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一章
元老院・1
しおりを挟む「魔王様、元老院より謁見願いが届いております。……白銀狼の毛皮のコートと共に」
「……それはまた、豪勢だね」
ソファにゆったりと座った魔王は、頬杖を突きながらカーティスに髪を梳かれている最中だった。
気持ち良すぎて若干寝入りそうになっていたところで、ルカの声がして目が覚めた。
放って置かれたら確実に寝落ちていただろう。カーティスは髪の手入れスキルまで高いらしい。
……いや、そんなスキルあるのかな。ない気がするなあ。もしかして動物の世話スキルでも発動してるのかな。
そう、白銀狼といえば、前世で魔王のハラワタと引き換えに魔獣を狩ってきてくれた種族だ。毛皮のコートにされてしまったのは可哀想だが、凄く美しい毛並みをしていたのでそれには興味がある。
「コートはもう来てるの?」
「はい。魔王様には是非これをお召し頂き、謁見をお願いしたいとのことで」
「はぁ……そう……」
早く触ってみたかったのでいいのだが、そう言われると着ていきたくないなあという気持ちが先立つ。
だって、ちょっと気持ち悪いだろう。謁見の時の衣装まで指定されたらさ。
ただでさえ、今世ではハアハアしながら股間膨らませてるところしか見た事無い人達なのに。
しかしそんな気持ちはルカが手にした長いコートを目にした途端、吹き飛んでしまった。
純白でふわふわとした冬毛は月の光をちりばめたように美しく、狼の毛にしては触れると密で柔らかい。表は白銀狼、裏は白銀の眷属である白灰兎を使っているようだ。
こちらも魔獣なのでこの面積の毛皮が作れるほど狩るのは非常に難しい。
コート丈は引きずるほど長く、紅い絨毯の上を引いて歩いたら、まさに豪華絢爛といった様子だろうと想像できた。
これはとんでもない出資をしてくれたものである。それで代わりに何を要求されるのか、と苦笑しつつも魔王はルカに背を向けてコートを肩にかけた。
「……美しいです、アーク様」
「そうだろう、白銀狼といえば本当に貴重で美しい魔獣だからねぇ」
ぽつりと聞こえたカーティスの呟きに、魔王は振り返って笑った。
白銀狼が生きているところを見た事あるかい、と聞いたらブンブンと首を横に振っていた。
そりゃあ5歳なのだから当たり前か。逆に雪山で彼らを見た事があったら、カーティスは生きてはいないだろう。
「さて、謁見室に行こうかな」
「お召し替えは」
「コートの下はなんでもいいんだろう?このままで行くよ。……あ、カーティス、髪をありがとう。今日はもういいよ、また明日」
少し時間がかかるからね、と目を細めて微笑むとカーティスは無言で俯いた。『はい』と小さな声が聞こえたのを確認して、魔王は部屋を出た。
さっきまで元気に学園の話をしていたのに、どうかしたんだろうか。後でルカに屋敷に帰った後の彼の様子を聞いておこう。
重さのある毛皮のコートを絨毯の上で引きずると、何だか裾が汚れてしまいそうで、これはこういう使い方でいいのだろうかと魔王はちょっと悩んだ。
でも裾の長さからして、空に浮く以外こうするしかないのだ。
金持ちの考えることは判らないし、貴族の見栄って難しい。
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