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四、司くんの変な嘘
しおりを挟む司くんは真面目だ。"優等生の司くん" で、
学年中が知っているくらい真面目で成績優秀だ。テストもほとんど毎回一位だと聞いた。
いつもにこにこ笑顔だから誰にでも好かれるし、特別イケメンってわけじゃないけど、不細工でもない。体の線が細くて素敵だと一部の女子から人気があるらしい。でも、昔から不思議に思っていたことが一つある。
司くんは時々変な嘘をつく。
誰にも怒られたりしないのに、必要のない嘘をついて、結局先生に怒られているのを何回も見たことがある。
一年生の時、体育のサッカーでボールが司くんのお腹に当たった。みんなが囲むように集まり、先生が「見せてみろ」とお腹を見ようとしても、「当たったのは足首です」と言い張るのだ。しかし足首を怪我している様子はない。誰がどう見てもお腹に当たっていたのに。なぜそんな嘘をつくのだろう。
こういう時の司くんは普段と違って頑固だ。結局お腹を見せることなく「一人で大丈夫だから」と保健室に行ってしまった。
小学校の時も似たようなことがあった。
授業中に先生が「きゃ!」と悲鳴をあげると司くんに駆け寄った。何かで切ったのだろう指から大量の血が出ていた。自分で用意したのかティッシュでギュッと抑えているが、真っ赤に染まって既に役割を果たしていなかった。
司くんは「もう血は止まってるんで大丈夫です」と言ったが、血は地面にポタポタと垂れ始めていて「大丈夫じゃないでしょ!」
先生に怒られながら、保健室に連れていかれた。私の中で司くんはすごく真面目だけど、不思議な子という印象になった。
体育の時間、着替えを終えてグラウンドに出る。今日は梅雨の六月とは思えないほど日差しが強く暑い。先週までは雨続きで肌寒かったのでみんな上着を羽織っていたが、今日はほとんど全員半袖を着ている。
「藤谷、暑くねぇのかよ!」
西野の声がした。見ると近くに「あちぃあちぃ」と愚痴を言っている西野と、横で困ったように笑っている司くんがいた。この暑さで上着を羽織っていて周りから少し浮いている。
「大丈夫だよ。風邪気味なんだ」
いつものようににこにこして答えていた。
「そういえば今日は学ラン着てたな。そんなに寒いのやばくね」
西野が靴紐を結び直しながら言う。
「朝、病院行ったから」
だから今日は遅刻したのか。
「ていうかお前。着替えトイレでするなよ。女子でもやらんって」
西野が司くんに肩を回して笑いながら言った。
「いいだろ別に」
司くんは西野の茶化しに乗るように肩を組み返し、あっけらかんと言う。
そうなのだ。司くんは着替えの時は更衣室ではなくトイレで着替えているらしい。
一時期クラス中で噂になっていたから私も知っている。体育の前にふらっといなくなって、いつの間にかトイレの個室で着替えてると男子が話していたのを聞いた。体育が終わった後も同じようにふらりとトイレに消えて着替えて戻ってくる。着替えを見られるの嫌なタイプなんだろうか。
「女々しい男は嫌われるぞ。堂々してる奴が女子受け高いんだよ」
西野が周りを見渡しながら言った。本人は小声のつもりなのだろうが丸聞こえだ。
今までいろんな人がトイレで着替える理由を本人に聞いてきたが、のらりくらりかわされるので、そのうち飽きて誰も聞かなくなった。その代わりみんな好き勝手に理由をつけていた。実は毛深いから隠したいとか、背中に大きなイボがあるとか、お釈迦様の刺青が入ってるとか。あることないこと言われて本人はいいんだろうか。
「本当に大丈夫かよ。今日は志村の地獄のマラソンだぞ」
西野の言葉に他の男子たちが反応した。
「げ、今日マラソン?」
「お前ら知らなかったの? あいつこの前、陸上部泣かせたらしい」
すっかり司くんの長袖から話は逸れた。風邪気味なのにマラソンなんて大丈夫なのだろうか。聞いてしまった以上、少し心配になったが話しかけるほどの仲ではない。
一瞬、司くんの方を見るとふぅとため息をついていた。やっぱりしんどいのかな?
チャイムが鳴り出した。全員急いで整列をする。体育の志村先生はチャイムが鳴り終わるまでに整列してないと怒るのだ。
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