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1.『10人目の恋人にフラレた』
⑦
しおりを挟むあたたかい手に頬を撫でられて、顔を覗き込まれる。
カアッと頬が熱くなった。赤面してるのは熱があるせいじゃない。このアルファの気配に、オレが勝手に反応してしまってるだけだ。
落ち着け、と自身に言い聞かせてオレは黒崎さんの手を払った。
「それ子どもだからだろ。オレはもう成人してるし、そんなにヤワじゃない」
「そうか。それならよかった」
揺れがほとんどない静かなエレベーターを出ると、その階には一部屋しかなかった。
完全にやられた、これ持ち家っていうかマンション持ちだろうこの男。
カードキーで開かれたドアへ、一歩進むのに少し勇気が必要だった。ぎこちなく前に進んだオレを見て、黒崎さんは穏やかな表情のまま言った。
「きみがオメガだからって、同意もなく襲いかかったりしないよ。だから怖がらないで」
ポン、と背に手を添えられて玄関に入る。
考えていたことが見透かされて、落ち着きなく視線を彷徨わせていたら先に入った黒崎さんが白いスリッパを持ってきてくれた。
「来客なんてほとんどないから、スリッパ出てなくてごめんね。これ使って。お茶は、コーヒーと紅茶ならどっちがいいかな」
コーヒーの苦みは好きだけど酸っぱいのがイヤで飲めない。
でもそれでいつも弟に子ども舌って馬鹿にされた。
無意識に紅茶って言いそうになって、ハッと踏み留まる。
子どもっぽいって思われたらどうしようと、焦って口をついて出たのは『コーヒーがいい』だった。
ぱち、と大きな黒い目が瞬いた。
恐る恐る見上げていると、にこっと笑った黒崎さんは頷いて準備しに行ってしまった。
オレは白いスリッパに足を引っかけたまま、その場で膝を抱えて丸くなる。
いつも虚勢張って失敗するのに今日もなにやってんだろ。
初対面の相手にどう思われようと、いいじゃん。なに見栄張ってんの。
「……ばか」
後悔先に立たずっていう。オレはこの言葉を散々頭の中で反芻しているのに、学ばないんだなホント。
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