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3話 リンゼちゃんの胸

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「魔物に強い勇者限定だが、異世界のスライムは、一級品のオナホになるな」



 懐に入れたスライムを撫でながら、勇者は満足げだった。

 さんざん溜まっていたものを出したせいか、北へ向かう足取りも軽い。



「ふふん! オナホが何だか知らないけれど、一級品と褒められるのは悪い気がしないわね」

「一般人にも使えれば、売って大金持ちになれるんだがな」

「ちょっと! 私を売り払うつもりなの!!?」



 びったんびったんと暴れだしたスライムが、勇者の腹にぶつかる。

 

「とんでもない。ぜひとも試したいことがあるんだ。お前にはこれからも、俺の旅についてきてもらうぞ」



 勇者が敵対感情を抱いていないせいか、ピンク色のスライムは聖力とやらで消滅しなかった。

 そもそも聖力が仕事をしているのかどうか、勇者には見えないから分からない。

 スライムいわく、最初だけちょっとビリビリしたらしいので、まったく無いわけではないのだろう。

 騒がしいスライムは、ぼっちで旅をしていた勇者にとって、よき話し相手となりそうだ。

 つまらないと思っていた異世界が、少し楽しくなる。



「何よ? あんたの試したいことって?」

「ここにデリヘル嬢カノンちゃんの尻があるということは、もしかしたらどこかに、リンゼちゃんの胸もあるかもしれない」

「……はあ?」

「まさか異世界で、俺の壮大な夢が叶えられるとは、思わなかったな」



 一番人気の桃尻カノンちゃんと、二番人気の巨胸リンゼちゃんで、いつか3Pをしたいと常々願っていた。

 ただし現実の世界では、売れっ娘のふたりを、同時に指名できる金がなかった。

 だから妄想で終わるだけだったのだが、ピンク色のスライムとの出会いで、感触だけなら実現する可能性が出てきたのだ。



「俄然、ヤる気になった! どんどんスライムを捕まえるぞ!」

 

 目的を見失っているとしか思えない勇者に、スライムは呆れる。



「ねえ、あんたってさ、魔王様を倒すために召喚された、勇者じゃなかったの?」

「もう魔王なんて、どうでもいい。俺は俺のやりたいことをやる!」

「へえ、面白いじゃない! 今までの勇者とは、一味違うみたいね」



 上から目線で余裕ぶっていたスライムだったが、その後すぐに態度を豹変させることになった。



「ちょっと! こんなの聞いてないわよ! 私に何をさせるのよ!」

「勇者怖い! 勇者怖い! 勇者怖い!」

「ん~、イマイチだな。なんだか硬いし、滑りが良くない」



 ピンク色のスライムと、捕まえたばかりの緑色のスライムで、己の肉棒をサンドイッチする勇者。

 しこしこと擦り上げてみるが、緑色のスライムがガチガチに緊張していて、まったく巨乳感が得られないのだ。

 ぺっと唾を吐きかけ、潤滑油代わりにするが、ますます緑色のスライムに硬直される。

 

「助けてください! 許してください!」



 絶叫する緑色のスライムは、どうやらオスのようだ。

 勇者はがっかりと肩を落とした。



「性別が不適合だったか? でも俺にはパッと、雌雄の見分けがつかないしな」



 ポイッと緑色のスライムを放ると、それは慌てて森の奥へと逃げていった。

 よほど怖かったのか、あちこちに体を引っかけ、ボロボロに千切れた後ろ姿が憐憫をもよおす。



「言っておくけど、私ほど優秀なスライムは、そういないわよ?」



 緑色のスライムを横目に、鼻高々と宣言したピンク色のスライムに、勇者もしっかり頷き返す。



「確かに。カノンちゃんほどの逸材は、他の店にはいなかった」

「だから誰よ! カノンって!」



 それからも勇者は、飽きもせずにスライム狩りを続けた。

 そしてピンク色のスライムとのサンドイッチを試みるのだが、リンゼちゃんのパイ圧を彷彿とさせるスライムは見つからない。

 怯えてガチガチに固まってしまうか、ぶるぶる震えて溶けてしまうか。

 だいたいが、そのどちらかだった。



「異世界も、3Pには甘くないってことか」



 深く溜め息をつく勇者には、そこはかとない哀愁が漂う。

 落胆する勇者の腹を、ピンク色のスライムはバシバシと叩いて励ました。



「元気出しなさいよ。あんたは立派に、スライム界隈では恐怖の大王として君臨したわ」

「リンゼちゃんのパイズリ……最高だったな」

「な、何よ! 私だけじゃ満足できないって言うの!?」

 

 びよ~んと、ピンク色のスライムは勇者の懐から飛び出す。

 そして怒りを表現するように、頭らしき部分をうにょうにょと激しく振動させた。

 だが勇者は、それを見ても達観したように嘯く。

 

「尻には尻の、胸には胸の、それぞれの良さってもんがあるんだよ」

「きいいいぃ! 本当に失礼ね! あんた、女の子にモテなかったでしょ!?」

「素人さんに手を出すほど、俺は愚かじゃないぜ」

「あんたは最低な愚か者よ! 女心を欠片も理解してないわ!」



 そう言い放つと、ピンク色のスライムは大きく跳ねて、頭上の樹の枝へ飛び移る。



「おい! どこに行くんだ、戻って来い!」

「私の価値も分からない男と、一緒にいるつもりはないわ! さようなら!!!」



 夕闇に紛れて、ピンク色のスライムは遠ざかっていった。

 薄暗い森に残されたのは、妙に懐が寂しい勇者だけだった。
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