9 / 27
2.『イケメン黒崎さんはグルーミングも上手い』
②
しおりを挟むどよんと暗いコーヒーはカップの底が覗けない濃さだった。紅茶じゃないからね、当たり前だよね。匂いは嫌いじゃないのでスーッと香りをかいでみる。
コーヒーの良い匂いがした。全然種類とか焙煎具合とか判んないけど、いい豆なのかも。
さて、と意を決して口を付けようとしたら、スッと横から紅茶のカップが差し出された。ふわっと香るのはアールグレイかな、独特な匂いが広がっている。
「コーヒー得意じゃないんだろう。それはこちらで貰うから、きみは紅茶にしなさい」
「そ、……んなこと、ない」
言いながらどんどん語尾が小さくなってしまったら、黒崎さんが小さく吹きだした。
「見てすぐわかったよ。何でそんなに意地を張るのかな」
「……。うち、可愛くない弟がいてさ。オレがコーヒーの酸っぱいやつ嫌いって言うと、子ども舌ってからかってくる」
「ああ、日本人には酸味のあるコーヒー苦手な人がいるみたいだね。わりと居ると思うから、それだけで子どもと言ってしまうとかなりの数になるな」
話してるうちにサッとカップは取り替えられてしまった。
黒崎さんは若干冷めてしまった二杯目のコーヒーを啜ってるし、オレの手元には湯気の立つ紅茶が置かれている。
「弟君もアルビノなのかな?」
「ううん、弟は普通のベータの兎獣人。両親二人も弟と同じ。だからオレはあんまり身内にアルファとかオメガがいたことないんだ。オメガにしては珍しいって言われるんだけど」
温かい紅茶を一口飲んで、湯気の向こうの黒崎さんをチラと見上げる。
椅子に座ってても、もの凄い座高の差を感じるんだけど、身長何センチあるのかなこの人。二メートルとかかな。
「獣人遺伝子の強いオメガは、確かにアルファの家系の突然変異として生まれてくる事が多いね。きみはかなり特殊な例だろう。お祖父さんの代とかにオメガは?」
「それがさっぱり。戸籍辿っても全然出てこなくて両親も困ってた。記録の義務づけ前に血が混ざってたとしか言い様がないよね」
「そうか、じゃあリリは奇跡の突然変異だね」
紅茶を一口飲んで、良い匂いに包まれながら残しておいたケーキを平らげる。
美味くて食べ終えるのがつらいけど、仕方ない。
残したって、いつまでも食べられるわけじゃないからね。
そうして最後の一口の至福に浸っていたら、コーヒーカップを置いた黒崎さんが少し居住まいを正した。
「……リリ、言いたくなかったら言わなくていいんだけど」
「んー?」
「先程はなんで泣いてたんだい?」
「あー……。まあ、ケーキも貰ったしいっか。フラレたの、恋人に」
「えっ……?」
自分で聞いたクセに答えると思ってなかったのかな?
黒崎さんは慌てた顔してオレの方に手を伸ばして、そこでいきなり固まった。びっくりして声もでないみたいな顔して、なにそれ失礼だよ。
142
お気に入りに追加
164
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
【完結】あなたに撫でられたい~イケメンDomと初めてのPLAY~
金色葵
BL
創作BL
Dom/Subユニバース
自分がSubなことを受けれられない受け入れたくない受けが、イケメンDomに出会い甘やかされてメロメロになる話
短編
約13,000字予定
人物設定が「好きになったイケメンは、とてつもなくハイスペックでとんでもなくドジっ子でした」と同じですが、全く違う時間軸なのでこちらだけで読めます。
【短編】間違いを犯した僕たちは青い羽根に導かれる ーオメガバースー
cyan
BL
僕(樋口敬人)と、彼(岩倉晴臣)は両親がαというα家系に生まれた幼馴染。
僕も彼も自分がαであることを疑っていなかったし、将来は一緒に会社を盛り上げようという話をしていた。
しかし14歳のある日、僕はヒートを起こし、抗うことができなかった彼と体を重ねた。
そして二人は引き離されることになった。
そう、僕はαではなくΩだったんだ。両親に閉じ込められて過ごす日々の中で僕は青い羽根を拾った。
オメガの騎士は愛される
マメ
BL
隣国、レガラド国との長年に渡る戦に決着が着き、リノのいるリオス国は敗れてしまった。
騎士団に所属しているリノは、何度も剣を交えたことのあるレガラドの騎士団長・ユアンの希望で「彼の花嫁」となる事を要求される。
国のためになるならばと鎧を脱ぎ、ユアンに嫁いだリノだが、夫になったはずのユアンは婚礼の日を境に、数ヶ月経ってもリノの元に姿を現すことはなかった……。
つまりそれは運命
える
BL
別サイトで公開した作品です。
以下登場人物
レオル
狼獣人 α
体長(獣型) 210cm
〃 (人型) 197cm
鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪
セラ
人間 Ω
身長176cm
カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる