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63話 知らぬ存ぜぬ
しおりを挟むごく普通の町。その町に、魂を悪魔に捧げた者がいると聞き、町は混乱に陥ったが、その者を町の者の手で裁くことで団結した。
そして、月が昇って日付が変わった時、町の人は誰が悪魔に魂を売った者なのか思い出した。
「あの子だ。」
金髪に青い瞳、笑顔が可愛らしいと評判だったスノー。しかし、その評判は作られたものだったのだ。
「俺たちが、あの罪人の娘を好きなはずがない。今まで、なぜあれを好きだったのか・・・答えは簡単だ。」
悪魔に魂を捧げたのは、スノー。それが町の決断で、すぐに町は動いた。男衆を集めて、町のはずれの小屋に向かう。
「こんな不気味な場所に住むやつを、今まで何の疑いもなく接していたとは。」
「それが悪魔の力だろう。」
「だが、気づかなかった罪が問われる。教会に知られる前に・・・いや、神父が来たということはもう知られているのか。」
「しかし、神父様は言っていた。この町のものの手で終わらせろと。なら、今からでも遅くはない。」
ぎらついた目で、男衆はスノーの家の扉を睨みつけた。そこからは何も言わず、一人の男が、工具を使って扉をこじ開ける。
むわっと異臭が外に漏れだして、男たちは顔をしかめた。
「さすが、悪魔・・・いや、魔女の小屋と言ったところか。」
「ものすごい匂いだ。この匂いは・・・」
ランプを持った男が、口を押えて先に進む。すると、声にならない声を上げた。
「これはっ・・・!?」
「どうした?なっ・・・」
男たちは、目の前に広がる光景を目にして、吐き気がした。その光景は、自分たちがなそうとしたことと変わらないというのに。
床に散らばる金髪、見開かれてむき出しになっている青い瞳。白い肌は、もう血の気など通っていない、青白く、その胸に赤い血が広がっていた。
それは、明らかに死んでいるスノーだ。
「あぁ、スノー・・・もう終わりだよ。」
スノーの死体の横で、心底残念そうに少年がつぶやく。
あまりの異様な光景に、頭に血が上っていた男衆も顔を青白くさせた。
「今、追いかけるよ。もっと、君を楽しみたかったけど。」
少年は握りしめていたナイフを持ち上げて、自分の胸に刃を向けた。
「何を・・・」
「やめるんだ!フォグ!」
少年の背後で、青白く光る青年が叫んだ。その青年に今更気づいた男衆は、声も出せずにその光景を見守った。
「スノー、愛しているよ。」
「フォグっ!」
青年の言葉など聞こえていないようで、少年は青年を振り返ることもなく、ナイフで自身の胸を貫いた。
それは、呪われたナイフ。少年の力でも、骨をたやすく突き破り、心臓までその刃を届かせた。絵に装飾されたどくろが、にたりと笑うのを、男衆は見てしまった。
男衆が気付いた時には、青年は姿を消していた。
そして、念のために確認した2つの体は、完全に死体だった。
町は、少年を英雄としてまつり、スノーを魔女としてさらすことにした。そうしなければ、罪に問われると思ったのだ。
丁重に葬られた少年と野ざらしにされ、見るも無残な姿となったスノーは、当然離れ離れとなり、共に墓に入ることはなかった。
それを、遠く見守っていた神父は、踵を返して笑った。
「ケタケタケタ!最高だな。最高だ。これからも楽しませてくれよ、かわいいおもちゃたち。」
新たな契約を果たした神父の姿をした悪魔は、そう上機嫌に笑って消えた。
悪魔と契約した魂は、悪魔に食われて輪廻の輪を外れる。しかし、2人の魂は別の世界へと転生し、命を繰り返すことになる。
これは、2人の呪われたゲームの序章だった。
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