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4話 ホーンラビットの孔
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「なんだよ、訳わかんねえ。いろんなパターンを試した方が、Hは楽しいだろうが」
ピンク色のスライムにはもう届かない愚痴をこぼし、勇者は歩き始める。
端正な顔立ちの神官からは、夜は目印となる星を頼りに、昼は昇った陽を背にして、魔王城のある方角を目指すように教えられた。
しかし、勇者は馬鹿らしくて、正直やってられなかった。
「……唯一のお楽しみだったのによ」
ピンク色のスライムと出会ってから、暗い森で過ごす夜も悪くなかった。
絶倫になったせいで、何発抜いても、すぐに勇者の息子は復活する。
頭の芯まで快楽に溺れれば、曖昧な自分の存在意義について、うっかり考えなくて済んだ。
そしてスライムは、ぎゃあぎゃあ文句を言いながらも、勇者が射精するとキレイにしてくれたのだ。
『本当にあんたは、しょうがないわねえ!』
やれやれと言いたげなスライムの声が、勇者は嫌いじゃなかった。
むしろ――。
「今日まで、いいコンビだったじゃねえか。それなのによ……」
己の呟きの女々しさに気づき、勇者は頭を振った。
勝手にいなくなったスライムなんて、もう忘れよう。
「次のパートナーを、見つければいいさ。あいつ以上のスライムはいなかったけど、魔物はスライムだけじゃないだろ」
スライム狩りをしていたから、あまり森の奥へは進まなかったが、きっとこの先には、多種多様な魔物がうろついているはずだ。
「俺はなにも、スライムにこだわる必要はなかったんだ。広く探せば、もっと人型に近い魔物も、いるかもしれん!」
そうやって気持ちを高揚させて、勇者はより深部へと分け入った。
頭のどこかで、あのピンク色がチラチラしたが、それを無視して進む。
「俺は勇者だ。魔物となあなあで仲良くするのは、おかしなことだったんだ。次に魔物を捕まえたら、しっかり躾けて、俺に服従させないと」
――また逃げられるのは、嫌だ。
勇者はそんな言葉をぐっと飲み込んだ。
湿った枯葉を踏み分け、うっそうとした樹海を数日かけて歩き回っていると、ついに勇者はスライムではない生き物と遭遇した。
それは長い耳をもった白い毛皮の塊で、勇者が元いた世界の、とある草食動物によく似ている。
「多分あれは、ウサギだろう? いや、額に角があるから、ここでは魔物なのか?」
勇者はホーンラビットの名前を知らなかった。
ホーンラビットは普通のウサギよりも大きく、鋭い一本角を持ち、後ろ足がやけに逞しい。
こちらの存在に、まだ気がついていないホーンラビットを観察し、どうするか考える。
「あまり俺の役に立ちそうにないが、取りあえず捕まえてみるか」
自身に自覚はないが、攻めると決めた勇者の動きは、目で追えないほどに速かった。
あっけなく首根っこを押さえつけられ、ホーンラビットは地面にねじ伏せられる。
だが怖いもの知らずなホーンラビットは、歯をカチカチ鳴らして勇者を威嚇した。
「手を離せ! きさまなど、齧歯の餌食にしてくれる!」
「威勢がいいな。ところで、お前はメスか?」
「………………オスだ!」
「怪しい。返答を躊躇ったのはなぜだ?」
にやにや笑う下衆な勇者は、完全に正義の味方ではない。
さらには聖力が漏れ出ているのか、察したホーンラビットが震えだす。
「な、何をする気だ!?」
「ちょっと具合を確かめるだけだ」
「お、おい、まさか……」
「狭いな、唾つけただけじゃ無理か?」
「や……やめてくれ! 体格差を考えろ!」
ひぎゃああああああ!
憐れなホーンラビットの悲鳴が、森中に響き渡った。
近辺にいただろう他の魔物は、即座に危険を感じて気配を消す。
「マジかよ、まだ中指の第一関節しか入れてないぞ。これくらいで失神されたんじゃ、とても俺の役に立ちそうにないな」
脱力した勇者は、押さえつけていたホーンラビットから体を起こした。
気絶しているホーンラビットは、口から泡を噴き、白目を剥いている。
勇者に敵対感情がなかったおかげで、命までは失っていないのが幸いだった。
「もっと大きな魔物がいいってことか」
気持ちを切り替えて、それからも勇者は周辺を探したが、まるで魔物は見つからなかった。
◇◆◇◆
数日間におよぶ執念の捜索の結果、地面に埋まって動かない、大根みたいな生き物がいるのに気づいた。
一般的にはマンドラゴラと呼ばれる、触るな危険の代表的な魔物だが、やはり勇者にはその知識がない。
「なんだこりゃあ? これで隠れてるつもりか? やれやれ、ウサギの次は大根かよ」
勇者はよく考えずに、葉っぱ部分をつかむと、思い切り引き抜いてみる。
――その瞬間、超高音の金切り声が、勇者の鼓膜を突き破った。
ピンク色のスライムにはもう届かない愚痴をこぼし、勇者は歩き始める。
端正な顔立ちの神官からは、夜は目印となる星を頼りに、昼は昇った陽を背にして、魔王城のある方角を目指すように教えられた。
しかし、勇者は馬鹿らしくて、正直やってられなかった。
「……唯一のお楽しみだったのによ」
ピンク色のスライムと出会ってから、暗い森で過ごす夜も悪くなかった。
絶倫になったせいで、何発抜いても、すぐに勇者の息子は復活する。
頭の芯まで快楽に溺れれば、曖昧な自分の存在意義について、うっかり考えなくて済んだ。
そしてスライムは、ぎゃあぎゃあ文句を言いながらも、勇者が射精するとキレイにしてくれたのだ。
『本当にあんたは、しょうがないわねえ!』
やれやれと言いたげなスライムの声が、勇者は嫌いじゃなかった。
むしろ――。
「今日まで、いいコンビだったじゃねえか。それなのによ……」
己の呟きの女々しさに気づき、勇者は頭を振った。
勝手にいなくなったスライムなんて、もう忘れよう。
「次のパートナーを、見つければいいさ。あいつ以上のスライムはいなかったけど、魔物はスライムだけじゃないだろ」
スライム狩りをしていたから、あまり森の奥へは進まなかったが、きっとこの先には、多種多様な魔物がうろついているはずだ。
「俺はなにも、スライムにこだわる必要はなかったんだ。広く探せば、もっと人型に近い魔物も、いるかもしれん!」
そうやって気持ちを高揚させて、勇者はより深部へと分け入った。
頭のどこかで、あのピンク色がチラチラしたが、それを無視して進む。
「俺は勇者だ。魔物となあなあで仲良くするのは、おかしなことだったんだ。次に魔物を捕まえたら、しっかり躾けて、俺に服従させないと」
――また逃げられるのは、嫌だ。
勇者はそんな言葉をぐっと飲み込んだ。
湿った枯葉を踏み分け、うっそうとした樹海を数日かけて歩き回っていると、ついに勇者はスライムではない生き物と遭遇した。
それは長い耳をもった白い毛皮の塊で、勇者が元いた世界の、とある草食動物によく似ている。
「多分あれは、ウサギだろう? いや、額に角があるから、ここでは魔物なのか?」
勇者はホーンラビットの名前を知らなかった。
ホーンラビットは普通のウサギよりも大きく、鋭い一本角を持ち、後ろ足がやけに逞しい。
こちらの存在に、まだ気がついていないホーンラビットを観察し、どうするか考える。
「あまり俺の役に立ちそうにないが、取りあえず捕まえてみるか」
自身に自覚はないが、攻めると決めた勇者の動きは、目で追えないほどに速かった。
あっけなく首根っこを押さえつけられ、ホーンラビットは地面にねじ伏せられる。
だが怖いもの知らずなホーンラビットは、歯をカチカチ鳴らして勇者を威嚇した。
「手を離せ! きさまなど、齧歯の餌食にしてくれる!」
「威勢がいいな。ところで、お前はメスか?」
「………………オスだ!」
「怪しい。返答を躊躇ったのはなぜだ?」
にやにや笑う下衆な勇者は、完全に正義の味方ではない。
さらには聖力が漏れ出ているのか、察したホーンラビットが震えだす。
「な、何をする気だ!?」
「ちょっと具合を確かめるだけだ」
「お、おい、まさか……」
「狭いな、唾つけただけじゃ無理か?」
「や……やめてくれ! 体格差を考えろ!」
ひぎゃああああああ!
憐れなホーンラビットの悲鳴が、森中に響き渡った。
近辺にいただろう他の魔物は、即座に危険を感じて気配を消す。
「マジかよ、まだ中指の第一関節しか入れてないぞ。これくらいで失神されたんじゃ、とても俺の役に立ちそうにないな」
脱力した勇者は、押さえつけていたホーンラビットから体を起こした。
気絶しているホーンラビットは、口から泡を噴き、白目を剥いている。
勇者に敵対感情がなかったおかげで、命までは失っていないのが幸いだった。
「もっと大きな魔物がいいってことか」
気持ちを切り替えて、それからも勇者は周辺を探したが、まるで魔物は見つからなかった。
◇◆◇◆
数日間におよぶ執念の捜索の結果、地面に埋まって動かない、大根みたいな生き物がいるのに気づいた。
一般的にはマンドラゴラと呼ばれる、触るな危険の代表的な魔物だが、やはり勇者にはその知識がない。
「なんだこりゃあ? これで隠れてるつもりか? やれやれ、ウサギの次は大根かよ」
勇者はよく考えずに、葉っぱ部分をつかむと、思い切り引き抜いてみる。
――その瞬間、超高音の金切り声が、勇者の鼓膜を突き破った。
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