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閑話②【つむぎ】-03
しおりを挟む「どのくらいの枚数書いたか覚えていますか?」
「……。たくさん、……」
空を見つめたまま考えるような表情を浮かべたハル様は、そう言って手元の紙を見下ろした。
「いつか里をぶっこわす。たくさんの妖力がいるからここに入れておく。かあさまがそう言ってたくさん作った、爆ぜる妖術のかたまりだ」
「爆ぜる……でしょうねぇ、これだけ攻撃的な札は初めてみました……」
槐様は額を押えてため息をつき、ハル様には『これは暫く書かないようにお願いします』と優しくお話ししていた。
実は私達が平静を保てていたのは奇跡だった。
あの術が発動していたらこの碧の家が、寺の結界ごと吹き飛んでいたはずだ。
それほどびっしりと張り巡らされた札だった。真ん中には単純な爆発を意味する呪が書かれ、その周辺をとりまくのが限界まで小さく書き込まれた『威力拡大』の呪だ。
普通、書き込む紙の限界があるため威力拡大には制限がかかる。
また拡大し過ぎると札そのものが発動前に耐えきれず破裂したりもするのだ。
しかしそれを乗り越え、紙が生きるギリギリのところまで書き込まれたその札は……殺戮兵器、と言っても過言ではないほど恐ろしいものだった。
「槐様……」
「つむぎ、昼食の準備をお願いします」
「は、はい」
「ハル様、少し早いですが昼食にいたしましょう。甘く煮た栗があるそうですよ」
「栗、好き。槐にもあげるね」
「ええ、ありがとうございます」
にこにこといつも通り微笑む槐様の、首筋に細く髪が張り付いている。
冷や汗が止まらないのだろう、私も同じような状態になっていた。
ハル様のあやうさは理解しているつもりだった。
しかし予想以上にその力は人間の脅威となり得るのだと判った。
ああ、ハル様の能力が覚醒する前に作られた未発動の札が、妖魔の里には山と積まれて隠されているのだ。
それを発動させに行っただけで、全てが消し炭になるのではないか?
厨房に入り、すぐ昼食の用意をするように伝えた。慌ただしく動き出す皆を手伝い、私も膳に皿を並べた。
昼の膳には、きぬからの差し入れの栗きんとんを盛り付けることになっている。
『ハル様の好物ですのでこちらは全部盛り付けてくださいね。つむぎの分はこちらです』
相変わらず謎な行動ばかりするきぬは、私にも栗きんとんを別に詰めてくれたようだった。
栗きんとんは別に私の好物でもなんでもない。
そしてきぬから手料理を貰うような関係でもないのだが。
『ハル様はご自分の好物が、他の者にも好まれたと知るととてもお喜びになりますから』
ずい、と強引に押しつけられた。
食わねば殺されるのかと思うほどの気迫だった。たかが料理だろうと思うのだが、きぬはそれでも本気だったようだ。
しかし折角わけてくれた栗きんとんだったが、昼食中に隣室で控えていたところハル様に呼ばれてご相伴にあずかってしまった。
きぬの言っていた事を思い出し、しっかりとハル様の目を見つめて答える。
「とても美味でございました。ハル様、こちらの料理は私も好物で――」
パアッと嬉しそうな顔をしたハル様が、自分も食べたいけどでもつむぎにあげる、と耳としっぽをプルプルさせながら言ってきたのには参ってしまった。
きぬから自分ももらったと話し、ハル様はお気になさらずご自分の分をお召し上がりくださいとお願いする。
ホッとしたように笑ったハル様は、嬉しそうに頬を膨らませてきぬの栗きんとんを召し上がっていた。
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感想コメントありがとうございます!
他作品から別のも読んで頂けるなんて嬉しすぎます~重ね重ねありがとうございます!!
里!潰したいですね!
和風BLで私も気に入っている作品なのでまた更新していきたいです~。
silverleafです。
文章が自然でとても読みやすい作品だと思いました。冬青がハイスペックそうで実はだめだめな所に、面白味を感じます。幼いイメージのハルがこれから自分の力を受け入れて、どう成長して行くのか楽しみです。
感想いただきありがとうございました。
読みやすい文章を心がけているので、そう言って頂けてとても嬉しいです。物語がひと段落するまで返信を控えていたもので、遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
続きもどうぞよろしくお願いします。