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一章
魔王と闇魔石・2
しおりを挟む前世では、人間として暮らしている間は魔法は使わないと決めていた。
でもこれならセーフじゃないだろうか?核を舐めてるだけで身を切られてるわけでもないし。
魔法も使ってないよ。練り込んでるだけで、使ってない。
「ああ、でもどちらにしても核が用意出来なかったかな。ルカ、この核って何で出来てるの?」
「山から掘り出した軽石を磨いてあります。真円の球を作るのもそれなりに技術がいるんですよ。……で?魔王様、前世で、金が必要な時魔石作り以外になにをされたんです?」
ぐっ、と言葉に詰まって魔王はソファにひっくり返った。もう、今世のルカには隠し事ができる気がしない。
そもそも、勇者を引き取ってもらってから理由を言えと詰め寄られたし、ちょっともてなしに出されたワイン一杯で泥酔した魔王は、洗いざらい99回の死に戻りの話までしてしまった。
最初からルカのことを知っていたのはそのためだと説明したら納得していた。
いや、納得早いわ、そんなに簡単でいいの?
……いちおう、前世の死に際や死因については誤魔化す理性くらいのこっていた。
魔王は戯れに勇者を育て可愛がったが、勇者は王族に陥れられて魔王を憎み、戦争になったのが恐くて魔王は早々に自殺した。おおまかにそんな内容にしておいた。
ざっと話した荒唐無稽な事柄を、ルカはあっさりと受け入れてしまった。まず正気を疑われると思っていたのに『そうですか』の一言で済まされてしまった。
クールな顔のルカもカッコイイ。魔王は本当にルカの顔が好きだ。
「か、狩りをして毛皮を売り……ました」
美形に詰め寄られるととても迫力がある。
つい敬語みたいになってしまう。魔王なのに。
魔王は自分の容姿のことは棚に上げ、ルカを恐々見つめながら答えた。
そんな魔王の様子にルカはびしりと眉間に皺を寄せ、両手を伸ばして魔王の身体を引き起こした。ヒッ、と身体を竦める魔王の首元にルカの手が伸び、しわくちゃになったリボンタイをきっちり結び直す。
「その類い稀なく美しい顔で!!美声で!情けない顔をしないで頂きたい!!」
「はひっ」
「それも禁止!!」
まったく顔だけは良いんだから、とため息をつかれて魔王は首を傾げた。どうやらルカに容姿を褒められているようだ。
しかも美声だって。なにそれ嬉しい。100回目にしてそんなに褒められる機会に恵まれるとは思わなかった。
「美声?」
「ええこの上なく、穏やかで耳に心地良い声ですよ。……情けない悲鳴で裏返っていなければね」
「うえぇぇ」
「やめなさい。あとその甘ったれた口調も……魔王の威厳が……」
「でもねぇ、ルカ。私はあんまり威厳とか、頑張りたくないから、こういうので我慢してもらいたいなあ……」
じっと見つめると、ルカは深いため息をついて『他の者の前では出来るだけ威厳を保ってください』と妥協してくれた。
うんうん、多少なら頑張ってみてもいいよ。四六時中だと疲れてしまうけどね。
「さあ、闇魔石の買取の人間が来ますよ。支度してください」
「はぁい」
「……あと、前世の資金集めの方法についてはまた後でしっかり問い質しますので、覚悟しておきなさい」
「うえぇぇぇぇ……」
威厳もなにもあったものじゃない。
魔王は服がしわくちゃになるのも構わずソファの上で頭を抱えた。
‡
人間の商人は、台に並べられた大小様々な闇魔石を見て目を輝かせた。
すぐに値段交渉となり、こちらも魔王としての身分は明らかにしていたので結構色をつけてくれたようだ。
また宜しくお願いします、と笑顔で言われて魔王もついにっこり微笑んでしまった。
バタン、と部屋の中にいた魔族の騎士が床に倒れた。
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