10人目の恋人にフラレたメンヘラΩの俺

天城

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4.『愛されたがりと愛したがり』

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 ちょっと重苦しい沈黙の中、ダイニングテーブルで紅茶が出された。
 黒崎さんはオレを玄関に降ろすまではしっかり抱き締めてたのに、そこに着いた途端慌てたように離してしまった。
 オートロックでカード認証のいるドアは開かないから、もうオレはここから逃げられないんだけど。

 オレが『中に入っていいの?』って聞いたら弾かれたように顔を上げて促すから、ダイニングの椅子に座って一息ついた。
 でも黒崎さんは何にも言わなくて、本当にただ衝動的にオレを見つけて拉致してきちゃったのかなあと考える。
 意外だ、結構頭で考えるタイプだと思ってたんだけど。

 すっかりオレを選んでくれたんだと思ったけど違うのかも。本能で考えないで、もう少しちゃんと聞いた方が良さそうだ。

「……オレになんか用?」
「いや、……うん、そうだな……何で連絡が付かなくなったのか、とか」
「オレは黒崎さんと検証中だったんだよね? オレのメンヘラが何のせいなのか調べるための。……それが要らなくなったから、連絡しなかった」
「いらなく……?」

 黒崎さんは紅茶を置いた時のままの姿勢でオレの側に立ち尽くしていた。
 それを見上げる努力はもうしない。オレは紅茶のカップを湯たんぽ代わりに手を温めた。

「正式に、見合いすることになったから」
「……」
「写真見る? 両親が決めてきてくれたんだけど、獅子獣人で結構なイケメン。オレはよく知らないけど金持ちだっていうから何処かの御曹司かなあとか」

 スマホに例の写真を拡大して映し、テーブルの上に放った。
 頬杖ついて見遣った先のそのスマホが、大きな手で掴み上げられる。次の瞬間、ビシ、パキ、と画面の割れる音が響いた。

 え、と思って顔を上げると、表情を無くした黒崎さんがじっと手の中のスマホを眺めていた。
 画面の暗くなったスマホがコトンとテーブルの上に戻される。

「リリ、この男はあまりお勧めしないな。囲っているオメガが俺が知ってるだけで三人はいる」
「……知り合いなの?」

 コク、と頷いた黒崎さんはダイニングの床に膝をついて、オレの顔を覗き込んできた。まるでドラマみたいなシチュエーションだ。

「見合いには行かないで、ここにいてくれないかリリ」

 そう続けて言われたセリフまで、ほんとの俳優みたい。
 だけど黒崎さんの目だけは、その状況を裏切っていた。彼の瞳に映っているのは告白の甘さだけじゃない。
 底の知れない暗い獣性がそこに潜んでいるみたいに見えてゾクリとした。

「どうして? オレにグルーミングするくせに、全然性的に興味なかったでしょ。たたなかったの知ってるよ」
「もう少し、時間をかけて口説くつもりでいたんだ。でもそんな悠長なこと言っていられなかったな。初めて会った時からリリが気になって、運命だと思ったけれどなかなか言い出せなかった。大事に大事に愛して、判って貰ってからって思ってたんだ。そうでないと……怖がられるのが、嫌で言えなかった。でもリリが、好きなんだ。他のアルファなんかに渡したくない。俺の側にいて欲しい」

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