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八話 裁かれる二人

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「体を繋がないからこの関係は浮気にならないと最初に言ったのはマルゴットだろう?」

「それはそうだけど」

「それに君の心臓のこともある。息が上がるような激しい運動をしてはいけないと医師に禁止されているよね?」

 エーミールはマルゴットを思い止まらせようと説得したが、マルゴットは頑なだった。

「少しだけでいいの」

「貴方に純潔を捧げたいの」

「ユリアーナばかり構うから、ずっと……寂しかったのよ」

 ぽろぽろ涙をこぼしながらマルゴットに愛を乞われて、エーミールも悪い気はしなかった。

 泣いているマルゴットはとくに庇護欲をそそるのだ。

 「わかったよ、ゆっくりしてみよう。僕に合わせて深呼吸をして、できるだけ力を抜いて。心臓に異常を感じたらすぐに言うこと。約束できる?」

 マルゴットに言い聞かせながら、エーミールはユリアーナと迎えた初夜を思い出していた。

 当時のユリアーナは、エーミールの食指が動かないほど肉付きがよかった。

 その結果、エーミールは性的にたぎることができず、ユリアーナの体をネグリジェで隠し、頭の中でマルゴットの体を思い浮かべ、ようやく勃った瞬間にほとんど勢いだけ突っ込み、無理やり終わらせてしまった。

 しかし、今からマルゴットの体を使って初夜のやり直しができる。

 処女膜を突き破るあの特別な感覚に身を震わせると、自然とエーミールの陰茎がぶるりと持ち上がった。

 「少しずつ入れるからね。安心して」

 痛みに強張るマルゴットの体をさすり、大丈夫だよと優しく声をかけ、舐めほぐしてぬめる襞の間に亀頭を侵入させていく。

 マルゴットの薄い腹ごしにエーミールの一物が存在感をあらわにし、じわじわ奥を目指すのが分かる。

(これだよ、これ。これがたまらないんだ)

 男の征服欲が満たされ、万能感に充ちて、思わず口角が上がるエーミール。

 それを涙目で見上げながらマルゴットは、己の腹のふくらみを折れそうな白い指で撫でさすり聞いてきた。

「ねえ? これ興奮する?」

 エーミールにとってそれは視覚的な暴力となった。

 興奮し、一気に頭に血が上ったエーミールは、それまでのマルゴットへの労りをかなぐり捨ててズンと腰を最奥まで勢いよく突き入れた。

 引きちぎられた処女膜、こじ開けられた子宮口、かそけきマルゴットの悲鳴。

 すべてがエーミールを最高にたぎらせた。



 ◇◆◇

 

 ガリガリに痩せた女に性的興奮を覚えるようになったのはいつからだったか。

 歩くこともままならない、か弱いマルゴットを護る騎士になろうとした少年時代。

 それが細い体を組み敷いて粘つく愛慾に溺れせたいと、手籠めにする夢を見ては夢精するようになるのはすぐだった。

 そんな目で見ていたマルゴットから、ユリアーナには秘密で体の関係を持とうと誘いを受けたのは、渡りに船だった。

 ひとつひとつ未熟な性感帯を舌と指で花開かせ、女の快楽に溺れるマルゴットとの内緒の逢瀬は楽しかった。

 バステル子爵家に籍を置くために豊満なユリアーナと結婚しても、この痩身を味わえると思えば悪くなかった。

 ユリアーナとのおざなりで退屈な初夜のあと、口直しをしようとマルゴットを訪ねた。

 結婚式の夜に来るとは思っていなかったマルゴットが感激して涙を流したので、いじらしくてつい愛を囁いたものだ。

 そうだ、マルゴットの体に女の幸せが何であるのかを教えて、男の奉仕に蕩けることを覚えさせ、それ無しにはいられなくしたのは僕だ。

 今も下の口で喰い千切らんばかりにぎゅうぎゅうと僕を締めつけ離そうとしない。

 僕に愛されたくて必死なマルゴットが憐れだから。

 望み通りに僕がなにもかもを貰ってやる。



 ◇◆◇

 

 エーミールはマルゴットのへし折れそうな首筋に吸いつくと、やたらにうっ血のあとを残し、左手は浮き出た骨盤を捕まえ、ほぼ平らな胸肉を右手でかき集める。

 その右手の下にある心臓が、ユリアーナよりも脆いことなど、もうエーミールの頭になかった。

「フッ……フッ……!」

「……うっ」

「マルゴット、マルゴット!」

「……! ……て!」

「あぁ、気持ちいい」

「っけて!」

「出すぞ、中にっ」

「たす……ぐぅ」

「くっ!」

 エーミールは自分の荒い鼻息と食いしばった歯間からもれる唸り声のせいで、マルゴットの喘ぎが助けを求めるものに変わっていたことに気づかなかった。

 自分が気持ちいいように思うさま腰を振りたくり、マルゴットを孕ませる勢いで長く長く中に射精した。

 ドサリとマルゴットの上に体を投げだし、しばらく息を整え達成感に浸り、心拍が落ち着いてから起き上がったエーミールが見たものは――。



 充血した白目をひん剝いて泡を吹きながら歯を食いしばり、この世のものとは思えぬ苦悶の形相を浮かべて息絶えたマルゴットの顔だった。



 「うわああああああぁぁぁ!!」

 シーツの上を後ずさり、その勢いのまま床に転がり落ちる。

 マルゴットの中に欲望の丈をまき散らしテラテラと光る陰茎が、縮んでべたりと太ももに貼りついた。

 恐怖に、整えたはずのエーミールの息がまた上がる。

 そこへ――この場に似つかわしくない声がした。

「あら、エーミール。なんてことなの、大変なことをしてくれたわね」

 寝室の扉を開けて、数人の使用人を連れて現れたのは、視察に行ったはずのユリアーナだった。

 ガタガタと震えるエーミールは現状の理解が追いつかない。

「ユ、ユリアーナ……」

 這う這うの体でユリアーナのもとに近寄る。

「マルゴットが! 死んでしまった……」

「ぼ、僕はどうすればいい?」

「こんなつもりではなかったんだ、信じてくれ!」

「助けてくれ! ユリアーナ!」

 半狂乱に叫び、縋りつこうと伸ばしてきたエーミールの手を無視して、ユリアーナは背後を振り返り使用人たちに命じる。

「この罪人を牢に繋ぎなさい」



 ◇◆◇



 これまで一身に浴びていた寵愛が剥がれ、不安でたまらなかったマルゴットが、エーミールの関心を引くためにどんな誘いをかけるのか。

 その末に、なにがもたらされるのか。

 ユリアーナの思い描いた図と寸分違わぬ茶番劇がここに終幕した。

 ユリアーナはすべてを想定して餌を投げた。

 命を刈り取るかもしれない危険な情事を。

 それを断ることができない自分勝手なエーミールに。

 欲望の赴くまま姉の婚約者に体を与えてみせるマルゴットに。

 ユリアーナが次期バステル子爵となる後継者を孕んだタイミングで。
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