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2.『イケメン黒崎さんはグルーミングも上手い』

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 どよんと暗いコーヒーはカップの底が覗けない濃さだった。紅茶じゃないからね、当たり前だよね。匂いは嫌いじゃないのでスーッと香りをかいでみる。

 コーヒーの良い匂いがした。全然種類とか焙煎具合とか判んないけど、いい豆なのかも。

 さて、と意を決して口を付けようとしたら、スッと横から紅茶のカップが差し出された。ふわっと香るのはアールグレイかな、独特な匂いが広がっている。

「コーヒー得意じゃないんだろう。それはこちらで貰うから、きみは紅茶にしなさい」
「そ、……んなこと、ない」

 言いながらどんどん語尾が小さくなってしまったら、黒崎さんが小さく吹きだした。

「見てすぐわかったよ。何でそんなに意地を張るのかな」
「……。うち、可愛くない弟がいてさ。オレがコーヒーの酸っぱいやつ嫌いって言うと、子ども舌ってからかってくる」
「ああ、日本人には酸味のあるコーヒー苦手な人がいるみたいだね。わりと居ると思うから、それだけで子どもと言ってしまうとかなりの数になるな」

 話してるうちにサッとカップは取り替えられてしまった。

 黒崎さんは若干冷めてしまった二杯目のコーヒーを啜ってるし、オレの手元には湯気の立つ紅茶が置かれている。

「弟君もアルビノなのかな?」
「ううん、弟は普通のベータの兎獣人。両親二人も弟と同じ。だからオレはあんまり身内にアルファとかオメガがいたことないんだ。オメガにしては珍しいって言われるんだけど」

 温かい紅茶を一口飲んで、湯気の向こうの黒崎さんをチラと見上げる。

 椅子に座ってても、もの凄い座高の差を感じるんだけど、身長何センチあるのかなこの人。二メートルとかかな。

「獣人遺伝子の強いオメガは、確かにアルファの家系の突然変異として生まれてくる事が多いね。きみはかなり特殊な例だろう。お祖父さんの代とかにオメガは?」
「それがさっぱり。戸籍辿っても全然出てこなくて両親も困ってた。記録の義務づけ前に血が混ざってたとしか言い様がないよね」
「そうか、じゃあリリは奇跡の突然変異だね」

 紅茶を一口飲んで、良い匂いに包まれながら残しておいたケーキを平らげる。

 美味くて食べ終えるのがつらいけど、仕方ない。
 残したって、いつまでも食べられるわけじゃないからね。
 そうして最後の一口の至福に浸っていたら、コーヒーカップを置いた黒崎さんが少し居住まいを正した。

「……リリ、言いたくなかったら言わなくていいんだけど」
「んー?」
「先程はなんで泣いてたんだい?」
「あー……。まあ、ケーキも貰ったしいっか。フラレたの、恋人に」
「えっ……?」

 自分で聞いたクセに答えると思ってなかったのかな? 
 黒崎さんは慌てた顔してオレの方に手を伸ばして、そこでいきなり固まった。びっくりして声もでないみたいな顔して、なにそれ失礼だよ。
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