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番外編①

【雨の日】3

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 ニッ、と唇の端をつり上げたヴィンセントは、そのままクロードの尻を引き寄せると一気に貫く。パンッと肌の触れ合う音が響いた。立て続けに何度も、激しく打ち付ける音と、濡れた粘膜の擦れる水音が続く。

「っ、……ぁ、ふっ、……ッ、く、……ぁ、ひ、ぅっ……」

 蹲り、ろくに声も出ないまま絶頂をくり返すクロードが悩ましげに腰を揺らしている。恐らく無意識なのだろうが、ヴィンセントは煽られたように唇を舐めてさらに責め立てた。奥を探ると、とっくに口を開けた結腸までずぷりと先端が埋まる。そこを軽く揺さぶるだけで、クロードは掠れた悲鳴を上げて仰け反った。
 はあッ、はあッ、と荒い息を零す口の中に指を差し入れ、かき回す。クロードは従順にヴィンセントの指を受け入れ、優しく丁寧に舐めて、ジュッと吸い上げた。

「……」
「あっ、や、……やめ、な、いでッ」

 不意に、ゆっくり引き抜かれていく下肢の感覚にクロードが声を上げた。しかしヴィンセントは宥めるようにクロードの背を撫で、腰を軽く撫でてクロードの身体を横倒しにする。そのまま片足だけ肩に担いで再び深くまで貫いた。

 一気に深い場所まで貫かれて、クロードは息を止めた。その唇が再び息を始める前に何度も貫き、引き抜いて、また奥を突き上げる。しまいには結腸にハメたままぐりぐりとなぶるように先端を動かしたら、クロードはガクンと気を失って潮を吹いた。

 貫いていた性器を引き抜くと、こぽりと白濁が溢れ出てくる。人間の精液とはだいぶ違うが、見た目だけはそれっぽく出来ていた。これから世界樹の種の産卵が始まるはずで、ヴィンセントはこれ以上の行為は控えることにした。

「……長雨は嫌いなんだ。余裕なくてごめんな、クロード」

 ヴィンセントはぽつりと小さく呟いた。クロードの身体を丁寧に拭いて汚れていない敷物に寝かせると、上掛けをかけて横に寝転ぶ。


 クロードが眠りについている間、ヴィンセントは気の遠くなるような時間の中を生きていた。いつか目覚めると信じていればそれほど辛い事ではなかったと、今ならそう思えるが、当時はどうしてもイヤで苦しくて堪らない時があった。

 雨の日だ。あの静かな雨音を聞いていると、他に何も聞こえずクロードの気配さえ覆い隠されていくようで、ゾッとした。
 雨の匂いも嫌いになった。ああ、ひと雨来るなと思うと気が滅入る。

 可能な距離なら世界樹の森に戻って、眠るクロードの傍でぴったりくっついて眠った。気鬱なんてものに今まで縁が無かったヴィンセントは、『そろそろ気が狂ったのか』『末期か?』とも思ったが、からっと晴れた日にはいつも通りだったので、雨のせいにすることにした。


 だから雨の日のヴィンセントは、いつもの平静を保てなくなる。
 ちいさな触手達もそれを知っているので、守るように、囲うように、彼らを覆い隠して世界から断絶させた。ヴィンセントが安らげるのはクロードの傍だけだ。それがテンタクルボール達の共通認識だった。

「ヴィンセント……?」
「おはよ。ごめんな、無理させて」
「いや、……き、気持ち良すぎて、こちらこそ、その……ッ」

 赤面して口籠もるクロードを抱き締めたヴィンセントは、腰を抱き寄せたまま相手の背をゆっくり撫でた。は、は、と息が短く浅くなっていくクロードの様子で産卵が近いと察する。腕の中に抱き寄せて尻を掴み、やんわり揉みながら左右に開いた。

「ぁ、ふっ、……ぁ、ぁ、んッ……く、ぅっ」

 クロードが無意識にかヴィンセントの頬に顔をすり寄せてくる。耳元で、腰にくる色っぽい声を聞かされてヴィンセントは奥歯を噛み締めた。
 広げていた尻に力が入り、ぷくりとアナルが膨らみ世界樹の種が見え始めた。とろりとした白濁を滴らせながらゆっくりとせり出してきた種は、一番太い部分が抜けると難なく敷物に落ちる。
 ころころ、と転がりかけた種を触手達が拾って水洗いしていた。

 それを目で追っていたクロードは、不意に強い腕に抱き寄せられて瞬きした。ヴィンセントが甘えるようにクロードを抱き締めて離さない。不思議がりつつもヴィンセントの背をトントンと軽く叩いて、クロードも抱き締め返した。

「ヴィンセント」
「……うん」
「雨の日がどうかしたのか」
「――聞こえてんのかよ」

 ガバッと起き上がって頭を抱えたヴィンセントに、クロードは微笑みながらすり寄った。片膝を立てて座るヴィンセントの肩に腕を回して、傍らでこつりと頭をぶつける。精神感応がある二人は、ヴィンセント側に防御がなければいつでも思考が重なってしまう。いつもなら鉄壁のガードを誇るヴィンセントの『内部』が、先程大きく揺らいだ。だからクロードにも、深い孤独と冷たい絶望が伝わってきた。

 それは胸を引き絞られるような苦しさで、クロードはどうにかしてヴィンセントを抱き締めたくて、目が覚めたのだ。

「なんで長雨が嫌いなんだ? 聞かせてくれないか」
「……聞いても別に面白くないぞ」
「それでもヴィンセントのことなら知りたい。……ダメか?」

 相棒ならば並び立つ間柄だ。どちらかが寄りかかるのではなく、支え合うのが普通だろう。
 クロードはヴィンセントの額に祝福をこめた口付けを送り、冷たくなったその手を両手で温めた。躊躇うように言い淀んだヴィンセントの口が、柔らかい口付けで一度塞がれる。
 
 見上げたヴィンセントの目の前には、金髪に縁取られた白い頬に、柔らかい微笑みを浮かべたクロードがいた。

 何かを隠し通すなど、全く思い浮かばないような神の姿だ。ヴィンセントは深いため息をついて、伴侶の押しに負けて洗いざらいぶちまけることになった。



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