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一章
魔王と闇魔石・1
しおりを挟む「ルカ。カーティスはどうしてる?」
「……その質問、今日だけで5回目ですが?」
ため息混じりにルカが答える。今日もキラッキラな銀髪を濃紺のリボンでまとめ、同色の服がその美しさを際立たせ、とっても目の保養だ。
金の瞳が若干うんざりした表情を見せているが、それでも魔王はルカの顔を見ているとくふくふと笑ってしまうほど嬉しい。
魔王の生きた記憶の中で、ルカといた時間が一番安全で安心だったので。
――いや、だって。あんな小さな子を屋敷に置いてきたというから気になって。
ついカーティスの様子をルカに聞いてしまうのは、彼が有用な魔法を使えるからだ。
ルカは魔王の側近になってからすぐに爵位を継いで正式にリヴォフ伯爵となった。
そう、当主だ。家の中の事は離れていても把握できるらしく、遠見の魔法の存在を教えてくれた。制約がありなんでも見えるわけではないが、自分の屋敷内には遠見のためのアンカーが設置してあるらしく、屋敷内でのことは全てルカに筒抜けだ。
こっそり勇者をいじめようとする輩がいたらすぐに気付いてくれるだろう。
今も律儀に屋敷の様子を遠見してくれて、『カーティスは昼寝中です』と教えてくれた。
本当によく出来た有能な部下だなあ。
魔王はしみじみしながらソファの上で身体を起こした。ルカがすかさずサッと布張りの台を差し出すので、そこにコロンと小さな魔石を落とす。
黒くて錆色っぽい玉が転がり、光の加減でそこに虹色の輝きが走った。
これは闇魔石という、冒険者から王侯貴族にまで広く求められている特殊アイテムだ。
核の上に、闇魔法を層にして幾重にも巻き付けた宝珠である。闇魔法を吸収し無効化する作用をもち、魔獣避けにもなるため小さな玉は冒険者に人気だった。もちろん、内部に豊富な魔力が含まれるため普通の魔石と同じ使い方もできる。
大きなものは、その美しい虹色の輝きゆえか宝石のように加工されることが多い。ペンダントやピアスに加工され、社交界の貴婦人達を騒がせているという。
闇魔石は魔族の領域でしか採れない特別なものだ。その成り立ちは人間の間では謎とされている。しかし魔族の中では知らない者はいないほど、有名な話だった。
闇魔石は、核となる白い球を魔族が『粘膜』に取り込み、闇魔法を練り込んで育てる。真珠の『貝』の役割を魔族がするようなものだ。
しかし、相当な魔力の持ち主でないと、きちんと厚く巻いた闇魔石は造り出せない。へこみがあったり、艶やかな虹色が出なかったり、巻きが薄かったりする。
しかしランクの低い物でもそれなりに高値がつくので、魔族の中では人間の通貨を手に入れたい時に、女子供が内職で造ったりする。狩りが出来ない者の貴重な収入源になっているわけだ。
粘膜、といってもいかがわしいやり方ばかりではない。口の中でもいい。魔力の強い魔王なら、飴玉のように小さな核を口の中で数分ねぶっているだけで闇魔石が出来てしまう。
先程は舐めていた魔石を口から出して、そっと台の上に乗せたのだ。ちょっときたなくて恥ずかしいが、この部屋には魔王とルカしかいないので問題ない。
「ルカ。これ、いくらで売れるのかな」
「虹色層の巻き、テリ、艶など全て最上級ランクがつきますよ。普通の魔族だと一年は巻かなきゃここまでいきません。アンタ自分の魔力なめてないですか?」
「あー……前世で知りたかったーー!」
じたばたと暴れた魔王はため息をついて項垂れた。
いままでの生ではとにかく生き延びて先に進もうと必死になっていたので、闇魔石に目を向けている暇などなかった。
そもそも存在すら知らなかったのである。魔力の豊富な魔王が魔石を補助に使うことなどほぼあり得なかったので。
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