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四話-01

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 風呂で疲れ果て、ぐったりとしたまま部屋に運ばれる。
 きぬが布団を敷いて待っていてくれた。
 オレは一瞬だけそちらを見て、ぎゅっと目を瞑り顔を背けた。
 いま、きぬを見ると悲しい気持ちになる。あの笑顔が偽りだったと知った時の衝撃が、まだ抜けていないのだろう。

 なんの躊躇いもなく妖魔に害ある武器を手渡した人間だ。地面に這いつくばるオレに、さきほどまでと代わらない笑顔で話しかけてきた。そんな相手を信用できるはずがない。

「ああどうか泣かないでくださいまし。わたくしには命令の優先順位がございますが、決してハル様の敵ではございません」
「そうだ、ハル。きぬに先程の行為を許したのは俺だ。……イブキのおかげで早めに印を付けねばならんと気付いたからな」

 布団に降ろされてもぼたぼたと涙を零しているオレに、困り顔の冬青がずいっと近づいてきた。きぬに一旦部屋から出ているようにと指示を出し、オレを抱き上げて膝に乗せてしまう。
 さっきの行為中とは逆で、オレは冬青の方を向いて座っていた。目の前には着物のはだけた胸があり、少し顔を上げると薄く髭の浮いた顎が見える。

「ハル。まずは説明からだ」
「……うん」
「目覚めた直後は腹ごしらえと休息を優先した。だが、イブキのようなヤツにまた絡まれるとも限らない。だから急いでお前を一族に『お披露目』しなければならなかった。ハルは俺の眷族で、手出し無用だと」
「けん、ぞく……」

 俺の耳はまだ中途半端に銀の髪から覗いたままだ。冬青はそこにすりすりと顔を寄せて、心地よさそうにため息をついた。すう、と近くで息を吸われてくすぐったい。

「眷族とは、人と友好関係を結んだ妖魔のことだ。過去、クズノハという妖狐が俺のご先祖と縁を結んだ」
「……」
「ハル。おそらくお前の母君のことだ」
「は」

 思わず声を上げて冬青の着物を掴んでしまった。ぎゅう、と握り締めた布にシワが寄る。

「ハルは成体になるまであと一年と言ったが、基本的にこちらと妖魔の里では時間の流れが違うのだ。三百年前、俺の祖先に嫁いだクズノハは、家門の男三人とそれぞれ子どもを作りここに置いて行った。そして最後、追っ手から逃れ我が家を離れる時には、クズノハの従者だった退魔師の男と寝て、お前を腹に抱えたまま妖魔の里に連れ戻されたんだ」

 話す相手を瞬きもせず見つめていると、一瞬言葉を止めた冬青がちゅっと俺の口を吸ってきた。

 そういうのはいいから早く話せ。

 手の平でぺしぺしっと軽く頬を叩くと、ふにゃっと嬉しそうな顔をしてオレの手を握る。
 だからそうじゃない。

「それぞれクズノハの血を受け継いだ者は、親族一派をまとめ三つの家門を作った。その中の一つが俺の家だ。クズノハが生きていれば、また妖魔の里から逃げ出して此処に戻って来るかもしれないと、昔のままの屋敷を維持している。ハル、お前はあと一年で成体と言ったが、何歳なんだ?何年、季節の移り変わりを妖魔の里で過ごした?」
「オレは……かあさまと冬越えをしたのが六回。かあさまが死んでからは、十一回の冬を越した」
「死んだのか。クズノハは」
「かあさまは、オレを生んだあと妖力が衰えて……死んだ」


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