最強魔王の死に戻り100回目！〜そろそろ生きるの諦めていいですか？〜

一章

魔王の過去・4

　

　――魔王とは切っても切れない間柄である勇者と、今までになく接近したのが前世だった。


　今代の勇者は、名をカーティスという。
　光に透けるはちみつ色の髪に若草色の瞳、鍛え上げられた身体と端正な顔立ち。太陽の紋章がこれ以上似合う者はいないだろうと言われていた。

　もちろん民衆からの人気も高く、王も彼を気に入り王族へと入るよう勧めたとか。

　カーティスは戦争孤児で、貧しい町の教会で育てられ、5歳になると山に捨てられた。
　うなじにあるのが勇者の紋章だとわかり、それまで彼を虐げていた教会関係者が報復を恐れたからだった。

　勇者を見つけた者には王から褒賞が与えられるが、逆にそれと知らず虐待などした者には重い刑罰が定められている。

　両手両足を切り落とし、蓑虫のような状態で城門に吊るされるのだ。これは見せしめの意味もあるため、特に厳しくされていた。
　なにがなんでも勇者を無事に迎え入れたい国ばかりだったのだ。

　人間同士の戦争は終わる気配がなく、どの国でも貴重な戦力を待ち望んでいた。『勇者』は本来なら人間の争いに使われる存在ではないはずだが、人々は英雄が瞬く間に戦争を解決してくれると思っていた。

　カーティスの親である先代の勇者は、戦争で命を落としたらしい。
　最後の出陣の日、その時にはもう紋章を息子に継承していたはずなので、その男はただの人だった。まさに死にに行ったようなものだ。

　息子と妻が逃げ延びるまでの時間稼ぎでもしたかったのか。
　最後に勇者が戦いに参加してから十数年、王家は血眼になって勇者の子どもを探していたが、いつまでも見つからなかった。


　──当たり前だ、見つかるわけがない。まさか魔族に拾われ、魔王に育てられているなんて誰も思わないだろう。


　魔王が養い親となって、それはもう手塩に掛けて可愛がって育てた99回目の生の勇者、カーティス。何度も死に戻りをしている魔王でも子育ては初めてだったのだが、カーティスは幼い頃から頭がよく、手先も器用で手のかからない子供だった。

　これだけ聡明だから報復を恐れて捨てられたのだろうと魔王は思った。
　誰が何をしたのか、たとえキツく口止めしようともハキハキ喋り出すに違いない。しかも容姿は非常に可愛らしく、これで虐待されていたなど人間なら同情せずにはいられないだろう。

　魔王だってそうだ。手ずからカーティスの薄汚れた身体を洗ってやると、彼は天使のように輝いて見えた。
　いや、事実カーティスは神々の加護を受けた勇者なので、天の使いとも言えるが。

　……そんなわけで、魔王は魔王宮を出てカーティスと暮らし始めた。

　その頃側近になったばかりのルカには散々文句を言われたが、そちらは優秀な部下のおかげで何とかなった。
　二人は人里から少し離れた山の中に家を構え、そこで家族として十数年を共に過ごした。