2 / 15
二話 妃候補者たち三人の諸事情
しおりを挟む
エルダは、ファーベルグ公爵家の一人娘で19歳だ。
四年前に15歳で王太子妃候補になったときは、まだ青すぎるのでは?と嫌味も言われた。
王家との縁を欲しがった父様が権力を最大限に行使して、無理やり私を候補にねじ込んだと聞いた。
王家側にしたら迷惑なことだったかもしれない。
しかしあれから四年が経過し、まだ王太子妃は選ばれていない。
最高齢の王太子妃候補者は23歳になったはずだ。
私から見れば、もう完全な年増だ。
逆に今の私の年齢は、王太子妃にちょうどいいのではないだろうか。
(これから世継ぎを産む体は若い方がいい)
エルダは自分が選ばれると信じて疑っていなかった。
先月、王太子殿下の誕生日を祝うパーティが催され、もちろん私もそこに招待された。
父様は、そのパーティで最終的に選ばれた妃の発表をするのではないかと考えていたらしい。
残念ながら空振りに終わったのだけどね。
当日、私は自慢の金髪をゆるやかに巻いて若々しい山吹色のドレスに身を包み、コンラート殿下とダンスを踊るときには魅力的に見える角度でほほ笑んだ。
これで頬を赤くしなかった令息はいなかったが、さすが王太子殿下には通用しない。
そっけなくされることはないけれど、熱く見つめられることもない。
私とコンラート殿下はそんな距離感だった。
そんなとき、ファーベルグ公爵家に王命が届けられる。
『壁尻の儀』への招集状だ。
お断りすると王太子妃候補から外されてしまうので、必ず伺うとお返事をする。
初めて聞く儀式だけど、一体何をするのかしら?
父様も儀式の内容を知らないようだった。
ただ、コンラート殿下との体の相性を見るそうだから、全身隈なく綺麗にして行けばいいと言われた。
いよいよ張り艶のある若肌の出番よ。
これから一か月かけて体を磨き上げなくちゃ!
◇◆◇
サザリーは、ライプニッツ王国に隣接するクマリクク王国の第三王女で21歳だ。
王太子妃候補として大使館での長期滞在を許可されている。
色白で痩身が多いライプニッツ王国の女性とは異なり、褐色の肌に紫髪、金色にきらめく瞳の下には泣き黒子、豊満でぷりぷりとした色気のある体つきが自慢だ。
クマリクク王国はライプニッツ王国ほど国土は広くないけれど、その歴史は長い。
こうしてライプニッツ王国と血縁になるための王太子妃候補を送り込める程度には。
数多いる王女のうち、送り込むのは誰にしようかと悩む父王に、サザリーは自分にして欲しいとお願いをした。
ライプニッツ王国の取り澄ました高位貴族令嬢なんかに負けはしない。
必ずや私が王太子妃の座を射止めて、国益をもたらして見せると宣言した。
血気盛んで好戦的な性格を買われ、サザリーはこの国にやってきた。
大使館の職員たちとコンラート殿下の好みを調べたりしているが、いまだ結果は出せていない。
悔しい思いをしているところに、王命が届けられた。
『壁尻の儀』への招集状だ。
「王女様、この『壁尻の儀』についてはクマリクク王国に資料があったはずです。数百年前にも執り行われた古の儀式であるとか」
職員の機転により、取り急ぎ国元から少ないながらも情報が届けられた。
それによると『壁尻の儀』とは、王族の伴侶を決めるために執り行われる秘儀で、選考の対象となる女性の純潔は問わず、露出した下半身のみで王族の寵愛を競うのだという。
「なんだ、意外と簡単じゃない。つまりは女性器の具合でコンラート殿下を落とせということでしょう?」
「しかも純潔は問わずとありますね。これはまたしても国元に協力を仰ぐべきではないでしょうか」
「確かに一理あるわ。有能な高級男娼を多数こちらに呼び寄せましょう。実地で訓練してもらうのが一番効果があるはずよ。これから一か月かけて、徹底的にテクニックを仕込んでもらわなくては!」
朝晩問わず、閨のレッスンに励むサザリーに、大使館中の職員が声援を送った。
◇◆◇
アデーレは、ケップラ侯爵家の次女で23歳だ。
四年前に19歳で王太子妃候補として選出されたとき、20歳のコンラート殿下と一番年齢が近いことから注目されてしまったが、妃候補者たちの中では一番爵位が低く、どうして自分が選ばれたのか不思議に思っていた。
しかし選ばれたことは事実、アデーレが妃候補者に名を連ねたことで姉クリスタの嫁ぎ先が変わってしまった。
私たちと同じ侯爵家ではあるが、より格上のアッカーマン侯爵家から婚約の打診が来たのだ。
遠縁でもいいから王家と繋がりたい貴族など大勢いる。
その中でもアッカーマン侯爵家は野心家で、当時21歳だった姉にはすでに婚約者がいたにも関わらず、ケップラ侯爵家が断れないと踏んで嫡男との婚約を申し込んできたのだ。
仕方なく、無理やり横入りしてきたアッカーマン侯爵家へ婚約先を変更、かなり揉めたが1年後には結婚した。
そもそもケップラ侯爵家を見下していたアッカーマン侯爵家だ。
そんなところへ嫁いだ姉の心労は、傍から見るよりつらいものだっただろう。
一年後、妊娠したことが分かって、姉は嬉しそうに報告しに来てくれた。
さげすまれ、罵られ、身を縮こませるように過ごしていたアッカーマン侯爵家での姉の唯一の希望が赤ちゃんだったのだ。
「ようやく赤ちゃんが出来たの。これまでさんざんお義母さまから石女だと怒られてきたけど、やっと違うと証明できたわ。男の子でも女の子でもいいの。無事に生まれて来てくれたら、それだけで十分よ」
「お姉さま、妊娠している間くらい実家に帰ってきてはどう?そんな姑のいる家では落ち着かないでしょう?」
「ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。だけど許してもらえないでしょうね」
「旦那さまにお願いしても駄目なの?」
「あの人は義両親の言いなりだもの。私のお願いを聞いてくれたことなどないわ」
本当にとんでもない家だ!
こんなところに姉が嫁ぐ羽目になったのも、王太子妃候補に選ばれてしまった私のせいだと悔やんだ。
だが姉の苦労はこれで終わりではなかった。
四年前に15歳で王太子妃候補になったときは、まだ青すぎるのでは?と嫌味も言われた。
王家との縁を欲しがった父様が権力を最大限に行使して、無理やり私を候補にねじ込んだと聞いた。
王家側にしたら迷惑なことだったかもしれない。
しかしあれから四年が経過し、まだ王太子妃は選ばれていない。
最高齢の王太子妃候補者は23歳になったはずだ。
私から見れば、もう完全な年増だ。
逆に今の私の年齢は、王太子妃にちょうどいいのではないだろうか。
(これから世継ぎを産む体は若い方がいい)
エルダは自分が選ばれると信じて疑っていなかった。
先月、王太子殿下の誕生日を祝うパーティが催され、もちろん私もそこに招待された。
父様は、そのパーティで最終的に選ばれた妃の発表をするのではないかと考えていたらしい。
残念ながら空振りに終わったのだけどね。
当日、私は自慢の金髪をゆるやかに巻いて若々しい山吹色のドレスに身を包み、コンラート殿下とダンスを踊るときには魅力的に見える角度でほほ笑んだ。
これで頬を赤くしなかった令息はいなかったが、さすが王太子殿下には通用しない。
そっけなくされることはないけれど、熱く見つめられることもない。
私とコンラート殿下はそんな距離感だった。
そんなとき、ファーベルグ公爵家に王命が届けられる。
『壁尻の儀』への招集状だ。
お断りすると王太子妃候補から外されてしまうので、必ず伺うとお返事をする。
初めて聞く儀式だけど、一体何をするのかしら?
父様も儀式の内容を知らないようだった。
ただ、コンラート殿下との体の相性を見るそうだから、全身隈なく綺麗にして行けばいいと言われた。
いよいよ張り艶のある若肌の出番よ。
これから一か月かけて体を磨き上げなくちゃ!
◇◆◇
サザリーは、ライプニッツ王国に隣接するクマリクク王国の第三王女で21歳だ。
王太子妃候補として大使館での長期滞在を許可されている。
色白で痩身が多いライプニッツ王国の女性とは異なり、褐色の肌に紫髪、金色にきらめく瞳の下には泣き黒子、豊満でぷりぷりとした色気のある体つきが自慢だ。
クマリクク王国はライプニッツ王国ほど国土は広くないけれど、その歴史は長い。
こうしてライプニッツ王国と血縁になるための王太子妃候補を送り込める程度には。
数多いる王女のうち、送り込むのは誰にしようかと悩む父王に、サザリーは自分にして欲しいとお願いをした。
ライプニッツ王国の取り澄ました高位貴族令嬢なんかに負けはしない。
必ずや私が王太子妃の座を射止めて、国益をもたらして見せると宣言した。
血気盛んで好戦的な性格を買われ、サザリーはこの国にやってきた。
大使館の職員たちとコンラート殿下の好みを調べたりしているが、いまだ結果は出せていない。
悔しい思いをしているところに、王命が届けられた。
『壁尻の儀』への招集状だ。
「王女様、この『壁尻の儀』についてはクマリクク王国に資料があったはずです。数百年前にも執り行われた古の儀式であるとか」
職員の機転により、取り急ぎ国元から少ないながらも情報が届けられた。
それによると『壁尻の儀』とは、王族の伴侶を決めるために執り行われる秘儀で、選考の対象となる女性の純潔は問わず、露出した下半身のみで王族の寵愛を競うのだという。
「なんだ、意外と簡単じゃない。つまりは女性器の具合でコンラート殿下を落とせということでしょう?」
「しかも純潔は問わずとありますね。これはまたしても国元に協力を仰ぐべきではないでしょうか」
「確かに一理あるわ。有能な高級男娼を多数こちらに呼び寄せましょう。実地で訓練してもらうのが一番効果があるはずよ。これから一か月かけて、徹底的にテクニックを仕込んでもらわなくては!」
朝晩問わず、閨のレッスンに励むサザリーに、大使館中の職員が声援を送った。
◇◆◇
アデーレは、ケップラ侯爵家の次女で23歳だ。
四年前に19歳で王太子妃候補として選出されたとき、20歳のコンラート殿下と一番年齢が近いことから注目されてしまったが、妃候補者たちの中では一番爵位が低く、どうして自分が選ばれたのか不思議に思っていた。
しかし選ばれたことは事実、アデーレが妃候補者に名を連ねたことで姉クリスタの嫁ぎ先が変わってしまった。
私たちと同じ侯爵家ではあるが、より格上のアッカーマン侯爵家から婚約の打診が来たのだ。
遠縁でもいいから王家と繋がりたい貴族など大勢いる。
その中でもアッカーマン侯爵家は野心家で、当時21歳だった姉にはすでに婚約者がいたにも関わらず、ケップラ侯爵家が断れないと踏んで嫡男との婚約を申し込んできたのだ。
仕方なく、無理やり横入りしてきたアッカーマン侯爵家へ婚約先を変更、かなり揉めたが1年後には結婚した。
そもそもケップラ侯爵家を見下していたアッカーマン侯爵家だ。
そんなところへ嫁いだ姉の心労は、傍から見るよりつらいものだっただろう。
一年後、妊娠したことが分かって、姉は嬉しそうに報告しに来てくれた。
さげすまれ、罵られ、身を縮こませるように過ごしていたアッカーマン侯爵家での姉の唯一の希望が赤ちゃんだったのだ。
「ようやく赤ちゃんが出来たの。これまでさんざんお義母さまから石女だと怒られてきたけど、やっと違うと証明できたわ。男の子でも女の子でもいいの。無事に生まれて来てくれたら、それだけで十分よ」
「お姉さま、妊娠している間くらい実家に帰ってきてはどう?そんな姑のいる家では落ち着かないでしょう?」
「ありがとう。心配してくれて嬉しいわ。だけど許してもらえないでしょうね」
「旦那さまにお願いしても駄目なの?」
「あの人は義両親の言いなりだもの。私のお願いを聞いてくれたことなどないわ」
本当にとんでもない家だ!
こんなところに姉が嫁ぐ羽目になったのも、王太子妃候補に選ばれてしまった私のせいだと悔やんだ。
だが姉の苦労はこれで終わりではなかった。
0
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

燻らせた想いは口付けで蕩かして~睦言は蜜毒のように甘く~
二階堂まや
恋愛
北西の国オルデランタの王妃アリーズは、国王ローデンヴェイクに愛されたいがために、本心を隠して日々を過ごしていた。 しかしある晩、情事の最中「猫かぶりはいい加減にしろ」と彼に言われてしまう。
夫に嫌われたくないが、自分に自信が持てないため涙するアリーズ。だがローデンヴェイクもまた、言いたいことを上手く伝えられないもどかしさを密かに抱えていた。
気持ちを伝え合った二人は、本音しか口にしない、隠し立てをしないという約束を交わし、身体を重ねるが……?
「こんな本性どこに隠してたんだか」
「構って欲しい人だったなんて、思いませんでしたわ」
さてさて、互いの本性を知った夫婦の行く末やいかに。
+ムーンライトノベルズにも掲載しております。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる