最強魔王の死に戻り100回目!〜そろそろ生きるの諦めていいですか?〜

天城

文字の大きさ
上 下
1 / 42
一章

再会の魔王と勇者・1

しおりを挟む



「魔王様!今代の勇者の卵を捕縛して参りました!」

 高らかに叫ぶ声が、謁見室の広い空間に響き渡った。

 玉座に頬杖をついて座ったまま、魔王は無言で彼らを見下ろす。その目はだいぶ光を失い、生気も無く、非常に『だらだら』とした雰囲気だったが、周囲の者はこの魔王のやる気の無さにほとんど気付いていなかった。

 対して、はりきって頬を紅潮させくだんの報告をしているのは、宰相の息子だ。

 魔族としてはまだ年若く、血気盛んな年頃といえる。遠征先で勇者の卵とやらを捕まえて、その場で殺さなかっただけましだろう。
 魔王は頭痛がするこめかみを指で押さえ、ルビーのように赤い目をゆっくりと細めた。

「勇者の紋章もここにございます!間違いないかと!」

 魔族の男は縄を掛けられた幼子を引き倒し、柔らかそうな髪を押し上げると細いうなじを露わにする。そこには間違いなく、勇者のしるしとされる太陽の紋章が刻まれていた。

 こらこら小さい子になんて無体なことをするんだ。頭に血がのぼるだろうが。

 つい注意しそうになって、魔王は必死に踏み留まった。
 口を開けば威厳がない、覇気がない、と言われる魔王だ。ここは沈黙しているのが正解だろう。黙っていれば見目はとんでもなく良いと言われるので。

 そんな紋章など見せられなくとも、魔王はこの幼子が勇者であることを知っていた。

 この報告を聞かされた回数は、もう両手の指の数を超えている。数えるのも億劫なほど聞いた。多少の誤差はあれど、毎回この時この年頃で、勇者は魔王の元を訪れることになっているのだ。


 ――実はこの魔王、この生で死に戻り100回目を迎えている。この先にも、なにが起こるか何通りもの未来を知っていた。


 ……さて、どうしようか。

 魔王は考えた。今回は勇者に対して、自身では特に何にもする気がない。
 むしろしちゃいけない気がする。部下の誰かに押しつけて育てて貰おうか。出来るだけ信用できるやつに頼みたい。

 自称・自堕落魔王は、玉座の床に着くほどの長い黒髪をくるりと指に絡めて思案する。
 この勇者が確実に、そして安全に成人するまで育つ環境が必要だ。

 ただし、自分の労力はなるべく払わずに実現したい。なにせ、人生におけるやる気というものがいまの魔王には欠如しているので。



 いままでに99回の死を受け入れてきた魔王である。

 たかが99回、されど100回目。
 魔族の寿命は本来長いので、一回の生が何百年という事もあった。

 本当に気が遠くなるような時間、魔王は死に戻り、生をやりなおしてきたのだ。

 途中で終わる生の大半は、あらゆる方法で殺されていた。
 魔王にとって暗殺は日常茶飯事だった。毒殺、刺殺、落下による墜死やら、すぐ隣から塔が倒れてきて圧死、聖なる火での焼死、魔魚の潜む湖に落されて水死、先代の墓参りで巨大な墓に閉じ込められて窒息死、もうソレ暗殺とか言えないよな?というような大胆な殺し方もあった。

 その99回の死の理由のほとんどが、魔族によるものだ。
 魔王というと魔族の頂点に立つ王のように見えるがとんでもない。

 すげ替えの効くシステムのせいでとんでもなく舐められている。
 気に入らなければチェンジ、とでも言うように殺せばいいと思われているのか。

 魔族の中で古参と言われる元老院の老いぼれどもは、化かし合い上手な狸や狐の集まりであった。
 まあ、それはいい。99回の生の中では、現状をどうにかしようと奔走した事もあったが、疲れただけで何の意味もなかったので、もういいんだ。
 
 今生では、魔王はもうなにもしない。
 死ぬのが運命なら、努力するのも辛いのも、もう無駄だと分かったし充分苦渋を味わったから。今回くらいは自由に、死ぬまで好きなことをして暮らしたい。


 魔王の心がこんな風に折れる理由となったのが、主に99回目の死だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...