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4.『愛されたがりと愛したがり』
④
しおりを挟むでもオレは不思議と嫌じゃない。好きって言われてびっくりして、フワフワ頭が舞い上がってるからかもしれないけど。
だって黒崎さんが、オレのこと好きだからそばに置きたいって。本当に? オレが重いって話、たくさんしたからよく知ってるくせにそんなこと言っていいの?
「黒崎さん、……っ、あ、ふっ……んんっ、あっ、やっ……!」
痛そうなほど膨れた股間を放置して、黒崎さんはオレの穴を慣らしはじめた。指が中を少し擦るだけで愛液が溢れ出して、黒崎さんの手を濡らす。
今までにないほど感じていて、性器はピクリともしてないのに胎だけが熱い。アルファの気配に身体から服従して、雌にされてしまった気分だった。
「リリ、逃げないで。俺を見て」
何度も何度も、黒崎さんは『逃げないで』って繰り返している気がする。
毎回恋人に逃げられるからかな。それがトラウマになってどんどん拘束が過剰になっていくんじゃないだろうか。この手錠にも、黒崎さんが重ねた苦しさの重みがかかってる気がした。
だって、それでも傷つけたくなくて内側に毛皮が巻いてあるんだよね。
そういうところが矛盾してて、でも愛おしい。
『大事に大事に愛して、判って貰ってからって思ってたんだ。そうでないと……怖がられるのが、嫌で言えなかった』
さっき黒崎さんはそう言って俯いていた。
性癖を暴露したらオレが怖がって逃げていくと思ってたんだろうか。
先にめいっぱい愛して虜にして、それからだったら許してくれるかもって思ったとか? うーん、残念ながら黒崎さんの思考錯誤は、オレには意味なかったっぽいな。
黒崎さんのこれは熊の本能でもあるけど、執着だけじゃない情念のようなものがどろりと纏わりついてくるみたいだった。
その感情がオレには『特別』みたいで心地良い。なんだろうこの感覚?
よく考えてみたらオレ、抱きしめられて息もできないくらいギュウギュウに執着されるの好きだな。だってすごく愛されてるみたいで心地良さそう。
愛してるから暴走するし、閉じ込めたくて執着するし、征服したい欲が抑えきれなくなるんだよね?
あれ、それって何がいけないのかな?
「黒崎さん、あの……あのさ、きーて」
「うん?」
「縛ってもいいし、閉じ込めてもいいから、愛してるって言って」
オレの言葉に驚いたような目をして、黒崎さんが顔を近付けてきた。
じっと見つめてくる瞳には凶暴な獣の衝動と、気遣いの理性がせめぎ合っているように見える。
この部屋は暖房が効いてて暖かい。お湯で拭かれても冷めたら寒く感じるはずなのに、全然寒くないんだ。
オレが寒くならないように、黒崎さんは全部管理してくれてる。
それって、傍若無人な獣の衝動だけじゃ絶対に出来ない事だと思う。だからそれは、紛れもなく理性的な愛なんだろう。
「リリ、……愛してる」
「嬉しい。いっぱい愛して。そしたら逃げないよ」
「……ッ、リリ!」
黒崎さんにギュッと抱き締められたらクラクラするほどいい匂いがした。
それがオメガの本能なのだとしても、そうさせるのはアルファの意志だ。
発情期のオメガのフェロモンみたいに無差別じゃない。
ただ一心にオレというオメガを求めるからこそ溢れる黒崎さんの匂いが、オレを虜にする。
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