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13.魔女たちの夜明け②
しおりを挟むシャナはおっかなびっくり触れてくるアズレトに焦れて、自分から大きな胸板に抱きついていった。ぎゅう、と手を背に伸ばすが全然長さが足りず、腕が回りきらない。仕方なく首の後ろへ手を回し、ぶら下がるようにぎゅっと抱きついた。
「……アズレト様は気付いたか解りませんが。大魔女は私達『魔女』の文献の中で常に『ヴィーラ』という名で登場するんです」
「そうなのですか」
「戦いの最中、ヴィーラは怪我をしませんでしたか? 一度戦線を離脱しても何事もなかったかのように戻ってきたことはありませんでしたか。魔女は神官のような治癒魔法は使うことができません。奇跡のように瞬時に傷を治す薬なども、ありません」
「……そうですね」
「大魔女ヴィーラは、千年前にとある禁呪を使いました。『他人の命を吸い上げ自分のものにする』という呪いです。これを使い世界中に散らばった囚われの『森の外の魔女』と、その子ども達を葬りました。ヴィーラに残されたのは数百人分の命だったんです。贖罪のように生きて、ヴィーラは私たち森の魔女を長い間守ってくれました」
アズレトはぎゅっとシャナの背を抱き寄せて、柔らかな黒髪に顔を埋めた。
「何度殺されても、ヴィーラは生き返るそうです。一人分の生を終えたらまた次の一人、また次の一人分、と自分が奪った魔女達の時間を生き続ける。アズレト様の戦いに自ら着いていったのは、あの力があるからです。使い切ってしまいたかったんでしょうね。魔女の未来を守るために、命を使い果たしたら本望だと」
「……しかし大魔女殿はまだ」
「生きてます。でもあれが、今回が最後ではないかと本人も言ってました。これで最後の生を謳歌できると笑ってたんですよ。いつもの、ヴィーラの笑い方で」
ふふ、と笑ってシャナはアズレトの首筋に口付けた。ちゅ、ちゅ、と柔らかい唇を押しつけて音を立てると、皮膚が薄赤く染まる。鬱血の跡ではなく、赤面しているのが解ってまたシャナは笑った。
「しましょう、アズレト様」
「し、しかしお腹の子が……」
「大丈夫。大人しくお願いしますって言ったでしょう?……それに」
「それに?」
「『子作り』でなく抱き合うのは、これが初めてなんです。どうか愛してください、アズレト様」
「――シャナ!」
照れたように頬を染めたシャナにそう囁かれて、アズレトに我慢など出来るわけがなかった。空になりかけた魔力も充分に満たされて、身体に力の戻ってきたアズレトはシャナの小さな身体に覆い被さった。ちゅ、と首筋に口付けを返し、そのまま口で銜えて胸のリボンを解く。
今にも噛み付いてきそうなギラギラとしたブルーグレーの瞳をうっとり見つめながら、シャナは熱い腕に身を任せた。
久しぶりに触れるからと、アズレトは念入りにシャナの中を慣らした。舌で溢れる蜜をすくい、とろとろに解れるまで可愛がる。
シャナは泣きながら何度も絶頂し、自身の愛液でアズレトの口元が濡れているのを見て赤面した。しまいには弄られ過ぎたそこが熟れきってもまだ挿入して貰えず、泣きながらねだる。
「アズレト様、……い、じわるっ」
「泣かないでください、シャナ。心配なんです」
「も、うっ……だいじょ、う、ぶ、だからっ」
蕩けた穴にアズレトの指が三本入るようになってから、ようやくアズレトは猛った自身をそこに押し当てた。期待にヒクヒクと震えるそこに、ズッと太い先端が埋まっていく。
「ぁっ、あっ、あぁっ……――ッ!!」
「くっ……シャナ、……シャナ」
先端が埋まったあたりで、シャナの身体が大きく震えて絶頂した。きゅうっと中が締め付けられ、アズレトが息を飲む。
は、は、と短い呼吸が二人分、重なり合うように響いていた。ギシ、と小さなベッドが僅かに軋んだ。濡れた音を立てて奥へ奥へと進んでいくアズレトのモノがシャナの中に収まった時、二人は息を乱したまま額を重ねて笑った。
格子の枠の窓から、長い月影がベッドに掛っている。
ギ、ギ、と僅かに軋むベッドの中でお互いを貪りながら、シャナは蕩けた甘い声を上げてアズレトに縋り付く。抱き留める逞しい腕には、まだ生々しい戦の傷痕が幾つも残っていたが、しっかりとシャナを受け止めていた。
もっと、と望む言葉はどちらが発したのか解らないほどだった。求め合う欲には際限がない。
「ぁっ、あぁっ、アズ、レトさまっ……ぁああっ!!」
何度絶頂しても物足りず、水差しから水を飲んだりシャナが枕元から取った干しブドウを食べたりしながら、くすくすと笑い合って交わり続ける。
シャナの中はもうずっとアズレト専用で、形もなにもすべてそのように躾けられてしまったかのようだった。
ぴったりと寄り添うと、隙間も無いくらいに抱き合える。
月明かりに影を作り口づけた二人は、長く離れず、そのままで幸福を噛み締めていた。
‡
帝国の大陸統一から二ヶ月後、戦の英雄であるアズレト・グランメルはその褒賞と共に皇女を娶った。
皇帝の養女だった彼女は国民に絶大なる人気を持つ皇女で、二人の婚姻は帝国中を祝いの花で埋め尽くした。
王都から遠い村々でも祝いの鐘が鳴らされ、花が撒かれ、どこの飲食店も酒を振る舞って祝いの声を上げた。
皇帝リカルドは、大陸統一を成し遂げた後あまりに電光石火なその手口から、冷徹な支配者だと噂されていた。しかし各国は帝国の支配下に入ってから経済的にもより発展していった。ひとつの国なら関税も無く、物が多く行き交い、商人は濡れ手に粟というような利益を得た。
そして皇帝が溺愛する皇女は農業に興味のある変わった性格で、様々な作物に適した肥料を考案しそれを無償で農民達に配った。
もちろんその最初の恩恵を受けたのは、元迷いの森があった小さな村だった。特産品のルンデは品種改良がされ、近くの街や王都にまで運べる有名な果物となっていく。丸干し、ジャム、お菓子に加工した物なども広く出回った。そうして潤った小さな村の様子を知った人々は、こぞって皇女の考案した肥料を欲しがった。
国中の作物の収穫量が増え、小麦も豊かに実り、稲穂が一面に広がる大地で人々は毎日皇女に感謝した。
大魔女ヴィーラはシャナの婚姻の後、森の魔女たちに行く末を選ばせた。
まだ結界に籠もりたいならそれでも良い。しかし外で暮らすなら支援をする。外でなら夫を娶り、普通の母として子を育てる事も可能だろう。もう【ヴァルプルギスの夜】は火を焚き舞い踊る祭としてしか開催しない。男は自分の好きな相手を、いつでも自由に選ぶと良い、と。
すると森の魔女のほうから、一人手を上げる者がいた。
行方不明の息子を探しに行きたい。どうか魔女の生活に縛られず、あの子と外で生きたいと。
その願いを聞いたヴィーラは早速その魔女の元に転移し彼女を王宮へ連れ帰った。
五年の歳月を経て再び出会った魔女とその息子は、再会を喜び合って抱き合い、共に皇女に仕えた。
十月十日を待たずして忙しくなく生まれてきたシャナとアズレトの初めての子は、艶やかな黒髪にブルーグレーの瞳を持った男児だったという。
【ヴァルプルギスの夜が明けたら、了】
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