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1.『10人目の恋人にフラレた』

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 少しエロい方面に匂わせるような事言うと、すぐ涎たらして誘ってくるのが大型獣人の特徴なんだ。何人かこうやってつり上げたので実証済です。

 でもこの人は、理性が結構強いらしいな。引っかからないみたい。まあ少しでも動揺を引き出せたからいいか、と思ってカゴを手に立ち上がる。

「お菓子ありがと、オニーサン」

 そのままレジに向かって、会計を済ませた。雑多なお菓子はビニール袋に入れてもらって紙袋と別にぶら下げる。コンビニを出たら、冷たい風が吹き付けてきてくしゃみが出た。袖は涙でぐしょ濡れだし、怒り狂ってテキトーな格好してアパートから走ってきたから寒い。




 大学進学してから始まった一人暮らしを満喫しているオレは、このコンビニから歩いて五分のところに住んでいた。過保護で過干渉な優しい両親とクソ生意気な弟のいない生活は、自由だけどこういう時話す相手がいなくてちょっと寂しい。

 そういえばいつの間にか涙止まってたな、とごしごし目元を擦ってたら、後ろからふわっと柔らかいマフラーが被せられた。オレの特徴的な垂れ耳と寒い首元を隠すように、肌触りの良い黒いマフラーが巻かれている。

「なに」
「……寒そうで、つい。ごめんね驚いたかな」

 仰向いて見上げたら、後ろでさっきのスーツのアルファが困った顔してオレを見つめていた。腰を屈めているから見下ろされてる感は薄いけど、このマフラーは意味がわからない。

 くれるの? こんな高そうなカシミヤっぽいマフラー?

「良ければうちのマンションがすぐそこなんだ。ケーキを食べる間に服を乾かしたり、お茶でも飲んで暖まっていかないか」
「……」

 へぇー、そういう誘い方するんだ。思ったよりも野暮ったくてスマートさのない感じだった。

 兎獣人のオメガを部屋に上げて、何もしないでケーキ食べて帰すなんてないでしょ、普通。いつもだったらこんな誘い、冗談じゃないって突っぱねるんだけど。今日はなんか、疲れちゃったし寒いしマフラーはあったかいし、ケーキは早く食べたいし。

 結局人肌恋しかったんだな、オレは。

「……行く」

 パッ、と嬉しそうに笑った巨漢アルファの、黒い瞳を見ていてやっと判った。

 この人、熊獣人だ。しかも純日本産の中型種じゃなく、外来種の雰囲気がある。
 だって身体の厚みがすごいもん。オレが抱き締めようとして手伸ばしても回り切らなそう。なにそのパンパンの胸筋は。

 オレ、大型種とばっかり付き合ってきたから気配には敏感なんだよね。

 熊獣人さんは、オレが手にしていたコンビニの袋を『持つよ』とさり気なく奪って、ゆっくり先を歩き始めた。その後ろをついて歩きながらふと考える。

 これだけ身体差があれば、相手とオレの歩調が合うはずない。それなのに置いて行かれる感じも、待たれてる感じもないなんて凄いとしか言いようがなかった。
 隠すにしてもスキルが高すぎる。




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