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10話 歴代勇者との違い

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「あなたは聖力の強さが段違いよ!」

「私たちは上級だから、それが分かるの」

「妹はまだ中級だったから……ただの勇者だと思って、飛びついたんでしょう」

 

 人魚の姉たちが言うには、勇者は歴代の勇者と比べて、魔物を昇華させる能力が別格らしい。



「そんなにか? 俺にはまるで、自覚がないんだが?」

「ほとんどの魔物は、あなたから何らかの威圧を感じて、とっとと逃げ出すはずよ!」

「聖力が見える上級以上であれば、あなたの聖力の輝きが眩しく感じられるわ」

「自分が取り込めるレベルの聖力かどうか、見極められない愚か者だけが……ああして、昇華されてしまうのよ」



 姉がちらりを目線を投げた先には、水草の間をウロウロしている金色のフナがいた。

 無理やり勇者にぶっかけられた犬と違い、人魚は自ら精液を欲しがった。

 自業自得だと、姉たちは言いたいようだ。



「妹をフナにして悪かったよ。精液を飲んだらどうなるのか、知りたくて……」

「気にしないで。あの子も一生、フナのままではないから」

「私たち魔物は、統べる魔王様がいる限り、何度でも蘇るの」

「逆に魔王様が勇者に倒されてしまえば、フナでいるしかないんだけどね」



 三人の人魚の視線が、勇者に集まる。

 果たしてこの勇者は、魔王を倒してしまうのだろうか。

 そう値踏みする目だった。

 だが今のところ、勇者本人にその気はない。



「お前たちは、これまでの勇者を知っているんだろう? どうして魔王を倒せなかったんだと思う?」

「そりゃあ、魔王様が強いからよ!」

「私たちのトップに君臨する魔王様には、全ての魔物の中でも、最も強い魔物が選ばれるの」

「常にその座は虎視眈々と狙われていて、ひっきりなしに挑戦者が現れるわ」



 勇者は姉たちの話に頷く。

 王様たちが召喚する勇者が、勝てない訳が分かった。



「いきなり異世界から呼び出されて、着のみ着のままで放り出された勇者が、そんな百戦錬磨な魔王に勝てるはずがないか」

「詳しくは知らないけれど、勇者の多くは、魔王様まで辿り着いてないみたいよ」

「魔王城までは行けても、そこには魔王様をお護りする、4人の親衛隊長がいるからね」

「私たちは密かに、四天王と呼んでいるの。5階建ての魔王城の、1階から4階までを、それぞれ防衛しているわ」

「なんだか急に、ゲーム味を帯びてきたなあ。『あいつは四天王の中でも最弱』ってやつか」



 1階を護ってる親衛隊長が、それに該当するんだろうな。

 腕組みをした勇者は、曖昧な知識でなんとなくそう思った。

 

「しかし何の武器もなく、勇者はどうやって戦うんだ? 俺はこれまで意図的に、魔物を倒したことがないんだが?」

「勇者には聖力があるじゃない。なまくらの剣や槍しか使えない、図体ばかりが大きな人間とは違うわ」

 

 人魚の姉は、軽率に騎士をディスった。

 どうやら魔物に、剣や槍は通用しないらしい。

 

「その聖力の使い方が分からん。戦闘中にシコシコ扱いて、精液をぶっかけて回るわけにもいかんだろう?」

「精液の中に多く含まれているのは確かだけど、聖力っていうのは、常に勇者からオーラみたいに漏れているの」

「だから攻撃する意思を持って接触するだけでも、十分に魔物へダメージを与えられるわ」

「私たちが過去の勇者たちにパイズリしても大丈夫だったのは、過去の勇者たちの聖力がそこそこのレベルで、さらには私たちを傷つけるつもりがなかったからよ」



 勇者は先ほど、気持ちよく顔射をキメた自分を思い出す。

 人魚の巨胸に挟んでもらえる機会を、逃す男なんていない。

 過去の勇者たちから精液を搾り取り、体内に取り込んでレベルアップした姉たちは、聖力の強さが見極められる上級になった。

 そんな姉たちがそろって、勇者は無理だと首を横に振る。



「こうしてあなたの側にいるだけで、目が潰れそうなのよ!」

「聖力が強すぎるから、私たちには取り込めそうにないわ」

「ましてや攻撃の意志を持って精液をかけられたら、特級の魔物だろうとひとたまりもないでしょうね」

 

 ここで人魚の姉から、新しい単語が飛び出た。



「特級? それはもしかして、上級よりも上ってことか?」

「私たちみたいな、にわか上級とは違う上級の魔物が、魔王城にはゴロゴロいるの。それを束ねているのが、特級レベルの四天王たちよ」

 

 強そうなのがいるんだな、と勇者はうんざりした。

 ますます魔王城に近寄る気が失せる。



「これまでの勇者たちは、馬鹿正直に挑んで、死んでいったのか」

「……誰も魔王様を倒せなかったわね。私たちがフナになっていないのが、その証拠よ」

「勇者の血肉はご馳走だから、敗けたらその場で、骨ごと食べられちゃうはず」

「だけど、あなたは強いから、もしかしたら――」



「俺は魔王になんて興味ない。それよりも、大事な目的があるんだ」
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