笑うと、女は勇者のいるベッドへ上がる。



「私はサキュバスなの。本当ならあなたが眠っている間に、夢の中に登場するはずだったんだけど、ちょっと事情があって入り込めなくって……」



 なぜなら夜は、スライムが勇者の聖力を搾り取っている。

 そんな中、歴代最強の名を欲しいままにするあの魔王に、バレずにつまみ食いをするのは難しい。



「だからこうして、昼に忍び込んだって訳。実物の私を抱ける機会は、貴重なんだからね」

 

 サキュバスの説明は、勇者の耳を素通りしていた。

 なぜなら近づいてくるサキュバスの体を、どこから触ろうか思案するのに忙しかったからだ。



「まずは胸か? いや、細い腰も捨てがたい。待てよ、つま先から順に……」



 両手をわきわきさせながら、勇者は視線をキョロキョロとうろつかせる。

 くすりと笑うと、サキュバスは誘うように、大きく股を開いた。



「本命からじゃなくていいの? 私の準備は出来ているわよ?」

「分かってないなあ。AV観るとき、導入部分を飛ばす派か? 感情移入するから、本番が味わい深いんだろうが」

 

 男は恥じらいとチラリズムが好きなんだぞ、と勇者はサキュバスに説教する。

 

「未開の地を分け入る楽しみ、っていうのがあるんだ。着ている服だって、いきなり脱いだら、白けるだろう?」



 全裸の勇者には言われたくない。

 ぷくっとサキュバスが頬を膨らませた。



「何だっていいわ、もらえるものをもらえるんなら」

「もらえるもの? 見ての通り、俺は何も持ってないが?」



 唯一の持ち物だった、スウェットと便所サンダルを溶かされてしまって、勇者は裸一貫になったのだ。

 

「嘘おっしゃい。そんなに光り輝いていて、聖力がないなんて信じられないわ」

「ああ、俺の聖力が欲しいのか」



 納得して勇者は頷く。

 

「しかし、俺の聖力は桁外れだぞ? 特に精液はヤバい。中級レベルの魔物なら、あっけなく昇華させてしまう」



 だからこそ勇者は、お触りだけで我慢しようとしていた。

 ところがサキュバスは驚く回答をする。



「大丈夫よ。私のレベルは特級だから」

「特級ってことは……四天王クラスか」

「すぐにやられちゃった情けない雑魚と、比べないで欲しいわ」



 サキュバスはかつての四天王を嘲笑する。



「私は魔王には媚びないの。なぜなら……」



 勇者へ馬乗りになったサキュバスが、蠱惑的に微笑む。

 そして勇者の耳元へ顔を近づけ、ひっそりと囁いた。



「私が次の魔王になるからよ」
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