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11話 ※入り乱れる想い

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「ねえ、ホセ、今夜もいいかしら?」



 恥じらいながら流し目を送るのは、ネグリジェを来たオリビアだ。

 護衛の振りをしているホセは、声がかかったことを喜び、内心を顔に出さずスマートに応えた。



「もちろんです、お嬢さま。さあ、参りましょう」



 ふたりはオリビアの寝室へと足を向ける。

 これから寝台の上で、オリビアが満足するまで、ホセが奉仕をするのだ。

 基本的には唇と舌と指で。

 オリビアの感じるところを責める。

 何度か達せば、だいたいは気を失うようにオリビアは眠りについた。

 しかし、今夜みたいに、気分が高揚しているときは違う。



「……後ろに、入れてくれる?」



 すっかり開発された後孔を、オリビアはホセの眼前に突き出した。

 これから始まる快楽を期待してヒクつく窄まりは、公爵令嬢といっても普通の女と変わらない。

 ぷりっとした色白の尻肉を撫で、ホセは舌なめずりをする。

 

「いいですとも。たっぷり可愛がって差し上げます」



 夜は長い。

 ふたりは日をまたいで、誰にも邪魔されず、愉悦の海に溺れる。

 このおかげでオリビアは、勉強に集中できているのだ。



(これは悪いことじゃないわ。だって快感に素直なのは、いい女の証拠だって、レグロさまも仰っていたもの)



 オリビアが可憐な嬌声をあげる。

 それに興奮したホセが、挿抜を速めた。



(女性器はつかっていない。だから……これは浮気じゃないのよ)



 快楽で頭が真っ白になるまで、オリビアはホセに穴を貫かれ、ビクビクと激しく全身を痙攣させた。



 ◇◆◇◆



「ノエミさま、誠心誠意お仕えさせていただきます」

「どうか改めて、よろしくお願いいたします」



 侍女たちに頭を下げられて、ノエミは戸惑う。

 アマンドから、不手際のあった侍女をどうしたいか、と問われ、誰しもミスはあるから許してあげて、と軽く答えた覚えはある。

 しかし、ぼろぼろと泣きながら感謝されるほどのことは、ノエミはしていない。

 

「いいのよ。こちらこそ、いつも良くしてくれてありがとう」



 ドレスの着脱も、髪の結い直しも、ノエミがひとりでするより、うんと早くてキレイで助かっている。

 それに、ノエミが知らなかった化粧も、侍女たちは教えてくれた。

 

「何があったかは知らないけれど、これからもよろしくね」



 ノエミの寛大な態度に、侍女たちは感激する。

 これ以上ノエミを怖がらせたくないアマンドから、厳しい箝口令を敷かれているので、起きた出来事を明らかにするのは許されない。

 使用済みのノエミの服をレグロが持ち去った件は、侍女たちの胸の奥深くに封じられた。

 そうして罪悪感を抱えた侍女たちは、より一層、ノエミに忠誠を尽くすのだった。

 

 ◇◆◇◆



「アマンド、次の発表内容はこれでどうかしら?」

「それが最も、妥当な落としどころだろうね」



 ふたりが練ったのは、フォルミーカ国がソートレル国の領土を賃借する案だ。

 わざわざ戦争で奪わなくてもお金さえ払えば、不況なソートレル国はよろこんで貸し出すだろう。

 

「ソートレル国にとっては、外貨が得られる手段になるし、受け入れやすい提案だと思うのよ」

「反対にフォルミーカ国にとっては、戦争にかかる軍事費をそのまま借料にしてしまえばいいし、悪くはないと思うんだけどね」



 国の在り方は損得だけではない。

 面子だったり誇りだったり、ノエミやアマンドにはまだ分からない部分で、成り立っていることもある。

 だが、そこを推測できるほど、ふたりは両国との関係性に長けていない。



「これが私たちの精一杯よね」

「今はまだ、ね」

「外交を重ねて、親交を深めていけば、きっと両国の考えをもっと、理解できると思うわ」

「それは僕たちの将来の課題だね」



 するりと出たアマンドの言葉だったが、それはノエミと共に、国王や王妃として国を導くという気概に満ちていた。

 ノエミは時おり、こうしたアマンドの凛々しい態度に、心臓をぎゅうと鷲掴みにされる。



(ううう、カッコいいわ! どうしてこんなに、カッコよく育ってしまったの!)



 第一印象は、おどおどしていて、イケてなかった。

 だけど覗き込んだアマンドの顔は、一級品だった。

 これは磨けば光るのでは? とノエミが思った通り、アマンドは徐々に輝き出す。

 この三年間で、丸まっていた肩と背筋が伸びて姿勢が良くなり、臆する言動が消えて振る舞いが王子らしくなった。

 その煌めきは最早、レグロを凌ぐ勢いなのだ。



(私と同じ、陰の者だと思っていたのが、今は昔ね……)

 

 ノエミは己が蝶になった自覚がない。

 並び立つと、長身のノエミとアマンドはお似合いなのだが、それに本人が気がついていない。

 

(こんな素敵なアマンドの隣に、私がいてもいいのかしら? もっとオリビアのように、キラキラ属性の女性が相応しいのでは?)



 そんな悩みに、どんよりする日もあった。

 しかし、国王の御前で決められた婚約は、簡単には覆らない。



(悩むだけ損だわ。こうなったら、私が自ら、発光するしかないのよ!)



 切り替えや吹っ切りの早さはノエミの長所だ。

 ノエミは負けず嫌いゆえに、たくましく生き延びてきた、これまでの虐げられ人生を思い出す。

 

(私はやればできる子なんだから! 光るくらい何よ!)



 持ち前のポジティブさで、侍女に化粧を習い、外面には磨きをかけた。

 シンプルな顔つきほど、化粧をしたら変わるのだ。

 ノエミもアマンドも、お互いがお互いに相応しくあろうと、努力しているのを知らない。

 正しくそれを見抜いているのは、長らく教官を務めるクレメンテくらいだろう。

 しかし、大人なクレメンテは余計な口を挟まない。

 ゆえに、この婚約者たちは、今しばらく両片思いの状態が続くのだった。



 ◇◆◇◆



「あっ、んぁ……あ、ひ!」

「黙れ、ノエミに似ていない声は聞きたくない」

「……っ、ぅ……ん」

「そうだ、それでいい。絶対に後ろを振り向くなよ。お前がノエミに似ているのは、髪色と体つきだけなんだからな」

 

 レグロはそう言い放つと、ふたたび腰を打ちつけ始めた。

 うつぶせに寝かされた侍女は、覆いかぶさるレグロによって、さきほどから執拗に犯されている。



 仕事中、レグロに声をかけられ、閨に誘われたときは、舞い上がるほど嬉しかった。

 王子に見初められるなんて、恋物語のようだと、身ぎれいにしてこの部屋を訪れたのに。

 寝台に引きずり込まれるなり、声を上げるな、顔を見せるな、と怖い顔のレグロに命令された。

 そして訳も分からぬ内に処女を奪われ、別の女の名前を呼びながら抱かれている。



「ああ、ノエミ、ノエミ……お前も僕のものにしてやる。兄上にはもったいない……僕の子を孕めノエミ、中に出すぞ!」



 紫色の髪をした侍女は、流れる涙をシーツに吸わせた。

 自分の体が、誰の身代わりにされているのか、もう理解している。

 

(レグロ殿下は、アマンド殿下の婚約者の、ノエミさまをお慕いしているのだわ)



 そんなことを知ったところで、侍女にはどうする術もない。

 レグロが満足するまで、ひたすら声を殺して、苦行に耐えるしかなかった。



「髪は切らずに、そのまま長く伸ばせ。ノエミに姿かたちを似せる努力をしろ」



 理不尽な指示を突きつけられ、いくばくかの金貨を渡されると、夜更けに侍女は解放された。

 侍女はレグロからの要求を思い出す。



(オリビアさまが城に来た日以外は、必ずお相手をするようにって……こんなのがこれから、毎夜続くっていうの?)

 

 侍女は浅はかだった自分を悔いた。

 オリビアという婚約者がいながら、侍女に手を出そうとするレグロに、ときめいた過去が恨めしい。

 しかし、身分的にもレグロには逆らえない。

 奥歯を噛みしめ感情を殺し、それからも侍女はノエミの代役として、夜ごとレグロの慰み者になった。



 ◇◆◇◆



「次の発表の解答、こんなんでどうだ?」



 イサークが持ってきた書面に、レグロはさっと目を通す。



「ふむ……ソートレル国には高利で金を貸し、傭兵を斡旋。フォルミーカ国には型落ちした余剰の兵器を売りつけ、なるべく戦争を長引かせる、か。ずいぶんと悪どいな」

「そんで、両国がすっかり疲弊した頃、まとめて我が国の属国にするんだよ」



 俺って天才だろう? とイサークは自信満々だ。

 レグロは外交で訪れた、両国の避暑地や景勝地を思い浮かべる。



(あれが、僕のものになるのか。……悪くない)



 オリビアといろんな体位を試した場所に、今度はノエミを同伴させよう。

 にやりと口角を持ち上げ、レグロは頷いた。



「よし、これで行こう。質疑応答にも困らないよう、しっかりと対策をしてくれ」
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