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12話 もしかして恋仲

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「あ~、このまま行くと、俺も死ぬのか。どうせならその前に、あいつに会いたかったな」



 腕に抱えた犬をわしゃわしゃと撫でながら、諦念した勇者が嘆く。

 その気落ちした様子に、く~んと犬は小さく鳴いた。

 だが人魚たちは、何やら期待を込めた目をしつつ、励ましてくる。

 

『私たちが知る勇者たちの中で、あなたは最も聖力が強いわ』

『運が良ければ四天王を昇華して、魔王様まで辿り着けるかもしれないわよ?』

『その……ピンク色のスライムとは、もしかして恋仲だったの?』

「そんな訳ないだろ!」



 そわついている人魚たちの勘違いに、勇者はすぐに訂正を入れる。



「気が合ったんだよ。一緒にいると楽しくて、こいつとなら旅を続けてもいいなって……」



 ピンク色のスライムを思い出すだけで、苦いものが込み上げてくる。

 これが恋かもしれないなんて、冗談じゃない。



「俺が女心を理解してないせいで、スライムを傷つけたのなら……ごめんって謝りたい」

 

 そして、できるならば、前のような関係に戻りたい。

 ピンク色のスライムは、勇者にとって唯一だった。

 勇者はまた、寂しくなった懐を、撫でていた。



『本人は気づいてないみたいだけど、やっぱり恋じゃない?』

『別れたくなくて、追い縋る男そのものだもんね』

『どうする? 協力する?』



 勇者は肉体改造されているので、聴力もいい。

 内緒話をしているつもりの人魚たちの会話は、筒抜けだった。



「違うって言ってるだろう。でも……協力してくれるのか?」

 

 心許ない勇者の声に、ざばっと人魚たちが水から顔を出す。



「私たち、こう見えても情け深いのよ!」

「過去の勇者たちにも、それぞれ知恵を授けたわ」

「馬鹿な男たちは信じなかったけど、あなたは違うわよね?」



 人魚たちにズイッと迫られ、勇者はコクコクと慌てて頷いた。



「俺はこの世界について、よく知らない。教えてもらえるなら、何だってありがたいよ」



 勇者の返答は、人魚たちのお気に召したようだ。

 にこりと微笑むと、秘密の話しをしてくれた。

 それは――。



「精液って保管できるのよ」

「勇者はすべからく絶倫でしょう? 何度も射精してくれるのは、ありがたいけど……」

「それじゃ私たちの許容量を、オーバーしちゃうの」



 人魚たちが一度に受け取れる聖力には、限度があるらしい。

 だからね、と小声になる。



「飲んだふりをして、吐き出していたの」

「それを保管しておいて、改めて違う日に服用するのよ」

「そのときに便利なのが、この湖に生息している亀の卵よ」



 亀の卵? と勇者は繰り返す。

 おぼろげな知識だが、ピンポン玉のようなウミガメの卵を想像する。

 そんな勇者へ、人魚たちが指で輪を作って、大きさを示してくれた。



「私たちの手のひらに隠れるくらいよ」

「予め穴をあけて、中身を空にしておくの」

「そこへ入れたものは、なぜか腐敗しないから、いつまでも保存しておけるわ」



 人魚たちの言いたいことが、なんとなく勇者にも分かってきた。



「つまり、それが俺の武器になる、ってことだな」

「そういうこと!」

「攻撃の意志がないのに、中級だった妹をフナにしたほど、あなたの精液が持つ聖力は強いのよ」

「倒そうと思って特級の魔物に精液をかければ、きっと効き目があるわよ」

「なるほどねえ、そういう戦い方があったか」



 四天王を前にして、オナニーを始めなくてもいい。

 亀の卵に閉じ込めた精液を、投げつければいいのだ。

 

「ちなみに、精液の濃さと聖力の強さには、関連があるだろうか?」

「どの勇者も、一発目が最高に美味しいわ」

「二発目以降は、徐々に聖力が衰えるわね」

「数日間、我慢してから射精すると、かなり濃いわよ」



 どれも参考になる意見だった。

 思い返せば出会った当初、ピンク色のスライムにぶっかけた1発目は、固形といっていいほどの塊だった。

 逆に8発目などは、色も薄いし粘りも少ない、出がらしのようだった。



「俺のやることが見えてきたな。限界までオナ禁して精液の濃度を高めている間に、投擲の練習をしてコントロール力を身につけるぞ!」



 元気を出した勇者を応援するように、犬がわんわんと吠えた。

 犬はそれから、勇者のよき練習相手となる。
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