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3.『俺のじゃないから』
①
しおりを挟む黒崎さんと出会った次の日から、毎日大学帰りにマンションに寄ることになった。
理由はオレのグルーミングのため。メンヘラ気質が治るのか、少なくとも落ち着くのかを確かめるっていう名目で、黒崎さんはオレに触ってくれるようになった。
そこで困ったのがオレの気質だ。大型獣人大好きなんだから仕方ないだろ。そんなの好きになっちゃうじゃん。開き直ったら少しだけ気分が楽になった。
グルーミング、イヤだって言うことも出来たけど、本当を言えば人肌が恋しい。メンヘラなめんな。誰でもいいから傍にいて欲しい時に、あんな完璧でイケメンな熊獣人ずるいよ。
それが優しくケアして触ってくれるなんて、正直に嬉しいに決まってるでしょ。
惚れっぽいのは自覚してる。
好きじゃなくても好きって言われると付き合っちゃう事があった。
雰囲気に流されてるんだよね。昔から弟には直せって言われてるけど直らない悪癖だ。
情熱的に口説かれると、愛されたくてついその手を取ってしまう。
今度こそオレの運命かなとか、いっぱい愛してくれるのかなって期待した。
今までの恋人達は、向こうから告白してきたアルファばかりだったけど、そういう意味ではオレはちゃんと相手に惚れて付き合ったんだ。
抱き締めて貰うのは好きだったし、もっと一緒にいたいと思ったし、たくさんキスして欲しかった。どうでもいい相手にはこんな事思わないから、だからちゃんと惚れてたんだと思う。
でもこれがメンヘラちゃんの第一歩なわけだ。束縛して独占したくて気持ちが病んで落ち着かなくなって、連絡ばっかりして相手に同じだけの関心を求めてしまう。
そこからは悪循環だ。
たくさん抱き締めてくれるって言ったのに。
毎日、初めての時くらい愛を囁いて欲しいのに。
不満は募っていくばかりで、恋人に全然優しくできなくなった。
嘘でもいいからオレが一番でリリ以外いらないよって言って欲しかったんだ。
黒崎さんもスマホでの連絡先を交換をしてくれた。
これには毎日『今日、七時に行きます』とか『渡したカギ使って入ってて。冷蔵庫にケーキがあるよ』とかそんな会話をポンポンしてる。
既読無視されたことは今のところない。送ってからすぐ返事がきたり、少し後だったりもするけど、やっぱり返事がくるまでドキドキしながら待ってしまう。
これはちょっとダメな傾向だ。
検証で練習だって言うけど、これでオレがダメになってしまったらどうするんだろう。黒崎さんに執着して、黒崎さんしか見えなくなって束縛したくて泣いて我儘言ったらどうなる?
あの穏やかな顔で困ったように眉を下げて、『ごめんね、そんなつもりなかったんだけど』とか言うのかな。
なにそれ、すごく残酷な話だ。
コンビニスイーツなんかじゃ慰められないほどショックかもしれない。
仮定で考えてみただけなのに、ぎゅうっと胸が苦しくなった。これ、わりと末期だね。
メンヘラ治すためだけの関係なのになにやってんのかな。
好きになっちゃいけないヒトだって、最初から解ってたでしょ。
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