【完結】これが背徳の恋だとしても~お義姉さん、兄を捨てて僕と一緒に逃げてください~

鬼ヶ咲あちたん

文字の大きさ
上 下
3 / 11

3話 5年目

しおりを挟む
「マルガレータは、腹に俺の子を宿している。丁重にもてなすように」



 迎えに出た使用人たちが並ぶ玄関ホールで、ジークフリートが若い愛人を慮るようにと命令を下す。

 その場にはもちろん、スミレも居た。

 好奇の目が、青ざめた顔のスミレと、勝ち誇った顔のマルガレータの間を行き来する。



「見事な金髪だわ。若奥さまとは、外見がまるで似ていないわね」

「カスナー商会で働いていたんですって」

「じゃあ、社内で若旦那さまと……?」



 豊満な体を自慢するように、派手なワンピースを着ているマルガレータは、その美しい緑色の瞳で、すぐに黒髪のスミレを見つけ出す。

 ジークフリートよりも一歩前に進み、スミレに相対すると、マルガレータはにこりと微笑んだ。

 

「ジークの赤ちゃんは私が生んであげる。あなたは休んでいていいわよ?」



 スミレでさえ、ジークフリートを愛称で呼んだことはない。

 それに休むも何も、スミレはジークフリートの妻だ。

 しかし、その言葉に従った使用人たちによって、夫婦の部屋からスミレの持ち物が搬出され、遠く離れた客間へと移される。

 呆然自失となるスミレを余所に、別邸からはカスナー夫妻が現れ、まだ生まれてもいない孫の誕生を祝った。



「ようやくか、ジークフリート。直系の後継者がいないのは、カスナー商会にとって憂慮すべき事態だった。早々に解決策を見出したのは評価できる」

「これで安心できるわ。ちゃんとした家柄の娘さんを娶らないからこんなことに――」



 居たたまれず、その場を辞そうとしたスミレを、ジークフリートの声が引き留めた。



「スミレ、話がある」



 カスナー夫妻を始め、使用人たちはみな思っただろう。

 スミレはこのまま離縁されると。

 しかし、そうではなかった。



「子はマルガレータが生んでくれる。スミレは別の役目を担って欲しい」

「私に、できることがあるのなら……何でもします」



 ジークフリートはスミレを見捨てなかった。

 自分にも役目があると知ったスミレは、胸を熱くする。

 妊娠できなかったせいで、こじれてしまったジークフリートとの関係だったが、もしかしたらやり直せるのかもしれない。

 愛人の存在はあるものの、また結婚した当初のように、家族として仲良く過ごせるのなら。



「スミレにしかできない、大事な役目を任せたい」



 そう言って微笑むジークフリートに、スミレは希望を見出した。

 喜びにスミレが感涙しているのを、ジークフリートは満足げに眺める。

 スミレは知らなかった。

 ここから本当の地獄が始まるのだと。



 ◇◆◇



「トルファ男爵、こちらが妻のスミレです」

「素晴らしい黒髪だ。潤んだ瞳も、黒真珠のようで最高にそそられる」

 

 スミレはジークフリートと一緒に、ラグジュアリーなホテルを訪れていた。

 ここで重要な商談があるからと、着飾って連れて来られたのだ。

 スミレの正面に立っているのは、30代半ばと思われる体格のいい男性だった。

 ジークフリートの言葉から貴族であると分かったので、スミレは丁寧に礼をした。



「礼儀作法も躾けられているようだね。私は淑やかな女性が好みなんだ」

「お気に召していただけたでしょうか?」

「よろしい、言い値で契約をしよう。ただし、一晩ではなく二晩だ。たっぷりと彼女を味わいたい」



 取り引きにしては、内容が不穏だった。

 スミレはトルファ男爵の絡みつく視線が怖くて、身をすくませる。

 しかし、ジークフリートはそんなスミレを、トルファ男爵のほうへ押しやった。



「トルファ男爵の仰せつけをよく聞くように。決して逆らってはいけない」

「ジークフリートさま、どういうことですか?」

 

 スミレの疑問に答えたのは、ジークフリートではなかった。

 大きな手でスミレの肩を抱きよせたトルファ男爵が、耳元に唇を近づけてねっとりと囁く。



「君は夫に売られたんだよ。カスナー商会に有利な条件で契約を結ぶ代わりに、僕は君の体を自由にできる権利を得た」

「そ、そんな……」



 うろたえるスミレの姿を、トルファ男爵は満足そうに眺める。

 ジークフリートへ真意を問いただそうとしたが、すでにその姿はなかった。

 絶望するスミレを、トルファ男爵はホテルの部屋へ誘う。



「分かっているとは思うが、余計な抵抗はしないことだ。貴族を敵に回して、生き残れはしないよ」



 トルファ男爵の言葉は事実だ。

 貴族の地位は、確固として国に護られている。

 平民がどうあがいても、手が出せないのが貴族なのだ。



「大丈夫、ひどくはしない。君も楽しめるようにしてあげよう」



 そうして25歳のスミレは、ジークフリートしか知らなかった体に、他の男の味を覚えさせられた。

 ジークフリートよりも女慣れしたトルファ男爵の手練手管によって、さんざん啼かされたスミレは、己の体が恨めしくも汚いものに思えた。



(死にたい――)



 抱かれている間、ずっとそう考えていた。

 この責め苦が終わったら、本邸に戻り次第、ジークフリートに離縁を申し出よう。

 愛人のマルガレータが後継者を生むのだから、妻のスミレはいらないはずだ。

 盛大に送り出してくれた実家には恥をかかせてしまうが、こんな理不尽な扱いには耐えられない。

 

 だが、ホテルから帰宅したスミレを玄関で待っていたのは、テオドールだった。



「お義姉さん、お帰りなさい! これを見て!」



 満面の笑顔でテオドールが掲げているのは、何らかの証書のようだった。

 それを早く見せたくて、朝帰りをしたスミレを、今か今かと待ち構えていたのだろう。

 ジークフリートと離縁をしてしまえば、懐いてくれたテオドールとの関係も切れる。

 それがスミレには心痛だった。

 

「名門の男子校への推薦状なんだ。貴族の子息も通う、寄宿舎つきの大きな学校なんだよ。家庭教師の先生が僕の成績なら行けるだろうって、来年の試験を免除して入学させてくれる手続きを――」



 怒涛の勢いでしゃべるテオドールを、スミレの背後から現れた人物が止める。



「テオ、スミレは仕事帰りで疲れているんだ。その話はまた後で、ゆっくりしてあげなさい」

「あ、そうか、ごめんなさい。あんまり嬉しかったから、はしゃいでしまって」



 またね、と手を振って、テオドールは自室へ戻る。

 それを見送ったのは、スミレとジークフリートだ。

 スミレは後ろを振り返り、勇気を出す。



「ジークフリートさま、お話が……」

「あの喜びようを見たか? これまでテオが勉強を頑張ってきた成果だが、それだけではない」



 話の腰を折るジークフリートに、スミレが言い返そうとした瞬間、ぐっと腰を引き寄せられた。



「貴族との繋がりを強固にしてくれた、スミレのおかげだ。テオの推薦状を快く書いてくれたのは、ニューマン伯爵という高位貴族とも交流の深い方だ。そして――スミレの次のお相手だ」



 ひゅっとスミレの喉が鳴った。

 ジークフリートはテオドールを人質にしたのだ。

 ここでスミレが離縁を申し出れば、あんなに喜んでいたテオドールは、推薦を取り消され学校へ行けなくなるかもしれない。

 スミレはがたがたと震えだし、その場へしゃがみこみそうになる。

 しかし腰を抱いていたジークフリートが、それを許さない。

 

「さあ、聞かせてもらおう。トルファ男爵とのやり取りを。そのために今日は、わざわざ仕事を休んだんだ」



 ジークフリートはスミレが寝起きをしている客間へ向かう。

 マルガレータがいる夫婦の部屋から遠く離れたそこで、スミレはジークフリートに押し倒された。



「どこをどう触られた? 二晩もかけて、じっくり可愛がってもらったんだ。俺にされるよりも感じたか?」



 ジークフリートの乱暴な手が、スミレの体をまさぐる。

 あちこちに残されたキスマークを見つけては、そこへ噛み跡をつけていくジークフリート。



「痛いっ!」

「トルファ男爵から話を持ち掛けられたときは、どうしようかと迷ったが……清楚で純真なだけじゃない、男を誘ういやらしい体になって……」

 

 ジークフリートがごくりと唾を飲む音がした。

 二晩に渡り執拗に擦られたせいで、スミレの胸の頂きや股座の尖りは、赤く腫れあがっている。

 

「他の男に抱かれた妻というのも、趣向がある。スミレ、俺が上書きしてやるからな」



 感謝しろとばかりにジークフリートは言い放つと、スミレの体に覆いかぶさった。

 体格のいいトルファ男爵にさんざん嬲られたスミレは、休む暇も与えられずに、続けてジークフリートの慰みものになるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

禁断

wawabubu
恋愛
妹ののり子が悪いのだ。ああ、ぼくはなんてことを。

偶然PTAのママと

Rollman
恋愛
偶然PTAのママ友を見てしまった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...