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一章
【深淵】・1
しおりを挟むあの『深淵の大穴』に行った日から、魔王は誰にも会わず部屋にひきこもった。
魔王は気がついたら自室のベッドにいて混乱したが、その日あったことを反芻してみてさらにパニックになり小さく悲鳴をあげた。
それからは、ルカさえ部屋に入れず、扉には魔術による鍵をかけてしまった。
食事は、声をかけられ部屋の外に置かれたが手がつけられることはない。
流石に魔王であっても衰弱してしまうだろうと、魔王宮の使用人達は皆心配していた。
「……ッ……う、……」
部屋の中の魔王は、決して延々3日も4日も混乱していたわけではない。
起きたことに関しては1日もあれば飲み込むことが出来たが、身体の方がいうことをきかなかった。
人間達に向けて、殺気の籠った冷たい目で話すカーティス。それに勇者の武器である双剣、それらは身体の奥底に眠っていた魔王のトラウマを呼び起こした。
──あの双剣は、前世で魔王の腹に聖痕を刻んだ忌まわしい武器だった。
聖痕とは、本来なら聖人に刻まれる神々の印だ。
しかし勇者は神から授かった武器を使ってこれを刻むことが出来る。しかも魔族に刻めばその傷痕は癒えずに血を流し続け、その魔族の身体を苛み続けた。
……どうして、前世の身体はもうないのに。死に戻りで全て元に戻ったはずじゃないのか。
魔王はじくじくと熱くなる腹を抱えたままベッドで身体を丸めていた。
確実に、ここに聖痕があるというのが感じられる。しかし目で見ても全くわからなかった。
考えられるのは、勇者の聖痕が魂に刻まれる焼印のようなものだという仮説だ。
聖痕など刻まれるのは前世が初めてだったので、詳しいことはわからない。これがどんな効果がありどういう性質のものなのか、カーティスは教えてくれなかった。ただ……。
『お前を2度と逃さない。これは首輪だ』
暗い目をして魔王を犯したカーティスは、性交の痛みに泣きじゃくり行為を嫌がった魔王にこの聖痕を刻んだ。
その後から魔王は勇者との行為に気が狂うほどの快感を感じ始めた。
胎が疼き、カーティスの陵辱を待ち望み、太い性器を根元まで捩じ込まれると甘えた嬌声を上げて絶頂する。
こんなのは魔王の意志ではなかった。乱暴な行為に快楽を感じる度、深い絶望感が押し寄せてくる。身体だけでなく精神まで侵された魔王は、生きる気力を失っていった。
(だって、カーティスは大事に育てた私の息子で、強く賢く立派に育ったとても誇らしい存在だったのに。私はそのカーティスに肉欲を抱いている。彼の太くて長いモノで貫いて欲しくて、筋肉質な背を抱き締めて身を委ねてしまいたくて、そんな、そんなこと許されるはずないのに!)
こんな感情はあり得ない、嘘だ、この聖痕のせいだ、と毎日絶望に泣きながらカーティスに抱かれた日々を思い出す。
今世、死に戻ってからは、この激情に罪悪感を覚えなるべく思い出さないように記憶に鍵をかけた。意識の奥に押し込めて、出てこないようにしたのだ。
──それが、不意に目覚めた。
ベッドから起きられない魔王の下肢は吐き出した精液で濡れ、アナルの中までしっとりと潤っていた。そこがヒクヒクと疼いてたまらないのを、泣きながら自身の指を押し込んで慰める。
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