【完結】勇者はクズの自覚がない~「私の価値も分からない男と、一緒にいるつもりはないわ!さようなら!!!」から始まる旅~

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
上 下
3 / 22

3話 リンゼちゃんの胸

しおりを挟む
「魔物に強い勇者限定だが、異世界のスライムは、一級品のオナホになるな」



 懐に入れたスライムを撫でながら、勇者は満足げだった。

 さんざん溜まっていたものを出したせいか、北へ向かう足取りも軽い。



「ふふん! オナホが何だか知らないけれど、一級品と褒められるのは悪い気がしないわね」

「一般人にも使えれば、売って大金持ちになれるんだがな」

「ちょっと! 私を売り払うつもりなの!!?」



 びったんびったんと暴れだしたスライムが、勇者の腹にぶつかる。

 

「とんでもない。ぜひとも試したいことがあるんだ。お前にはこれからも、俺の旅についてきてもらうぞ」



 勇者が敵対感情を抱いていないせいか、ピンク色のスライムは聖力とやらで消滅しなかった。

 そもそも聖力が仕事をしているのかどうか、勇者には見えないから分からない。

 スライムいわく、最初だけちょっとビリビリしたらしいので、まったく無いわけではないのだろう。

 騒がしいスライムは、ぼっちで旅をしていた勇者にとって、よき話し相手となりそうだ。

 つまらないと思っていた異世界が、少し楽しくなる。



「何よ? あんたの試したいことって?」

「ここにデリヘル嬢カノンちゃんの尻があるということは、もしかしたらどこかに、リンゼちゃんの胸もあるかもしれない」

「……はあ?」

「まさか異世界で、俺の壮大な夢が叶えられるとは、思わなかったな」



 一番人気の桃尻カノンちゃんと、二番人気の巨胸リンゼちゃんで、いつか3Pをしたいと常々願っていた。

 ただし現実の世界では、売れっ娘のふたりを、同時に指名できる金がなかった。

 だから妄想で終わるだけだったのだが、ピンク色のスライムとの出会いで、感触だけなら実現する可能性が出てきたのだ。



「俄然、ヤる気になった! どんどんスライムを捕まえるぞ!」

 

 目的を見失っているとしか思えない勇者に、スライムは呆れる。



「ねえ、あんたってさ、魔王様を倒すために召喚された、勇者じゃなかったの?」

「もう魔王なんて、どうでもいい。俺は俺のやりたいことをやる!」

「へえ、面白いじゃない! 今までの勇者とは、一味違うみたいね」



 上から目線で余裕ぶっていたスライムだったが、その後すぐに態度を豹変させることになった。



「ちょっと! こんなの聞いてないわよ! 私に何をさせるのよ!」

「勇者怖い! 勇者怖い! 勇者怖い!」

「ん~、イマイチだな。なんだか硬いし、滑りが良くない」



 ピンク色のスライムと、捕まえたばかりの緑色のスライムで、己の肉棒をサンドイッチする勇者。

 しこしこと擦り上げてみるが、緑色のスライムがガチガチに緊張していて、まったく巨乳感が得られないのだ。

 ぺっと唾を吐きかけ、潤滑油代わりにするが、ますます緑色のスライムに硬直される。

 

「助けてください! 許してください!」



 絶叫する緑色のスライムは、どうやらオスのようだ。

 勇者はがっかりと肩を落とした。



「性別が不適合だったか? でも俺にはパッと、雌雄の見分けがつかないしな」



 ポイッと緑色のスライムを放ると、それは慌てて森の奥へと逃げていった。

 よほど怖かったのか、あちこちに体を引っかけ、ボロボロに千切れた後ろ姿が憐憫をもよおす。



「言っておくけど、私ほど優秀なスライムは、そういないわよ?」



 緑色のスライムを横目に、鼻高々と宣言したピンク色のスライムに、勇者もしっかり頷き返す。



「確かに。カノンちゃんほどの逸材は、他の店にはいなかった」

「だから誰よ! カノンって!」



 それからも勇者は、飽きもせずにスライム狩りを続けた。

 そしてピンク色のスライムとのサンドイッチを試みるのだが、リンゼちゃんのパイ圧を彷彿とさせるスライムは見つからない。

 怯えてガチガチに固まってしまうか、ぶるぶる震えて溶けてしまうか。

 だいたいが、そのどちらかだった。



「異世界も、3Pには甘くないってことか」



 深く溜め息をつく勇者には、そこはかとない哀愁が漂う。

 落胆する勇者の腹を、ピンク色のスライムはバシバシと叩いて励ました。



「元気出しなさいよ。あんたは立派に、スライム界隈では恐怖の大王として君臨したわ」

「リンゼちゃんのパイズリ……最高だったな」

「な、何よ! 私だけじゃ満足できないって言うの!?」

 

 びよ~んと、ピンク色のスライムは勇者の懐から飛び出す。

 そして怒りを表現するように、頭らしき部分をうにょうにょと激しく振動させた。

 だが勇者は、それを見ても達観したように嘯く。

 

「尻には尻の、胸には胸の、それぞれの良さってもんがあるんだよ」

「きいいいぃ! 本当に失礼ね! あんた、女の子にモテなかったでしょ!?」

「素人さんに手を出すほど、俺は愚かじゃないぜ」

「あんたは最低な愚か者よ! 女心を欠片も理解してないわ!」



 そう言い放つと、ピンク色のスライムは大きく跳ねて、頭上の樹の枝へ飛び移る。



「おい! どこに行くんだ、戻って来い!」

「私の価値も分からない男と、一緒にいるつもりはないわ! さようなら!!!」



 夕闇に紛れて、ピンク色のスライムは遠ざかっていった。

 薄暗い森に残されたのは、妙に懐が寂しい勇者だけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

処理中です...