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6話 終点までの旅
しおりを挟む僕たちの乗っている車両には、他にサラリーマンみたいなおじさんが一人とランドセルの小学生がいた。
それも次の駅、さらに次の次の駅で降りていく。
気がついたら車両独占状態になっていた。贅沢な旅だ。
浅川はシートの真ん中に座って後ろの窓に頬杖をつき、外を見ている。僕もその横で前の窓を眺めた。
向いてる方向は逆なんだけど、同じ速度で流れてる電車の風景を見てるのは楽しかった。
ビルばっかりだった風景が住宅地になり、たまに畑なんかも見えてポツポツ知ったメーカーの工場が通り過ぎていく。
そのうち見えてきたのは、海だった。
「おお……浅川、見て、海」
「あっこっち側か。スゲー」
指さして浅川を呼んだら、丁度ペットボトルを開けてた浅川はキャップを閉めながら視線を前に戻した。
僕にも「ほい」とお茶をくれる。
それを飲みながら窓の外を眺めていると、なんだかワクワクした。
映画みたいだ。非現実が急にこっちに出て来たみたいで、面白い。
「なに、面白いモンあった?」
「ええ? 別にこれっていうんじゃなくて」
「だってニコニコしてっからさ。外、面白い?」
「うーん……うん。楽しい」
「そっか」
そう言って浅川は目を細めると、唇を綻ばせた。
両手足をぐーんと伸ばして欠伸をして、「終点ついたら起こして」と言ったと思ったらすぐ目を瞑る。
僕の肩にこつんと浅川の頭が乗っかってきた。
誰もいないから、いっか。
肩に感じる重みとぴったり右肩を覆う浅川の体温を感じながら、僕はときどき見える海原を見つめていた。
電車はトンネルをくぐったり、少し浜から離れて住宅街を走ったり、入り江のようになった海が見えることもあった。
そしてまた、窓いっぱいの海が視界に広がる。
明るい日差しが海の表面をキラキラと輝かせていた。
ボートが浮かんでいるのが見えたけど、電車が速いからすぐ通り過ぎてしまう。
もっと奥に船もあった。何してる船だろう?
いつも側にある息苦しい感覚が、壊れて薄れて、霧みたいに晴れていくのを感じた。
『……方面へは二番線の……お乗り換え下さい』
ハッと僕は顔を上げた。寝てる浅川に寄りかかるみたいにして僕も寝てたみたいだ。
電車は駅に止まってて、折り返し運転になるってアナウンスが流れてる。
「浅川、浅川、この電車の終点みたい」
「んー? なんだ、乗り換えないとあんま遠くまで行かないんだな」
ふわあ、と大きな欠伸をした浅川が伸びをしながら立ち上がった。僕のと自分のと、二つの鞄をひょいと持ち上げて身を屈めながらホームに出て行く。
「海だー。そうだ海行こ、石田!」
振り返ってへらっと笑った浅川の顔は、さっき窓から見えた海の表面みたいに輝いていた。
降りたのは、名前くらいは知ってるけど行ったことのない街だった。
吹いてくる風に海の匂いがする。
歩いてる人もどことなく異世界みたいで、面白い。
「なあー、なんで聞かないの?」
「うん?」
「いきなりサボろうって誘った理由」
「聞いてほしい?」
精算して改札を出ながら問いかけると、浅川は首を竦めて眉を下げていた。
そんな困り顔するなら聞かなきゃいいのに。
「聞かないよ」
「石田ってたまにそーいうとこある」
「なに、どーいうとこ」
ホッとしたように笑う浅川が僕の手を引いた。
「そーいうとこだよ!」
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