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第1章
古の時代のこと
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「さて、古代についてですが──」
「かつて人類は現在より遥かに高度な文明を築いていました。ですが互いに争い始め、やがて覇王が世界を統一します。その後、天変地異が起きて滅びました。以上です」
「「それだけっ!?」」
随分と簡潔な説明に、皆唖然とする
「正直、古代の事は分からない事が多いのです。天変地異で歴史も失われてしまったのでしょう」
「でも、世歴記には古代の記述がたくさんありますよ?」
「世歴記ですか…」
トライアが言うと、ルセフはふうっと溜息をついた。
「今のあれには真実が書かれていません」
「ちょっと先生! 世歴記は導神教の経典ですよ!?」
「大丈夫、ここは帝国ですから」
「導神教って何?」
段々と混乱が広がる。仕方ないのでスフィアは消火を試みる。
「まずは順番にいきましょう。導神教からいきますか?」
「うーん、それだと時代が前後していまうので…とりあえず、世歴記について簡単にいきましょうか」
ルセフは世歴記を知らないであろうテナへ説明する。
「世歴記は、人類の歴史について記されたとされる書物です。世界を神様から人間が譲り受けた後の歴史ですね」
「うーん、霊典の続きみたいな感じ?」
「正しい続きではありませんが…まあ順番的にはそうなりますかね」
世歴記にはやたら否定的なルセフ。スフィアがテナに訊く。
「基礎学校でその辺り教わらなかったの?」
「避難してた所から神様に呼ばれて人間が出てきて、最初の国を興しました、くらいかなあ」
スフィアは次にルセフを見る。
「基礎学校で学ぶ歴史は、主に帝国の歴史ですからね。あとは補足みたいなものです」
「端折り過ぎでは?」
「限られた時間の中で色々と学ばないといけませんから。まずはちゃんと読み書き計算が出来るようになる事。他はそれからです」
「それは、その通りですね…」
子供でも10歳になれば手伝い、年下の子の世話などで忙しい。基礎学校は週に2、3日が精々だ。
まずは日々の暮らしを立てる事、教育は余裕があればこそ受けられるものだった。
ルセフはテナに説明を続ける。
「世歴記ですが、内容が他の書物との相違している部分がいくつもあります。世歴記が必ず正しいとは言えないのです」
「そうなの?」
「どちらが正しいのか判断できませんから。古代については殆どが言い伝えですから、まず証拠もありませんし」
「ふうん……古代の証拠って何かないの?」
テナからの質問に、ルセフはしばし考える。
「……私は古代に書かれた、ある手記を読んだことがあります」
「手記?」
「日記のようなものです」
「…先生、古代に書かれた、とは…何か証拠になる物があったのですか?」
トライアがルセフに尋ねる。トライアの表情から、強い関心があることが窺えた。
「はい。私たちはその手記の内容について確認する機会に恵まれ、それが事実であることの証拠を発見しました」
「!」
驚くトライア。しかしテナはルセフを訝しむ。
「先生、それホント?」
「ほ、本当です!」
「あやしい~」
普段の雰囲気のせいだろうか、テナからは信用されないルセフ。
そんなテナとは違い、トライアはルセフに手記の内容を催促する。
「その手記は、どのような内容なのですか?」
「覇王の関係者が記したもので、覇王が世界を統一する前後から、天変地異が起こり人々がエイリアの地へ逃れるまでの出来事です」
「それは凄い発見なのでは!?」
「そうですね。ただ、この証拠は必要な時が来るまで秘密にしておこうという事になりました。今の世を混乱させますので」
「秘密?」
「この事には多数の人々が関わっています。私が読んだ手記も写本ですよ。手記を現在まで伝えた方々がいるのです」
「それは、まさか…」
「そう、覇王の系譜の方々です」
急に話が大きくなって、高揚を隠せないトライア。
「覇王の子孫が現在も?」
「覇王の直接の子孫はいません。覇王には子がいらっしゃらなかったので。現在いるのは、覇王の兄の子孫の方々ですね」
ここでレイナがルセフに尋ねる。自分の知っている事と違うからだ。
「覇王の一族は、天変地異で滅んでしまわれたと世歴記に記されていますが…」
「そう、だから今の世歴記は当てにならないという事です。まあそれについては、次にやりましょう」
ルセフはいつもの調子でさらりと答える。
動揺するトライアは、ルセフに訊かずにいられない。
「…こんな事を話してしまって大丈夫なのですか?」
「別に問題ありません。どうせ証拠を見なければ誰も信じませんし。それにアルク君とスフィアさんは既に知っていますよ」
「!?」
トライアはスフィアを見て訊く。
「姉さんは知ってたの?」
「ルセフ先生と関わるというのは、こういう事よ」
「こ、こういう事?」
スフィアはアルクの方を見ながら答える。
「えーっと、真実から目を逸らしてはならない、だっけ?」
「まずは真実を知るところから始める、だったような…」
うろ覚えのアルクとスフィアの言葉を、ルセフが修正する。
「真実ではなく、事実です。起こったことを正しく知る。まずはそこからです」
「だからといって、何でも事実を突きつけるのは問題では?」
「偽りの上に積み上げられた歴史に何の価値があるのでしょうか。それでは歴史から正しく学ぶことが出来ません」
「歴史への変な拘りが強すぎるわね…」
基礎学校の頃とはまるで別人のようなルセフに、戸惑うトライアとレイナ。
だがアルクとスフィアは、いつも様子でルセフと会話を続ける。
「ですので、古代については最初に言った通りです。覇王の世界統一と天変地異。私が知る古代の確かな事実はこれだけという事です」
「その他については?」
「まだ未検証です」
「古代がどんな時代だったかは、やらないのかしら」
トライアとレイナは危険な所へ来てしまったのを感じ始める。
そして、テナは会話に付いていけなくて詰まらなそうにしていた。
「かつて人類は現在より遥かに高度な文明を築いていました。ですが互いに争い始め、やがて覇王が世界を統一します。その後、天変地異が起きて滅びました。以上です」
「「それだけっ!?」」
随分と簡潔な説明に、皆唖然とする
「正直、古代の事は分からない事が多いのです。天変地異で歴史も失われてしまったのでしょう」
「でも、世歴記には古代の記述がたくさんありますよ?」
「世歴記ですか…」
トライアが言うと、ルセフはふうっと溜息をついた。
「今のあれには真実が書かれていません」
「ちょっと先生! 世歴記は導神教の経典ですよ!?」
「大丈夫、ここは帝国ですから」
「導神教って何?」
段々と混乱が広がる。仕方ないのでスフィアは消火を試みる。
「まずは順番にいきましょう。導神教からいきますか?」
「うーん、それだと時代が前後していまうので…とりあえず、世歴記について簡単にいきましょうか」
ルセフは世歴記を知らないであろうテナへ説明する。
「世歴記は、人類の歴史について記されたとされる書物です。世界を神様から人間が譲り受けた後の歴史ですね」
「うーん、霊典の続きみたいな感じ?」
「正しい続きではありませんが…まあ順番的にはそうなりますかね」
世歴記にはやたら否定的なルセフ。スフィアがテナに訊く。
「基礎学校でその辺り教わらなかったの?」
「避難してた所から神様に呼ばれて人間が出てきて、最初の国を興しました、くらいかなあ」
スフィアは次にルセフを見る。
「基礎学校で学ぶ歴史は、主に帝国の歴史ですからね。あとは補足みたいなものです」
「端折り過ぎでは?」
「限られた時間の中で色々と学ばないといけませんから。まずはちゃんと読み書き計算が出来るようになる事。他はそれからです」
「それは、その通りですね…」
子供でも10歳になれば手伝い、年下の子の世話などで忙しい。基礎学校は週に2、3日が精々だ。
まずは日々の暮らしを立てる事、教育は余裕があればこそ受けられるものだった。
ルセフはテナに説明を続ける。
「世歴記ですが、内容が他の書物との相違している部分がいくつもあります。世歴記が必ず正しいとは言えないのです」
「そうなの?」
「どちらが正しいのか判断できませんから。古代については殆どが言い伝えですから、まず証拠もありませんし」
「ふうん……古代の証拠って何かないの?」
テナからの質問に、ルセフはしばし考える。
「……私は古代に書かれた、ある手記を読んだことがあります」
「手記?」
「日記のようなものです」
「…先生、古代に書かれた、とは…何か証拠になる物があったのですか?」
トライアがルセフに尋ねる。トライアの表情から、強い関心があることが窺えた。
「はい。私たちはその手記の内容について確認する機会に恵まれ、それが事実であることの証拠を発見しました」
「!」
驚くトライア。しかしテナはルセフを訝しむ。
「先生、それホント?」
「ほ、本当です!」
「あやしい~」
普段の雰囲気のせいだろうか、テナからは信用されないルセフ。
そんなテナとは違い、トライアはルセフに手記の内容を催促する。
「その手記は、どのような内容なのですか?」
「覇王の関係者が記したもので、覇王が世界を統一する前後から、天変地異が起こり人々がエイリアの地へ逃れるまでの出来事です」
「それは凄い発見なのでは!?」
「そうですね。ただ、この証拠は必要な時が来るまで秘密にしておこうという事になりました。今の世を混乱させますので」
「秘密?」
「この事には多数の人々が関わっています。私が読んだ手記も写本ですよ。手記を現在まで伝えた方々がいるのです」
「それは、まさか…」
「そう、覇王の系譜の方々です」
急に話が大きくなって、高揚を隠せないトライア。
「覇王の子孫が現在も?」
「覇王の直接の子孫はいません。覇王には子がいらっしゃらなかったので。現在いるのは、覇王の兄の子孫の方々ですね」
ここでレイナがルセフに尋ねる。自分の知っている事と違うからだ。
「覇王の一族は、天変地異で滅んでしまわれたと世歴記に記されていますが…」
「そう、だから今の世歴記は当てにならないという事です。まあそれについては、次にやりましょう」
ルセフはいつもの調子でさらりと答える。
動揺するトライアは、ルセフに訊かずにいられない。
「…こんな事を話してしまって大丈夫なのですか?」
「別に問題ありません。どうせ証拠を見なければ誰も信じませんし。それにアルク君とスフィアさんは既に知っていますよ」
「!?」
トライアはスフィアを見て訊く。
「姉さんは知ってたの?」
「ルセフ先生と関わるというのは、こういう事よ」
「こ、こういう事?」
スフィアはアルクの方を見ながら答える。
「えーっと、真実から目を逸らしてはならない、だっけ?」
「まずは真実を知るところから始める、だったような…」
うろ覚えのアルクとスフィアの言葉を、ルセフが修正する。
「真実ではなく、事実です。起こったことを正しく知る。まずはそこからです」
「だからといって、何でも事実を突きつけるのは問題では?」
「偽りの上に積み上げられた歴史に何の価値があるのでしょうか。それでは歴史から正しく学ぶことが出来ません」
「歴史への変な拘りが強すぎるわね…」
基礎学校の頃とはまるで別人のようなルセフに、戸惑うトライアとレイナ。
だがアルクとスフィアは、いつも様子でルセフと会話を続ける。
「ですので、古代については最初に言った通りです。覇王の世界統一と天変地異。私が知る古代の確かな事実はこれだけという事です」
「その他については?」
「まだ未検証です」
「古代がどんな時代だったかは、やらないのかしら」
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