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八話-01

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 阿闍梨あじゃり様、とエンジュが呼ばれているのを聞いた。
 アジャリというのは、確かとても偉くてつよい僧のことだ。妖魔から見ると、単体で対峙したら即逃げろ、見つけたら村の精鋭を十人は連れて倒しに行け、とそんな風に言われていた。
 まさに妖魔の天敵といえる。

 それが、阿闍梨だ。エンジュはこの寺に所属する阿闍梨様らしい。

「今日はいなりを用意したそうですよ。食べられますか、ハル様」
「うん」
「中の具が違うようです、こちらもどうぞ」
「……おいひい」
「それは良うございました。作った者にも伝えておきましょう」

 オレ達の前には膳が三つ並んでいる。そこには所狭しと料理が乗せられていた。

 そしてオレは何故かエンジュの膝の上に座り、後ろから箸であれこれと摘まんで貰って口まで運ばれていた。手を伸ばすのは、欲しいモノを指すときだけだ。

 よく判らない食べ物は、何かと聞いて口にいれてみる。

 甘かったりしょっぱかったり、一口囓って辛かったりすると残りはエンジュが食べてくれた。
 この方が効率が良いので、と押し切られてしまってこうなったが。

 これはなんなんだ?良いのか、これで。

「もう宜しいのですか」
「お腹はち切れそう」
「この薄い腹で……そんな風には見えませんが。まあ、あまり急に詰め込んでもいけませんからね」

 さわさわとお腹のあたりを探られて、『んっ』と小さく声が漏れてしまった。はぁ、と吐息で熱を逃して、そっぽを向く。膳が片付けられている間、エンジュの手は優しくオレの腹を撫で擦っていた。

 給仕の僧達が全て引いていくと、後ろからぎゅっと抱き締められた。

 胡座を解いたエンジュの足が絡み、自然と足が開かれてしまう。裾が太腿まで捲れ上がると、ひょいと持ち上げられ向かい合わせにされた。エンジュの太い胴回りを跨ぐようにして密着する。ぎゅっとこちらからも抱きついて顔をすり寄せた。

 とく、とく、と力強く打つ心臓の音が、耳を当てた胸板から伝わってくる。それが気持ち良くて、もっと聞いていたくて、すりすりと鼻先を胸に擦り付けた。

 嬉しいのと、尻尾がぶるぶるするほど心地良いのが堪えきれず、甘い吐息が漏れた。

「お腹は満たされましたか」
「うん」
「……心地よさそうですね」
「ん、きもちい」

 首と喉のあたりをやわやわ擦られると、『んんっ』と甘えたような声が漏れた。ピンと立てた耳の中に親指を入れられて優しく引っ掻かれたらビクッビクッと腰が浮いてしまうくらい気持ち良い。
 はあはあ息を乱しながらぎゅっと相手の着物を握り締めてしまった。

 エンジュの手は狐の気持ち良いところをおさえていて、すぐうっとりさせられてしまう。びび、と尾の先まで痺れるみたいな気持ち良さが何度も走り抜けた。

 キュウ、と喉奥から獣の声が漏れてしまう。人型なのに獣声が出るのは、本能丸出しでとてもみっともない事だ。妖狐の常識では赤子が幼児しかしない。

 だからこんな事になってしまうのは、とても恥ずかしい。でも気持ちいいからやめて欲しくない。それを言ったらエンジュは人払いをしてくれるようになったけど。あまりにも気持ち良すぎると勃起もしてしまうから、程々にして欲しいな。

 とは思うけど、すでに腰くだけでとろっとろにさせられていた。
 
「ぁ、ふ、……えんじゅ、なでて……もっと撫でて、えんじゅ」
「そんなに蕩けた声で誘わないでください。撫でているだけでしょう?」
「だって。き、もちぃ……んんっ、……漏れちゃう……ッ」
「それはいけません。移動しましょうか」

 ふわっと持ち上げられて、食事のための部屋から別の小部屋へ移される。

 実は嬉しくなりすぎて心地良さが一定量を超えると、漏らしてしまうことが判った。
 昨夜、何度か快感に喘ぎながら粗相をしてしまったので、早めに助けを求めることにしたんだ。

 ちなみにエンジュの逸物も冬青と同じくらい大きかったので、オレの中には当然入らなかった。オレが一方的に奉仕されて可愛がられただけだ。口淫もさせてもらえなかった。

 子どもみたいに抱き上げられて入った部屋は、『貴人はこの部屋で用を足すのですよ』と言われて昨日も連れて来られた場所だ。
 陶器の平たい器にさせられたり、筒のようなものに出したりした。里では野原や茂みに行って用を足していたので、あまりの違いに最初は戸惑った。エンジュの介助が要るなら、ずっと見られてしないといけない。

 そういえば冬青の屋敷にいる時は、普通に庭に飛び出して茂みに隠れてしていたけど、アレはもしかしてやっちゃいけない事だっただろうか。

「お手伝い致しますので、どうぞハル様」

 イヤとは言えない状況だった。にっこりしたエンジュにあの筒を取り出されて、着物の裾を持ち上げられる。オレは頬が熱くなるを感じながらこくんと小さく頷いた。


      ‡

「クズノハの子孫である三つの家はそれぞれ当主候補を立て、その中から一門の当主が選ばれます」

 オレを限界まで気持ち良くして、キュウキュウ鳴きながらお漏らしまでさせてしまうエンジュは、部屋に帰るとキリッとした顔でお勉強を始めた。オレがここの事を知りたいって言ったからだ。
 しかしオレはまたエンジュの膝の上で、卓に広げられた家系図や本を見つめていた。文字は読めないのでエンジュが読み上げてくれる。
 でもなんで膝の上なのか?聞いたら同じ方向から図を見るためだと言われた。

 ……横に座るんじゃダメなんだろうか。でも今更言えない。

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