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49話 ミルクキャンディ
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「ポーリーナさま、今日だけでは話し足りませんわ。実は私、この女の子の絵が描かれた、ミルクキャンディの缶をいくつか持っていますの。良かったらそれをお譲りしますから、私の部屋へ遊びにいらしてください」
ファビオラはポーリーナと仲良くなろうと決めた。
赤いほっぺの女の子のファンを、いじめる令嬢たちの集団から護りたい。
同じマティアスの婚約者候補だからと、常に一緒に行動する必要はないはずだ。
(来るかどうかは、ポーリーナさま次第だけど……)
対外的に、ファビオラがポーリーナを誘うことは、悪くは思われないだろう。
第二皇子の派閥へ、オーバリ子爵家を引き込もうとしている、と見なされるだけだ。
逆にポーリーナが応じてしまえば、本人とオーバリ子爵家は、青公爵家やそれに連なる一族から裏切り者とそしられるかもしれない。
(でも、第一皇子殿下の婚約者候補なのだと告白したとき、ポーリーナさまの表情はつらそうだった)
もしかしたら、その立場でいるのが嫌なのではないか。
ファビオラにはそう感じられた。
(ヨアヒムさまの婚約者という地位があれば、私がポーリーナさまを庇ってあげられる)
必要であれば、ウルスラだって説得しよう。
(第一皇子殿下の調査のために、という理由がもっともらしいかしら)
ファビオラは迷っているらしいポーリーナの手に、自分の手を重ねる。
「お待ちしておりますわね」
これまで商会長として、数々の交渉相手を陥落させてきた極上の笑顔を残し、ファビオラは席を立った。
◇◆◇◆
その夜、ファビオラは晩餐を一緒にしようとウルスラに呼ばれる。
ドレスを着替えてから赴くと、会場にはヨアヒムもいた。
「まずは食事を楽しみましょう。話をするのは、その後よ」
ウルスラの言葉に従い、ファビオラは給仕された皿に集中する。
そこにはいくつか、懐かしい味があった。
カーサス王国の調味料が使ってあると分かり、顔がほころんだファビオラへヨアヒムが声をかける。
「ファビオラ嬢は郷里を離れて長い。たまにはカーサス王国のものが食べたくなるのではないかと思って、料理長へ頼んでみた」
「っ……! ありがとうございます」
「他にもいろいろ作れるみたいだから、食べたいものがあれば伝えるといい」
ヨアヒムの細やかな気遣いに、ファビオラは感謝する。
ヘルグレーン帝国の料理は相変わらず美味しいが、食べ慣れたカーサス王国の味を舌は喜んでいた。
そうして和やかな雰囲気で食事が終わると、がらりと作戦会議のような空気感へと変わる。
「マティアスの資金源について、何か分かったことはあった?」
ウルスラの質問に答えるのはヨアヒムだ。
「ずっとマティアスを見張らせていましたが、誰かと密会している様子はありませんでした」
「悪いことをしているという自覚がないのよ。堂々と会っているのかもしれないわ」
「念のために、マティアスが会談した相手は名前を控えています。ですが、有り余るほどの私財を持っている者となると、まったく目星がつきません」
ウルスラが顎に手をやる。
『来月には金が届く!』というマティアスの台詞は、出まかせだったのだろうか。
「諦めるのはまだ早いわ。資金を受け取ったのはマティアスではなく、その取り巻きかもしれないもの」
「義兄上の取り巻きは数が多いので、各々を見張るのは難しいですね」
「そうよね……私たちはマティアスが、誰を最も重用しているのかも知らないし」
「それは義兄上が飽き性なせいです。婚約者候補だって、とっかえひっかえで――」
婚約者候補という言葉が出たので、ファビオラは手を挙げて、発言の意志をウルスラへ伝える。
どうぞ、と促されたファビオラは、ポーリーナについて語る。
「今日のお茶会で、オーバリ子爵家のポーリーナさまとお知り合いになりました。現時点で、第一皇子殿下の一番のお気に入りの婚約者候補だそうです」
「いい情報元になってくれそうね」
「そのポーリーナさまを、こちらの陣営へ引っ張りたいと思っています」
「難しいのではないかしら? このまま皇子妃に選ばれるかもしれないのよ。むざむざ地位を手放すとは思えないわ」
「それが……少し違う様子だったんです」
ファビオラの言葉に、ウルスラが首を傾げた。
まだ印象でしかないが、お茶会のときに見たままを述べる。
「オーバリ子爵家の総意は分かりませんが、ポーリーナさまご本人は、第一皇子殿下の婚約者候補になったのを嫌がっているみたいでした」
権力になびかない令嬢は貴重だわ、とウルスラがポーリーナを評する。
ファビオラはここぞと説得に入った。
「爵位の高い他の婚約者候補の令嬢たちから、ポーリーナさまは使い走りにされていました。そんな現状から、私は彼女を助け出したいのです」
「……私の記憶では、オーバリ子爵家は先代までは中立を保っていたのよ。娘がマティアスに見初められ、婚約者候補に選ばれたことで、当主は舞い上がって第一皇子派になったのでしょうね」
つまり、にわかだと言い切った。
それならば急に支持先を変えても、あまりひどい目には合わない。
むしろ婚約者の座を争っている他の令嬢たちの家門は、ライバルが減ってほくそ笑むに違いない。
「ファビオラさん、その計画を進めてみて。こちらの味方につけられたなら、オーバリ子爵家が針のむしろにならないよう、私がなんとか保護するわ」
「ありがとうございます」
ウルスラの後押しを得て、ファビオラは安堵した。
これでポーリーナを、もっと積極的に口説ける。
胸を撫で下ろしていると、ヨアヒムから声をかけられた。
「今日のお茶会はどうだった? 困ったりしなかった?」
ヨアヒムがエスコートできないときは、いつもこうしてファビオラを慮ってくれる。
大丈夫でした、と答えて、お茶会であった出来事を大まかに伝える。
すると――。
「ミルクキャンディを、いつも持ち歩いているの?」
ポーリーナと親しくなったきっかけを話すと、ヨアヒムがそこに突っ込む。
そして破顔一笑してから、ぽろりと零した。
「シャミみたいだね」
「っ……!」
ファビオラがあの町のファンを増やすべく、ミルクキャンディを配る草の根運動をしていときに、弟のアダンからも同じことを言われた。
『朱金の少年少女探偵団』のメンバー、シャミはいつもレモンキャンディを持ち歩く。
そして、ピンチに陥れば元気を出すために、大仕事の前はやる気を出すために、それを口に放り込むのだ。
(せっかくヨアヒムさまの口から、シャミの名前が出たのだもの。あのときのシャミは私ですって、言ってみようかしら)
だがそれで、何が変わるのだろうか。
ヨアヒムの心にはすでに、想う人がいる。
それに、10年も昔に一緒に遊んだ女の子のことを、もう覚えていないかもしれない。
もしそうだったら、ファビオラはどうなってしまうのだろう。
オーズ役の男の子が忘れられなくて、ずっと想ってきたシャミ役の女の子は、そのあどけない心のまま、今もなおファビオラの中にいる。
(悲しくて、泣いてしまうかもしれない。決して、ヨアヒムさまが悪いわけではないのに)
それはとても、大人げない態度だ。
ファビオラが悩んでいる内に、ウルスラの話が始まる。
「マティアスの私兵団については、関係者を一斉に処分したいわ。なるべく早く全容を掴んで、ロルフに証拠を突きつけないとね」
ウルスラが言うには、今の段階でマティアスを訴えても、トカゲの尻尾きりになる可能性が高いそうだ。
「適当な部下に罪を押しつけて、自分は安全な場所へ逃げるに決まっているわ。母親のヘッダのようにね」
ファビオラは聞きかじっただけだが、ウルスラがヨアヒムを身ごもったときの、ヘッダの妨害はことのほか激しかったらしい。
それこそ何人もの毒見役の命が犠牲になって、ヨアヒムは生まれてきたのだ。
「今度こそ完全に包囲してやるわ。もう二度と、ヨアヒムに手出しはさせない」
ウルスラと赤公爵家は、ヨアヒムが狙われるたび、ヘッダと青公爵家を糾弾した。
だが、肝心なところで証人が殺されたり、証拠を保管した倉庫が燃えたり、あと一歩のところで捕まえきれなかった。
ウルスラは過去の苦労を振り返り、うっそりと微笑む。
「バートをヨアヒムの側に置いてからは、返り討ちにすることが増えて、やっと諦めたかと思ったけれど……違法な私兵団を設立するなんてね。あまりに大掛かり過ぎて、これでは証拠を消したくても、完全には消し切れないでしょう」
「今までの暗殺に比べて、やり方が杜撰に思えます。もしかしたら、青公爵は絡んでいないのかもしれません」
ヨアヒムの意見に、ウルスラも同意する。
「狡猾な青公爵なら、もっとうまく隠すわ。つまりこれは、マティアスかヘッダの独断なのよ」
「私たちにとっては幸いです。この機を逃さず、必ずや公の場で裁きを受けさせましょう」
何度も殺されかけたというのに、ヨアヒムは寛大だ。
それに比べてウルスラは、今にもヘッダを殺しに行きたそうな顔をしている。
ヨアヒムの非にならなければ、きっと思い留まりはしないのだろう。
(側妃殿下……いいえ、ウルスラさまは、ヨアヒムさまを溺愛しているから)
ファビオラがウルスラを側妃殿下と呼んだら、お義母さまと呼ぶように言われた。
婚姻前だからまだ早い、とヨアヒムが仲裁に入り、その結果、呼び方はウルスラさまに落ち着いている。
(ウルスラさまはご存じなのかしら。ヨアヒムさまが、誰を想っているのか)
ウルスラを本当の意味でお義母さまと呼べるのは、ヨアヒムに求められ、妃になる令嬢だけ。
たった一人に許された特権だ。
(私が20歳になって、この契約が解除されれば、そのときに……)
ヨアヒムは本当に愛する人と結ばれる。
そうなれば、ファビオラはカーサス王国へ帰ろうと思った。
ファビオラはポーリーナと仲良くなろうと決めた。
赤いほっぺの女の子のファンを、いじめる令嬢たちの集団から護りたい。
同じマティアスの婚約者候補だからと、常に一緒に行動する必要はないはずだ。
(来るかどうかは、ポーリーナさま次第だけど……)
対外的に、ファビオラがポーリーナを誘うことは、悪くは思われないだろう。
第二皇子の派閥へ、オーバリ子爵家を引き込もうとしている、と見なされるだけだ。
逆にポーリーナが応じてしまえば、本人とオーバリ子爵家は、青公爵家やそれに連なる一族から裏切り者とそしられるかもしれない。
(でも、第一皇子殿下の婚約者候補なのだと告白したとき、ポーリーナさまの表情はつらそうだった)
もしかしたら、その立場でいるのが嫌なのではないか。
ファビオラにはそう感じられた。
(ヨアヒムさまの婚約者という地位があれば、私がポーリーナさまを庇ってあげられる)
必要であれば、ウルスラだって説得しよう。
(第一皇子殿下の調査のために、という理由がもっともらしいかしら)
ファビオラは迷っているらしいポーリーナの手に、自分の手を重ねる。
「お待ちしておりますわね」
これまで商会長として、数々の交渉相手を陥落させてきた極上の笑顔を残し、ファビオラは席を立った。
◇◆◇◆
その夜、ファビオラは晩餐を一緒にしようとウルスラに呼ばれる。
ドレスを着替えてから赴くと、会場にはヨアヒムもいた。
「まずは食事を楽しみましょう。話をするのは、その後よ」
ウルスラの言葉に従い、ファビオラは給仕された皿に集中する。
そこにはいくつか、懐かしい味があった。
カーサス王国の調味料が使ってあると分かり、顔がほころんだファビオラへヨアヒムが声をかける。
「ファビオラ嬢は郷里を離れて長い。たまにはカーサス王国のものが食べたくなるのではないかと思って、料理長へ頼んでみた」
「っ……! ありがとうございます」
「他にもいろいろ作れるみたいだから、食べたいものがあれば伝えるといい」
ヨアヒムの細やかな気遣いに、ファビオラは感謝する。
ヘルグレーン帝国の料理は相変わらず美味しいが、食べ慣れたカーサス王国の味を舌は喜んでいた。
そうして和やかな雰囲気で食事が終わると、がらりと作戦会議のような空気感へと変わる。
「マティアスの資金源について、何か分かったことはあった?」
ウルスラの質問に答えるのはヨアヒムだ。
「ずっとマティアスを見張らせていましたが、誰かと密会している様子はありませんでした」
「悪いことをしているという自覚がないのよ。堂々と会っているのかもしれないわ」
「念のために、マティアスが会談した相手は名前を控えています。ですが、有り余るほどの私財を持っている者となると、まったく目星がつきません」
ウルスラが顎に手をやる。
『来月には金が届く!』というマティアスの台詞は、出まかせだったのだろうか。
「諦めるのはまだ早いわ。資金を受け取ったのはマティアスではなく、その取り巻きかもしれないもの」
「義兄上の取り巻きは数が多いので、各々を見張るのは難しいですね」
「そうよね……私たちはマティアスが、誰を最も重用しているのかも知らないし」
「それは義兄上が飽き性なせいです。婚約者候補だって、とっかえひっかえで――」
婚約者候補という言葉が出たので、ファビオラは手を挙げて、発言の意志をウルスラへ伝える。
どうぞ、と促されたファビオラは、ポーリーナについて語る。
「今日のお茶会で、オーバリ子爵家のポーリーナさまとお知り合いになりました。現時点で、第一皇子殿下の一番のお気に入りの婚約者候補だそうです」
「いい情報元になってくれそうね」
「そのポーリーナさまを、こちらの陣営へ引っ張りたいと思っています」
「難しいのではないかしら? このまま皇子妃に選ばれるかもしれないのよ。むざむざ地位を手放すとは思えないわ」
「それが……少し違う様子だったんです」
ファビオラの言葉に、ウルスラが首を傾げた。
まだ印象でしかないが、お茶会のときに見たままを述べる。
「オーバリ子爵家の総意は分かりませんが、ポーリーナさまご本人は、第一皇子殿下の婚約者候補になったのを嫌がっているみたいでした」
権力になびかない令嬢は貴重だわ、とウルスラがポーリーナを評する。
ファビオラはここぞと説得に入った。
「爵位の高い他の婚約者候補の令嬢たちから、ポーリーナさまは使い走りにされていました。そんな現状から、私は彼女を助け出したいのです」
「……私の記憶では、オーバリ子爵家は先代までは中立を保っていたのよ。娘がマティアスに見初められ、婚約者候補に選ばれたことで、当主は舞い上がって第一皇子派になったのでしょうね」
つまり、にわかだと言い切った。
それならば急に支持先を変えても、あまりひどい目には合わない。
むしろ婚約者の座を争っている他の令嬢たちの家門は、ライバルが減ってほくそ笑むに違いない。
「ファビオラさん、その計画を進めてみて。こちらの味方につけられたなら、オーバリ子爵家が針のむしろにならないよう、私がなんとか保護するわ」
「ありがとうございます」
ウルスラの後押しを得て、ファビオラは安堵した。
これでポーリーナを、もっと積極的に口説ける。
胸を撫で下ろしていると、ヨアヒムから声をかけられた。
「今日のお茶会はどうだった? 困ったりしなかった?」
ヨアヒムがエスコートできないときは、いつもこうしてファビオラを慮ってくれる。
大丈夫でした、と答えて、お茶会であった出来事を大まかに伝える。
すると――。
「ミルクキャンディを、いつも持ち歩いているの?」
ポーリーナと親しくなったきっかけを話すと、ヨアヒムがそこに突っ込む。
そして破顔一笑してから、ぽろりと零した。
「シャミみたいだね」
「っ……!」
ファビオラがあの町のファンを増やすべく、ミルクキャンディを配る草の根運動をしていときに、弟のアダンからも同じことを言われた。
『朱金の少年少女探偵団』のメンバー、シャミはいつもレモンキャンディを持ち歩く。
そして、ピンチに陥れば元気を出すために、大仕事の前はやる気を出すために、それを口に放り込むのだ。
(せっかくヨアヒムさまの口から、シャミの名前が出たのだもの。あのときのシャミは私ですって、言ってみようかしら)
だがそれで、何が変わるのだろうか。
ヨアヒムの心にはすでに、想う人がいる。
それに、10年も昔に一緒に遊んだ女の子のことを、もう覚えていないかもしれない。
もしそうだったら、ファビオラはどうなってしまうのだろう。
オーズ役の男の子が忘れられなくて、ずっと想ってきたシャミ役の女の子は、そのあどけない心のまま、今もなおファビオラの中にいる。
(悲しくて、泣いてしまうかもしれない。決して、ヨアヒムさまが悪いわけではないのに)
それはとても、大人げない態度だ。
ファビオラが悩んでいる内に、ウルスラの話が始まる。
「マティアスの私兵団については、関係者を一斉に処分したいわ。なるべく早く全容を掴んで、ロルフに証拠を突きつけないとね」
ウルスラが言うには、今の段階でマティアスを訴えても、トカゲの尻尾きりになる可能性が高いそうだ。
「適当な部下に罪を押しつけて、自分は安全な場所へ逃げるに決まっているわ。母親のヘッダのようにね」
ファビオラは聞きかじっただけだが、ウルスラがヨアヒムを身ごもったときの、ヘッダの妨害はことのほか激しかったらしい。
それこそ何人もの毒見役の命が犠牲になって、ヨアヒムは生まれてきたのだ。
「今度こそ完全に包囲してやるわ。もう二度と、ヨアヒムに手出しはさせない」
ウルスラと赤公爵家は、ヨアヒムが狙われるたび、ヘッダと青公爵家を糾弾した。
だが、肝心なところで証人が殺されたり、証拠を保管した倉庫が燃えたり、あと一歩のところで捕まえきれなかった。
ウルスラは過去の苦労を振り返り、うっそりと微笑む。
「バートをヨアヒムの側に置いてからは、返り討ちにすることが増えて、やっと諦めたかと思ったけれど……違法な私兵団を設立するなんてね。あまりに大掛かり過ぎて、これでは証拠を消したくても、完全には消し切れないでしょう」
「今までの暗殺に比べて、やり方が杜撰に思えます。もしかしたら、青公爵は絡んでいないのかもしれません」
ヨアヒムの意見に、ウルスラも同意する。
「狡猾な青公爵なら、もっとうまく隠すわ。つまりこれは、マティアスかヘッダの独断なのよ」
「私たちにとっては幸いです。この機を逃さず、必ずや公の場で裁きを受けさせましょう」
何度も殺されかけたというのに、ヨアヒムは寛大だ。
それに比べてウルスラは、今にもヘッダを殺しに行きたそうな顔をしている。
ヨアヒムの非にならなければ、きっと思い留まりはしないのだろう。
(側妃殿下……いいえ、ウルスラさまは、ヨアヒムさまを溺愛しているから)
ファビオラがウルスラを側妃殿下と呼んだら、お義母さまと呼ぶように言われた。
婚姻前だからまだ早い、とヨアヒムが仲裁に入り、その結果、呼び方はウルスラさまに落ち着いている。
(ウルスラさまはご存じなのかしら。ヨアヒムさまが、誰を想っているのか)
ウルスラを本当の意味でお義母さまと呼べるのは、ヨアヒムに求められ、妃になる令嬢だけ。
たった一人に許された特権だ。
(私が20歳になって、この契約が解除されれば、そのときに……)
ヨアヒムは本当に愛する人と結ばれる。
そうなれば、ファビオラはカーサス王国へ帰ろうと思った。
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