5 / 13
5話 出かけよう!
しおりを挟む
次の日、何故か朝の通学路に浅川が待っていた。
昨日はあれからすぐ雪村先輩と別れて、結局トマトの支柱立ては諦めた。週末までに終わってたらいいよって言ったんだ。もしかして朝早く行って設置しようと思ってた?
僕が自転車を停めると、浅川は「はよー」と近づいてくる。
「どうしたの?」
「ごめん、あのさ……今日、ガッコで絶対終わらせないと行けない用事ある?」
「ん? 日直は昨日までだったし、特にないけど……」
「じゃあサボってどっか行かない?」
「えっ!? ど、どこに?」
「んー、まだ決めてない」
「でも自転車が……」
「あの駅前のスーパー、駐輪場タダ」
「先生から電話くるかも」
「それね、俺が電話しといた。『通学路で会った石田君が具合悪そうなんで家まで送ってきます~』って」
「なにそれ」
「……だからゴメンって」
僕の返事を聞く前に、もうすっかり準備が終わっている。
浅川は両手を顔の前で合わせて、お祈りするみたいに身を屈めていた。その上目遣いの『お願い』に弱いんだってば。
それにちょっと浅川の様子が変だった。
ソワソワしてるというか、落ち着かないまま視線をさまよわせてたり、逃げ場がなくて困ってる子供みたい。
……昨日のことが、あったからかな。
雪村先輩に惚れてる浅川にしてみれば、二階から落ちてきたのもひっくりしただろうけど、それだけ神谷先生のことが好きなんだなって思ったら……。
やっぱり、落ち込むよね。
そう思ったら断るのもなんだか可哀想で、僕は自転車を一度降りた。『友達』なんだし気晴らしくらいなら付き合おうかな。
それに、学校サボって出かけるなんて初めてでなんかワクワクする。
「まあ、いいけど……」
「よっし! じゃあ行くとこ、今決めた。テキトーに乗った電車のさー、終点まで行こ」
「ええ? めちゃくちゃ遠くだったらどうすんの」
「面白いし。電車賃俺持ちだしー」
横から大きな手が伸びてきて、僕の自転車はスイスイ押されて移動する。
慌ててついてったら、素早く無料駐輪場に入れられてしまった。スーパーで買い物したレシートがあれば無料なんだって。
「ペットボトル買ってこ。何がいい?」
「緑茶」
「ゲキ渋なんだけど……えーとあとなんか買うかー」
お茶のペットボトル、お菓子、おにぎり、などなど買ったモノは全部、浅川の鞄の中に消えた。
覗いたら教科書もノートも入ってない。もしかして今日、このために来たの?
駐輪場に戻り、なくさないようレシートを自転車のサドルの裏に押し込んだら「行こ!」と浅川は待ちきれないって感じに僕の手を引いた。
まだ通勤通学時間で混み合った駅へ入っていく。
「初乗り分だけ二枚、切符買ったから」
「ICカードじゃないの初めて」
「俺もー。さーて、どの電車に乗ろっか……」
小さい切符を口に銜えた浅川は、襟足の長い金髪を両手を持ち上げギュッとゴムで結んだ。
電光掲示板を見上げている浅川の横顔に視線が吸い寄せられる。
ハーフアップにした金髪に、スッと通った顎のあたりと筋の浮かんだ首筋、いつも笑ってるみたいなちょっと上がった口角。
浅川の身体は、きらきらとした目に眩しいものでできてる。
そうでないと、こんなに僕の目に焼きつく理由が分からない。
通り過ぎる灰色の人々の中で、浅川だけが色付いているように見えた。
駅のアナウンスも行き交う人のざわめきも、一瞬遠くなる。
「あれにしよ!」
「あ、……うん」
「その前にロッカー」
「え?」
「石田の荷物、弁当とおやつだけな。はい、しまってしまって」
「ええ?」
「あと三分で電車出る」
「まって、まって」
「電車は待たないってー。もうそのまま入れちまえ」
かなり雑に放り込まれた教科書、ノートとペンケース、英語の辞書とかはコインロッカーの中に置き去りにされた。バタンッと音立てて戸が閉まる。
強く手を引かれた。「あと一分!」と浅川が叫ぶ。
電光掲示板をもう一度確認して、二人で駆けだした。
こっちの下り線はほとんど人がいない。
浅川はホームへの階段を数段飛ばしながら降り、最後の数段を一気に飛んだ。
僕ももつれそうになる足で必死に走って、ホームに駆け込む。
もう発車音が鳴っている。
「間に、合っ、た!」
大股で電車の入口に足をかけた浅川が、振り向いて俺に手を伸ばした。
ぱしっ、と強く手を握られて引っ張られる。
ひょいと軽く持ち上げるみたいに電車に乗せられた。
すぐに扉が閉まり、電車が走り出す。
息が切れて、ひゅうひゅうと喉から変な音がしていた。
『駆け込み乗車はご遠慮下さい』
車内放送が入った。
明らかに僕たちのことだけど、ガランとした下り電車ではじろじろ見てくる人はいない。
顔を見合わせて、浅川と僕はプッと吹きだして笑った。
昨日はあれからすぐ雪村先輩と別れて、結局トマトの支柱立ては諦めた。週末までに終わってたらいいよって言ったんだ。もしかして朝早く行って設置しようと思ってた?
僕が自転車を停めると、浅川は「はよー」と近づいてくる。
「どうしたの?」
「ごめん、あのさ……今日、ガッコで絶対終わらせないと行けない用事ある?」
「ん? 日直は昨日までだったし、特にないけど……」
「じゃあサボってどっか行かない?」
「えっ!? ど、どこに?」
「んー、まだ決めてない」
「でも自転車が……」
「あの駅前のスーパー、駐輪場タダ」
「先生から電話くるかも」
「それね、俺が電話しといた。『通学路で会った石田君が具合悪そうなんで家まで送ってきます~』って」
「なにそれ」
「……だからゴメンって」
僕の返事を聞く前に、もうすっかり準備が終わっている。
浅川は両手を顔の前で合わせて、お祈りするみたいに身を屈めていた。その上目遣いの『お願い』に弱いんだってば。
それにちょっと浅川の様子が変だった。
ソワソワしてるというか、落ち着かないまま視線をさまよわせてたり、逃げ場がなくて困ってる子供みたい。
……昨日のことが、あったからかな。
雪村先輩に惚れてる浅川にしてみれば、二階から落ちてきたのもひっくりしただろうけど、それだけ神谷先生のことが好きなんだなって思ったら……。
やっぱり、落ち込むよね。
そう思ったら断るのもなんだか可哀想で、僕は自転車を一度降りた。『友達』なんだし気晴らしくらいなら付き合おうかな。
それに、学校サボって出かけるなんて初めてでなんかワクワクする。
「まあ、いいけど……」
「よっし! じゃあ行くとこ、今決めた。テキトーに乗った電車のさー、終点まで行こ」
「ええ? めちゃくちゃ遠くだったらどうすんの」
「面白いし。電車賃俺持ちだしー」
横から大きな手が伸びてきて、僕の自転車はスイスイ押されて移動する。
慌ててついてったら、素早く無料駐輪場に入れられてしまった。スーパーで買い物したレシートがあれば無料なんだって。
「ペットボトル買ってこ。何がいい?」
「緑茶」
「ゲキ渋なんだけど……えーとあとなんか買うかー」
お茶のペットボトル、お菓子、おにぎり、などなど買ったモノは全部、浅川の鞄の中に消えた。
覗いたら教科書もノートも入ってない。もしかして今日、このために来たの?
駐輪場に戻り、なくさないようレシートを自転車のサドルの裏に押し込んだら「行こ!」と浅川は待ちきれないって感じに僕の手を引いた。
まだ通勤通学時間で混み合った駅へ入っていく。
「初乗り分だけ二枚、切符買ったから」
「ICカードじゃないの初めて」
「俺もー。さーて、どの電車に乗ろっか……」
小さい切符を口に銜えた浅川は、襟足の長い金髪を両手を持ち上げギュッとゴムで結んだ。
電光掲示板を見上げている浅川の横顔に視線が吸い寄せられる。
ハーフアップにした金髪に、スッと通った顎のあたりと筋の浮かんだ首筋、いつも笑ってるみたいなちょっと上がった口角。
浅川の身体は、きらきらとした目に眩しいものでできてる。
そうでないと、こんなに僕の目に焼きつく理由が分からない。
通り過ぎる灰色の人々の中で、浅川だけが色付いているように見えた。
駅のアナウンスも行き交う人のざわめきも、一瞬遠くなる。
「あれにしよ!」
「あ、……うん」
「その前にロッカー」
「え?」
「石田の荷物、弁当とおやつだけな。はい、しまってしまって」
「ええ?」
「あと三分で電車出る」
「まって、まって」
「電車は待たないってー。もうそのまま入れちまえ」
かなり雑に放り込まれた教科書、ノートとペンケース、英語の辞書とかはコインロッカーの中に置き去りにされた。バタンッと音立てて戸が閉まる。
強く手を引かれた。「あと一分!」と浅川が叫ぶ。
電光掲示板をもう一度確認して、二人で駆けだした。
こっちの下り線はほとんど人がいない。
浅川はホームへの階段を数段飛ばしながら降り、最後の数段を一気に飛んだ。
僕ももつれそうになる足で必死に走って、ホームに駆け込む。
もう発車音が鳴っている。
「間に、合っ、た!」
大股で電車の入口に足をかけた浅川が、振り向いて俺に手を伸ばした。
ぱしっ、と強く手を握られて引っ張られる。
ひょいと軽く持ち上げるみたいに電車に乗せられた。
すぐに扉が閉まり、電車が走り出す。
息が切れて、ひゅうひゅうと喉から変な音がしていた。
『駆け込み乗車はご遠慮下さい』
車内放送が入った。
明らかに僕たちのことだけど、ガランとした下り電車ではじろじろ見てくる人はいない。
顔を見合わせて、浅川と僕はプッと吹きだして笑った。
46
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる