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七話 囚われる竜王

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 目が覚めたとき、竜王は自分がどこにいるのか分からなかった。

 黒っぽい石の天井は見た覚えがなく、祝宴のあっていた後宮でないことは確かだ。

 日が変わる前に、美子のところに戻る約束をした……。

 立ち上がろうとして、四肢が床に磔られていることに気がつく。



「なんだ、これは」



 竜王の力をもってしても、ビクともしない鎖に不快感を覚える。

 埒が明かないと竜王は声を上げる。



「誰かいないか」



 その呼びかけに応えるように、12人の大臣たちが灯りを持ってやってきた。

 その灯りに照らされて部屋の天井以外の部分が見えたが、やはり知らない部屋のようだ。

 なぜこのような場所で拘束されているのか。



「早くこれを解け。美子のもとへ帰る」

「まあまあ、竜王さま。これから大切な儀式が始まります」

「どうぞ今しばらく、そのままでお待ちください」

「番の協力を得て、ようやく我ら竜族の念願が叶うのですから」



 大臣たちはのらりくらりと竜王の命令を躱す。

 儀式だと?

 床に目を凝らせば、王の間で番召喚の儀をしたときのように、大袈裟な模様が描かれていた。

 しかし竜王には見覚えのないものだ。

 一体、何の儀式が始まるというのか。

 それに大臣は、美子の協力を得たと言っていた。

 竜王が私室に匿い、大臣たちと妃たちから隠し続けた大切な番の美子。

 美子はこちらの世界に来てすぐに責められ、苦しんでいた。

 だからこそ、大臣たちや妃たちと会わせないようにしていたのに。



「私の居ぬ間に美子と会ったのか。そんな許可は出していない」



 苛立ちの籠った竜王の声だったが、大臣たちは気にも留めない。

 粛々と陣に力を注ぎながら、いまだ軽口を続ける。



「竜王さまはどうして番が特別なのか、ご存じですかな?」

「もちろん番が竜王さまとの間に子をもうけられるからですが」

「それには秘密があったのです」

「番の血の香りは、竜王さまを昂らせ、そして竜王さまの精に子種を宿す」

「それさえ分かってしまえば、あの番の機嫌をとる必要もないのです」

「ただ、血があればいいのです。それで我々は、次代さまをお迎えできる」



 大臣たちの話す内容は、竜王にとってどれも初めて聞くものだった。

 美子の血の香りなどこれまで意識したこともない。

 ただただ、一目見た瞬間から、心が惹かれてたまらなくなるのが番なのだ。

 そして離れていてもお互いの存在を気配として感じあえる。

 今だって……。

 今だって――?

 しばらくして竜王の背筋を冷たいものが走り抜ける。

 吸った息を吐きだせずに固まる。

 そんなはずはない。

 探しても、美子の気配がどこにも感じられなかった。



「我々も知らなかったのです」

「まさか儚くなってしまうなど」

「ニホンジンとは脆いものですなあ」

「妃たちは12人もいましたからな」

「全員に行き渡らせるとなると、まあそれなりの量がないと」

「仕方がなかった、としか言えませんな」



 大臣たちは何を言っている?

 妃たちを労う宴の最中に酒に酔い、うっかり眠ってしまってから、さほど時は過ぎていないはずだ。

 あれから何があった?

 美子は待っていると言ってくれた。

 私の部屋で私のことを。

 私を信じていると言ってくれた。

 そして私を送り出してくれたんだ。

 その美子は今どこにいるのだ?

 困惑する竜王をよそに、大臣たちは手を叩いて陣の完成を喜び合っている。



「今頃は魂となって、元の世界へ帰られているかもしれませんな」

「確かに、こちらの世界には一秒もいたくないと仰っていた」

「お互いの念願が叶ってなによりでした!」

「種族が違えば、これからも面倒なことが起こりかねないし」

「竜族は竜族同士、番えばいいのですよ」



 声を上げて笑う大臣たちの後ろから、後宮を去るはずだった12人の妃たちが列をなして現れた。



「そなたたち、どうして……?」



 その薄衣を羽織っただけの姿は、竜王が後宮を訪れたときに出迎える妃たちの定番の恰好だった。

 体の線が透けて見え、妃たちの豊満な胸と尻を否が応でも強調させる。

 そして興奮状態にあるのか妃たちは目の色を濃くし、そこに爛々とした異様な雰囲気を漂わせていた。

 何人かは爪が長く尖り、何人かは唇の中に牙を隠せていない。

 竜型にはなれずとも、力があふれて血の中に隠された竜の記憶が、顔を出しているのだ。

 12人の妃たちは床に磔にされた竜王のもとにしゃがみ込む。

 一の妃が竜王の顔を右側から覗き込む。



「竜王さま、私たちから何か感じるものはありませんか? いつもの昂ぶりよりも、もっと素敵な心地がしませんか?」



 ほかの妃たちも竜王の顔をあらゆる角度から覗き込んできた。

 それを下から見上げる竜王。

 何が起こっているのか分からない。

 一の妃が言っていることの意味も分からない。

 一の妃が竜王の顔に、そっと唇を近づけた。

 口づけされるのかと思い、美子に貞操を捧げた竜王はふいと顔を反対に背けた。

 しかしその時、あれほど探しても感じなかった美子の気配を微かに感じた。

 どこだ?

 どこに美子がいる?

 どこから美子の気配を感じた?

 それはおぞましくも、牙が並ぶ一の妃の口の中からだった――。



「なぜだ――なぜ、そこから美子の気配がする!?」



 一の妃の口を凝視し、竜王は叫ぶ。



「ふふふ、やはり感じますのね?」

「答えろ! なぜだ!」

「準備は整ったようですわ。さあ、陣を展開してください。これからが本当の宴の始まりですわ!」



 一の妃の合図によって、大臣たちは一斉に陣の力を開放する。

 陣から紫色の靄が立ち上り、磔にされた竜王とその周りに侍る妃たちへまとわりつく。

 番召喚の儀の白色の靄と違って、いつまでも晴れそうにない粘着質な靄だった。



「さあ、妃たち! その体で竜王さまをお慰めするのだ!」

「代わる代わる、腹に精を受け止めろ!」

「番の血肉を喰らって力をつけた今こそ、次代さまを孕むやもしれぬ!」

「枯れるまで子種を搾り取れ! 容赦をするな!」

「今こそ500年間の祈願を果たせ!」



 陣の力で竜王の体は強制的に欲情させられた。

 嬉々として妃たちは、尖った爪を使い竜王の服を破り裂いていく。

 先走りを飛ばし、ぶるんと暴れる竜王の肉茎を鷲掴み、最初に竜王にまたがったのは一の妃だった。



「私が孕んで見せるわ。次代さまをね」



 ぬくりと亀頭を股に埋め込むと、ひといきに腰を落とし、太くて長い竜王を迎え入れる。



「ああ、これよこれ。奥の奥まで届くこれでなくては」



 一の妃は満足そうに、ふうっと溜め息をつき、それから一心不乱に激しく腰を前後左右に振りだす。



「あん、すごいわっ、竜王さま! こんなところにまで……鱗がっ、ああ、こすれる! もっと、もっとよ!私に、竜王さまの、子種をちょうだい……っ!」



 一の妃はみずから胸をもみしだき、乳首に爪を立て身をくねらせる。

 肉欲を煽られ昂る体とは別に、美子を想って竜王の心は千々に引き裂かれていた。



(番の血肉を喰らっただと? こいつら、まさか、美子をッ――!)



 許さない許さない許さない許さない許さない!!!



「があああああああああああああっ――――――!!!!」



 憤りと悲しみに怒髪天をつき、獣の咆哮をあげる竜王の顔には、額を中心にして真っ赤な鱗がビッシリ浮かび上がり、頭には枝分かれした角が四本も生えた。

 かつてない力で鎖を千切ろうとする竜王の四肢を、一の妃以外の妃が押さえつける。

 暴れる竜王をがんじがらめにするため、大臣たちがさらに鎖を追加した。

 そんな竜王の上でグネグネと艶めかしく腰を使い、汗を飛ばして恍惚の表情をして見せる一の妃。



「ああ、竜王さま、思い出しますわね。初めてまぐわった日のことを……あなたは射精の快感に、茫然自失になってしまわれた。その後、私の体に溺れて、肉欲の日々を一緒に過ごしましたね。私もあの日からあなたの虜になりましたのよ――この長くて太くて元気なあなたにね」



 ウッと呻き、一の妃が下腹に力を込める。

 根本からぎゅうと絞られた竜王のソレは、一の妃の子宮に向かって精を暴発させる。



「あっあっ、来たわ! 子種が、私の中にっ! あああ~!」



 さんざん竜王の肉棒から精を搾り取り、満足して達した一の妃に続いたのは、二の妃。

 そして、三の妃、四の妃、五の妃と、竜王の下肢に次々と跨っていった。

 陣の力で無尽蔵にもよおされる性欲に踊らされ、無残に散った美子を想い血の涙を流す竜王と、12人の妃たちの狂乱の宴は七晩も続いた。
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